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ブクマ失礼します!最高です‼️
【 1話 】
※首/絞め表現、洗/脳表現あり
※未来捏造。二人暮らししている設定
※ばっどえんど?彼ら目線だとはっぴーえんど路線かも
「潔、お前それ絶対可笑しいぞ?あれだろ、DV彼氏だろそれ」
「は、はぁ~…?そ、んなことあるわけねーだろ?」
ドイツ・ミュンヘンのお洒落な感じのカフェに、赤髪の男と黒髪の男が仲良さげに話していた。最近注目を集めているプロサッカー選手の二人のようで、カフェの店員や客も、その二人の会話をまじまじと聞いていた。変装をしているのにも関わらずばれてしまうのは、それ相応のオーラなのだろうか。
はぁ~…とため息を少々。お洒落なファッションに身を包んだ、昔よりも少し背の伸びた彼___千切豹馬は、グビッ…とアイスコーヒーを人飲みすると、潔世一を指差す。
「大体な~…首絞めが愛情表現なわけねーだろ!潔、お前洗脳されてるんじゃねえの?」
「んなわけないだろ!?洗脳とか俺が効くわけないじゃんか」
「いーや、お前はかかるね。」
「なんの根拠にだよ??」
はぁ、と今度は潔がため息をついた。
自身の好物であるホットココアを一口飲み、もう一度千切の言った言葉を否定する。そんな潔に、千切の不安はますます増えていく一方だ。
ことの発端は、千切が”恋ばなしようぜ!”と話を切り出したことからだ。千切には生憎恋人は居ないが、いっちょ前に好きなタイプを暴露していく。潔の番になった時、同じプロサッカー選手である恋人”糸師冴”のことを話してみると、DV彼氏かよ!となり、今現在となる。千切なりに本気で心配しているのだ。それは潔もわかっているが、信憑性がないと見なして否定ばかりを繰り返す。
「冴はああいうのでしか愛情表現ができねーんだよ。だから、それを俺が受け止めないと」
「…あーわかった、その愛情表現は認めるけど…
そんな愛情表現しか出来ない奴はやめとけ??」
「大丈夫だっての、冴はそんな危険なことなんてしないし…それに、受け止めたいって気持ちも俺にはあるから」
「はぁ~……後悔しても知らないからな。
…でもその愛情表現、狂ってるからな。覚えとけ」
“もういいや”と諦めたように何度目かの溜め息をつくと、また違う話題に切り替える千切。
“大丈夫”と何度も言っていた潔だが、少し…ほんの少しだけ、冴と自分との関係性は変なのではないか、と黙々と考えていた。
「じゃーな潔、楽しかったわ。んじゃ、またオフシーズンで」
「おう。元気でな千切。」
あの恋ばなから、約2時間が経過していた。もう千切も明後日試合のため、早く飛行機に乗って帰らないといけないらしく、学生時代のように夜まで遊ぶことなんぞできなかった。夕焼けが千切の赤髪を照らす。ひらひら、と右手を軽く振る千切。潔もそれに釣られて、同じような仕草をする。それをきっちり確認したあと、無表情な彼がにこ!と元気に笑って、はタクシーに乗った。
ぶるっ、と身震いをした後、自身の携帯を取り出す。ラインを開くと、何百件も誰からか連絡が来ていた。マナーモードにしていたから気づかず、電話も何十回も来ていた。誰だろ、と考えなくても、相手は誰かわかった。
「うお…冴、すごい連絡きてる……」
心配させちゃったな、なんて…ボソッと一人呟く。
すぐに彼からの連絡を全部チェックした。
『どこだ』『おい』『今どこにいる』
似たようなことを何百回も書かれていて、流石の潔も苦笑いする程だった。だが、何回も経験している潔にとっては、もう慣れっこだったけれど。
既読にして潔から『千切とお茶会してた。◯◯カフェに居るところ』と連絡すると、またすぐ連絡が来た。『どこだ』、『迎えに来る』など……慌ててメッセージを打っているのか誤字をしている文章もあり、ふはっ!と一人笑った。夕焼けの光が潔の頬を優しく撫でるように光が当たる。
数分待ってみると、こちらに向かってくるタクシーがあった。見覚えのありすぎる赤髪に、綺麗な容姿。俺を見つけるや否や、俺の目の前でタクシーが停まった。
「おい、世一、乗れ。説教は家に帰ってからだ」
「え、えぇ…?…わ、わかったよ、冴」
しぶしぶと了承して、タクシーに乗り込む。
冴がドイツ語で冴家の住所を言うと、すぐにタクシーはそこに向かって走っていった。
「……………つ………い…………着いたぞ、世一」
「…んぅ、?ぁ、」
気がついたら、寝てしまっていた様だ。ぽわ~…とまだ頭が働いていない。”うん”とだけ返事して、冴にエスコートされるようにタクシーを降りた。見知った冴家___元はというと、潔のために用意した高級マンションの最上階だが。頭が働いていないのか、ふらつく潔を冴が抱き締めるように支えた。
「おい、危ないぞ。」
「んぅ…はあい…」
でも、冴がおれのことささえてくれるから、いいでしょ?
なんて付け足しながら、んふふ~…と寝ぼけて冴に甘えるように抱きつく。そんな潔に、冴は苦しくなるほど抱き締めた。苦しそうな声が聞こえるが、ぎゅーっ…と数秒抱き締めると、眠そうな潔を姫様だっこしてマンションの中へ入っていった。
「ん…ご、ごめん、寝ぼけてた…つい、た?」
気がつけば、自身の家のソファーで眠っていた。
記憶を頑張って遡ると、冴に支えてもらって、お姫様抱っこしてもらって…それでまた寝ちゃって…
潔は、記憶を打ち消したくなるほど過去の自分に呆れた。ぶっきらぼうに潔の背中に着させてあった、暖かい毛布に少し暑苦しいと感じながらも、これも冴の優しさなんだと思って一人”ふふ”と笑った。
「……起きたか」
「…あ、う、ん。ごめん、寝ちゃって」
自分の好物であるココアを片手に、冴はキッチンから顔を出した。むす、とした顔つきから見て、多分怒っているのだろう。ひぇー!と潔は思った。怒ると冴は色々と激しいのだ。でも怒らせてしまったのは自分の責任なのでしょうがないことだ、と片付けた。自分が寝っ転がっているソファーの横のテーブルに熱々のココアをコト、と置く。冴は床に座り、むすっとした顔つきで潔を見つめた。
「…で、なんでてめえはあんなゴミと一緒に居たんだよ」
「んなっ…その…久しぶりに二人ともオフシーズンだったら…ゆっくりお茶でもしねぇ?ってなったんだよ」
理由をきっちり説明したつもりだが、生憎、自身の恋人は納得が言っていないらしい。さっきよりも顔をむすっ!とさせ、こめかみがピキッ…となっていた。
「はあ?俺を差し置いてか?」
「ごめんな?ごっ…ごめんってば。夜はゆっくり二人っきりで満喫…できるだろ?な…な?だから、そ、そんなに怒らないでくれ、悪かったから」
着々と整った顔を近づけていく冴に、潔は少し距離を置こうとした。両手を冴に向け、ごめんごめんと必死に謝る。その姿にまぁいい、そう言って一回満足したのか潔から少し離れた。ふう、よかったあ…とボソッ、と呟くと、ギロッ…と冴がこちらを向いて潔を睨んだ。地獄耳の持ち主なのか、と疑ってもいいくらい小さい声の筈だったのに。
潔はまた冷や汗をタラリ…と流した。また冴が身体ごと潔に近づく。今度はなにされるんだろう、と思い内心ビクビクしていた。だが、細いが少し鍛え上げられた冴の手が、潔に近づくだけだった。
よかった~、とまた安心した潔だったが、冴の手はまだ止まらない。なんでだろ、と思いつつその手の仕草をまじまじと見つめていると、自身の首ら辺でその動きは止まった。
___首を絞められたのだ。強烈な痛みと苦しさが襲いかかり、くるしい、くるしい、と声をあげる。その声は冴に届いている筈なのに届いていないみたいに無視をされた。無意識だろうが、その声を聞いて冴の口角はあがっていた。
「ぅ…あ゛っ……ぐ、るし」
「…なあ、俺は心配したんだぞ。何回も何回も電話して連絡をしたのに出てくれない。なぁ、俺はお前を愛しているんだ。俺に心配をさせるんじゃねぇ」
「……ぁ…ひ……ごめ、なさ」
「久しぶりの二人とものオフなのに、俺を差し置いて…俺を愛してくれていないのか?なぁ」
「ちが、ぅ……すき、すっ……ぁ、あいして……る」
「……そうか」
パッ、と冴は潔の首から手を離した。絞めていたところが赤くなり、とても痛そうに見える。過呼吸状態になっている潔を抱き締めて、耳元に近づく。”愛してる”と囁くと、潔は嬉しそうに”お、れも”と呟いた。
今は深夜2時。さっきまで激しくしていたのが原因なのか、冴は潔を抱き締めながら眠っていた。幸せそうな寝顔を見て、潔はふふっ、と笑った。
『でもその愛情表現、狂ってるからな。覚えとけ』
最後に、千切がそう言っていたのが脳裏に浮かぶ。
でも、そんなわけないよね。と潔は本当にそう思った。
「だって、これが冴なりの愛情表現なんだもん」
「苦しいし痛いけど、最後は”愛してる”って囁いてくれる」
「だから、そんな冴が俺は____愛してるんだ」
人にとっては、このアイジョウは狂っているのかもしれない。
だが、これが……冴なりのアイジョウだと、潔は呟いた。