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ガルルルルッ!
「ギャアアッ!」
恐怖に慄く人相の悪い青年は後ろに退いた。
その瞬間、青年のポケットからカードが落ちる。
目もくらむような光が3人を覆った。
次に視界がクリアになったときに映った光景は…
ニャアッ!
「猫?」
その場にいた全員が同じ事を思った。
毛並みフサフサのお目目クリクリの子猫がカードの上に鎮座していた。
「俺のカードに猫はいねえよ!ウフフフフッ!」
人相の悪い青年は不気味に微笑んだ。
「そこで笑い声付け加える必要性あるのか?」
「なんだよ。俺のアイデンティティは不気味系に重点を置いてるんだ」
「はあ。そういうもんですか」
貴族青年Dは妙に納得した。
一方のセイは、
「なるほど。カードゲームの絵柄の具現化か。さすが、カードゲームの世界だね」
と能力の方に興味が向いていた。
「いや、だから俺のカードに猫はいない」
「なんだよ。それ…うらやましい」
俺だってそんな主人公ぽい能力がよかったと貴族青年Dは心底思った。
「だから人の話を聞けよな!」
不気味に笑う人相悪めの青年の心の叫びに反応するようにワームドは再び活動し始めた。
そのターゲットは召喚された猫へと向かっている。
ニャアアッ!
ガルルルル!
今まさに世紀の一戦を迎えるのであった。
ドドドドドッン
先に動いたのはワームドだった。高く飛び上がった巨体は子猫に向かって真っ逆さまに落ちる。
さあ、子猫はどう反撃するのか!
ベチャッ!
子猫ちゃんはあっけなくモンスターに踏みつけられた消えてしまう。
「可哀そう…」
貴族青年Dには悲壮感が漂っていた。
こんなに胸が締め付けられるなんて…。
「ごめんよ。俺がふがいないばかりに…」
人相の悪い青年はカードを抱きしめている。その目には涙がにじんでいる。
ああ、なんて感動的なシーンなんだ。
モブなのに。
モブなのに…。
「ワームドの動きが止まってるよ。今がチャンスだ!」
セイは貴族青年Dの体をワームドに向き直らせる。
今ならできる気がする。
「モブアタック!」
バッチリと視線が合わさるワームドと貴族青年D。
「モブって…もっといいネーミングなかったのか?ウフッ!ダサい」
「うるさい!」
全く、あったばかりの人間に対して失礼な奴ばっかりだな。
憤慨する貴族青年Dをよそにワームドの抑揚のない赤い目と青い肌はほんのりと火照りだす。そして、大きな音を立てて、
「モンスターが消えた!」
人相の悪い青年のつぶやきにより危機が去った事を知る。
「成功したのか?」
「うんうん。ナイスコンビネーションだったね」
セイはやり遂げたと言わんばかりに喜んでいる。
「いや、共闘感なんてどこにあった?
」
貴族青年Dは冷静に返した。
そしてお互いを見合わせて笑った。
和やかな空気が流れる。
だが、やはり危機は突然訪れる。
空が暗闇に覆われたのだ。
見渡せば建物が倒壊を始める。
人と呼べる者は猫を召喚したこの青年だけだ。
「早く出ないと危ないよ!」
セイは貴族青年Dの手をつかんだ。
「君も来い!」
貴族青年Dは迷わなかった。
人相の悪い…不気味系がつく青年の腕を掴み引っ張り上げた。
「おい!なんなんだよ」
人相の悪い青年は暴れていた。
だが、貴族青年Dは手を離さなかった。
「どうやって脱出するんだ」
セイを見上げていた。
「飛ぶ」
「はあ?」
「行くよ」
膝に力を入れるセイ。
力をため終わったのか、彼の口角が上がるのがわかる。
その瞬間、3人と一匹の体は金魚鉢をこぼしたように外に放り出されていた。
コイツ絶対にモブじゃねえ。
貴族青年Dはセイへの疑惑を膨らませた。
しかし、今はそんな事どうでもいい。
再び底なしの海に落ちる衝撃に備えなければ…。
しかし、予想に反して床のあるものにぶつかりさらに痛みは増した。
どうやらいかだのようになっている物語の断片部分に下り立ったようだ。
しがみつくようになったそれは鏡のように物語の世界が映り込んでいる。
なんだが、その上に乗っているのに罪悪感がわいてくる。
辺りを見渡すと同じような状態の人相悪めの青年と底なしの海から顔を出すセイの姿を確認できてホッとした。
さっきまでいた世界が水のような濁った場所へと降り注いでいる。
「やっぱり、世界は崩壊するんだな」
貴族青年Dは落胆した。
「どういう事だ!」
人相悪めの青年は見た目通りな感じに騒ぎ出した。
「まあ、そういうノリになるよな」
貴族青年Dはこの青年に同情する。
セイは貴族青年Dのいかだにつかまって、
「実はね…」
事の次第を話し出したのであった。