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長く、同じような道ばかり続く高速のせいでうとうとしていたが、急に視界が開け、海が現れると、麗は思わず歓声を上げた。
明彦にやっと互いに時間ができたからとドライブに誘われたのだ。
「海やー! ねえねえ、明彦さん、いい加減どこ行くか教えてぇや。海の幸食べられるん?」
眠気は吹っ飛び、麗の頭の中はテレビで見た名物ばかりが浮かんでくる。
魚は勿論、ご当地ラーメンもいいかもしれない。
海岸線を走る明彦の車はスイスイ進んでいく。
FMからは流行りのノリのいい曲が流れ、麗のテンションは最高潮に達し、歌詞もよく知らないまま鼻唄を歌った。
「んー、食べたいなら、昼はそうしようか」
運転をしている明彦は眩しいのか、サングラスをかけている。
黒のポロシャツにベージュのチノパンというラフな格好だが、イケメンは所詮、何を着てもイケメンだ。
明彦には、今乗っている高級な日本車は勿論マッチしているが、外車のオープンカーの方がより似合うだろう。
しかし、如何せん横にいる女が、ママチャリが似合う女の麗である。オープンカーならば視線と太陽光を浴びるだろうから、現状に不満はない。
因みに、実は自転車を上手く漕げないのは秘密だ。運動神経が悪いからだろう。
「それで、結局どこ行くん?」
「着いたらわかる」
「えーーー」
ドライブに行く前から聞いているというのに明彦は一向に行き先を教えてくれず、麗は唇を尖らせた。
その間にも車は再び山道に戻り、高速を出た。
すると、眼前に迫るような大きな看板が現れ、麗はこれから行く場所について、一つの可能性にたどり着いた。
更に、山頂に現れたパンダやその他の動物がリアルに描かれた駐車場の入り口で謎は全て解けた。
目的地の動物園についた。
車から降りると、明彦がチケットを出してくれた。あらかじめ買っておいてくれたのだ。
麗の分はかわいらしいパンダの写真が印刷されている。
(あれ?)
明彦が持っているチケットは麗のとは違いカード型だ。
しかも、明彦の顔写真が印刷されている。
そう、年間パスポートである。
麗の視線に気づいた明彦がそっと、沢山のパンダの写真の中央で微笑みを浮かべた顔写真がしっかりと印刷された年間パスポートを隠した。
「時々、煮詰まった時に、たまに、ドライブがてら、まれに来るんだ」
明彦は真っ直ぐと前だけを見ている。
多分、アーケイドの向こう側、視線の先にはパンダがいるのだろう。
「……そっか」
台湾に行った時にパンダを見に行きたいと、言ってあげればよかった。
元カノの影響でパンダに詳しいのかなと思っていたが、明彦はただパンダが好きなだけだったのだ。
そういえば、明彦のマンションにはパンダの写真の方が暦より大きいカレンダーが飾られているのだから。
(気づこうと思えば、気づいてあげられていたな。ほんと、私って周りが見えてなかった)
いつもよりちょっと早足で歩く明彦を見上げながら、麗は反省したのだった。
そうして入園してすぐの坂を下ると、「ここにパンダがいます!」とわかるくらい人だかりができていた。
当然、明彦は人だかりに参加したので、麗もついていった。
「思っていたより大きい!」
目前にいるパンダは、縦は麗と変わらないくらいの大きさで、横幅は麗1.5人分くらいあり、のっそのっそと歩いている。
なるほど、パンダは熊なのだ。
しかし、仕草までもが何ともいえず愛らしい。単純に熊を白と黒に毛染めしてもこんなに可愛くはならないだろう。
ここで、いつもなら明彦の蘊蓄がくるかなと麗は思っていた。しかし、一向に始まらない。
麗は横にいる明彦の顔をちらりと見た。
目が輝いている。
麗の言葉など耳に届いていないようだ。
とても幸せそうだったので、麗はスマートフォンで明彦の横顔と寝転がるパンダのツーショット写真を撮ってあげたのだった。