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「どうでもいいが、三人同じ部屋なのか」
倫太郎がかなり広いが仕切りのない室内を見回した。
まだ駄菓子屋に飛ぶまで時間があるので、少し横になろうという話になったのだが、誰が何処に寝るのか悩む。
宿の人はなにも考えずに、三枚並べて敷いてくれていたのだが――。
「入口とかトイレとかがあるとこ、広い廊下がありますよね」
壱花がそちらに続く襖を見ながら言うと、倫太郎が、
「……俺たちにそっちで寝ろというのか。
板張りだぞ」
と言ってくる。
「いや、私が寝ますよと言ってるんですよ」
男二人に女一人だ。
人数が多い方が広い部屋に寝るべきだ、と壱花は思う。
「そもそも、いくら広い廊下とはいえ、布団を横に二枚は敷けないので、縦一列、縦列駐車みたいになって寝るの変じゃないですか」
っていうか、夜中にトイレに行くとき、踏みそうです、と壱花は訴える。
「一応、女なんだから、お前、こっちで寝ろ。
枕返されるかもしれないが」
そう倫太郎は言うが、
「あの、別に最終的には、私、社長のところで寝てるので、どっちでもいいです」
と壱花は言った。
あっ、そうだ。
そんなことより、浴衣で駄菓子屋に飛んだら、祭りかと思われるな、着替えなくちゃ、と壱花は思う。
あと、草餅、草餅っ、と壱花は草餅を荷物のところに取りに行った。
「ま、横になるだけだから、このままでいいか。
壱花、一応、少し布団離せ」
と言いながら、倫太郎が、襖側に布団を引っ張っていってくれる。
それぞれ布団に横になり、明日の資料を読み込んだり、手帳を書いたりしていた。
閉めている障子の向こうから、時折、風にあおられて揺れる竹の音が聞こえてきたりして、なかなか風流だ。
この間の嵐山を思い出すな、と思って顔を上げたとき、それが視界に入った。
床の間の隅に、古い木の箱がある。
「なんでしょう、この箱。
昔の銭箱みたいな」
銭箱は木製の金庫のようなものだ。
「銭でも入ってるんじゃないのか?
投げてみろ、壱花」
「箱をですか?」
「……銭に決まってるだろ」
そういえば、昔、そんな小説やドラマがあったらしいですね。
いろんなものにあのキャラクター登場してくるので、実在の人物だと思っていましたよ……。
そんなしょうもない話を倫太郎としている間、冨樫は寝て天井を見てみたり、起き上がって枕を見てみたり、ゴソゴソしている。
「なにしてるんだ? 冨樫」
と倫太郎が訊いた。
「いえ、枕返しはいつ現れるのかなと思って」
「……寝ないと無理じゃないのか?
知らない間に、枕返されるんだろう? 枕返しって。
見たいのか?」
「いえ。
ああでも、せっかく泊まったんですしね」
と冨樫は言う。