元貴は何も言わずに、ただただ滉斗の言葉を噛み締めるようにそっと涙を拭った。
「…僕も、滉斗のこと好き、すきだよ」
元貴の声は、震えていた。その言葉が滉斗の胸に、深く温かく響く。滉斗は、元貴の手を更に強く握りしめた。
「でもね、僕……玲司のことも大切なの。幼い頃から仲良くしてくれた親友で、頼れる人で…」
元貴の瞳には迷いが宿っていた。組の頭として、強く生きなければならないという責任感と、滉斗という存在に甘えたいという、心の奥底にある欲求。
その二つが、元貴の中で激しくぶつかり合っていた。
「そんなの、両方でいいんじゃない?」
滉斗は、迷うことなくそう言った。元貴は、きょとんとした顔で滉斗を見つめる。
「俺は、元貴の若頭としての強さも、一人の男としての弱さも、全部含めて好きになったんだから。…俺の前でだけ、弱くていいんだよ。それに、元貴が強くなりたいって思うなら、俺がちゃんとその支えになる。」
滉斗の言葉に、元貴の瞳から、再び涙が溢れ出した。それは、滉斗の優しさが、元貴の心に深く沁みこんでいくのを感じたからだった。
「…滉斗」
元貴はそう呟くと、迷いを捨てたようにゆっくりと立ち上がった。その表情は何処か意地悪そうで、しかし幸せに満ちている。
滉斗が呆気に取られていると、元貴は滉斗の顔に両手を添え、唇をそっと重ねた。
そのキスは、いつかの朝食の場でした、悪戯なものではなかった。優しくて切なくて、そして確かな愛が込められていた。
滉斗は元貴の柔らかな感触に、そっと目を閉じ、その心地良さを堪能する。自然と滉斗の手は元貴の腰へと滑り、その細い腰を優しく支える。
キスが終わると、元貴はすっきりとした晴れやかな顔で微笑んだ。
「ねぇ、滉斗。玲司が言ったこと、もう一度聞きたい?」
元貴の言葉に、滉斗は首を傾げる。
「…『君は元貴の孤独を埋めるんじゃなく、利用しているだけだ』って…」
元貴はそう言って、フッと笑った。その顔は、もう迷いの色など微塵もない、若頭としての威厳と、滉斗への深い愛情に満ちていた。
「あれ、違うからね。僕の孤独を埋められるのは、滉斗だけ。僕を、僕のままでいさせてくれるのも、滉斗だけだから。」
元貴はそう言うと静かに、そしてはっきりと続けた。
「だから、もう、誰にも渡さないからね」
元貴の瞳が何処か意地悪く、でも真剣な光を宿している。それは、滉斗への独占欲と、この関係を誰にも壊させないという、強い決意の表れだった。滉斗は、元貴の言葉に、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
滉斗はその事実に喜びを感じながら、目の前の元貴に堪らなく愛おしい気持ちを抱いていた。
その瞬間、中庭と廊下を隔てる襖がスッと開いた。立っていたのは玲司だった。彼は、元貴と滉斗の間に流れる、密やかで、そして確かな空気を感じ取ると、顔を歪めて逸らした。
「…元貴」
玲司の声は静かだった。元貴は玲司の気配に気づき、滉斗の手を離すと、ゆっくりと玲司の方を向いた。
「…玲司。ごめん、話が長くなっちゃって」
元貴が申し訳なさそうに言うと、玲司は優しく、少し自嘲気味に笑う。
「元貴が、そんな顔で俺に謝ることなんかない」
玲司の言葉には、諦めと深い愛情が滲んでいる。
「…じゃあ。」
玲司はそれだけ言うと、もう一度悔しそうに顔を歪めて、廊下へと向かった。
元貴は、玲司のその様子に少しだけ心配そうに眉をひそめる。
「玲司、」
しかし玲司は何も答えず、ただ静かに背中を向けて歩き出す。元貴はもう一度玲司に声をかけようとするが、滉斗がそっと元貴の腕を引いた。
「元貴、大丈夫。俺が玲司さんと話してくる」
滉斗は、そう言って、元貴の顔に、優しいキスを一つ落とした。そして玲司の背中を追い、中庭を出る。
玲司は、廊下の椅子に腰掛けて、空を眺めていた。その背中は、どこか寂しそうで、いつもと違う張り詰めた空気が漂っている。
「玲司さん…」
滉斗がそっと声をかけると、玲司はゆっくりと滉斗の方に振り返った。その顔は、やはり悔しさと、そして悲しみに満ちていた。
「…君、本当に…元貴を頼むな」
玲司の声は静かだったが、その中に込められた真剣な響きに、滉斗は背筋を伸ばした。
「俺は、元貴の幼馴染で、若頭になる前の、あいつの孤独も、苦しみも、全部見てきた。だから、元貴が誰にも裏切られないように、強く生きていけるように、俺はずっと元貴の傍にいるって決めてたんだ」
玲司はそう言って静かに天を仰いだ。
「…でも元貴は、君にしか見せない顔を、見せるようになった。元貴の目が、君といると本当に楽しそうで…」
玲司の言葉は、そこで途切れた。悔しくて、でも元貴の幸せを願う気持ちが、彼の言葉を詰まらせているようだった。
滉斗はその言葉に胸が熱くなるのを感じる。
「…玲司さん、俺も元貴のこと、守りたいんです。元貴こ強さも弱さも全部含めて、俺が支えたい。だから…もう、元貴さんのことを、一人にはさせません」
滉斗の言葉に、玲司はフッと鼻で笑った。
「…フン。そうか。まあ、せいぜい頑張れよ。何かあったら、俺がただじゃおかねぇから」
玲司の言葉は、まるで脅しのように聞こえるが、しかしその瞳の奥には、滉斗と元貴を見守る優しい光が宿っているように感じられる。
滉斗は、玲司の言葉に、深く頭を下げた。
「ありがとうございます。…玲司さん」
その言葉に玲司はもう何も言わなかった。ただ、静かに空を見上げている。
コメント
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(’ω’)ファッ!!?最高やねほんと(?) 続き楽しみしてます✨
んっふっふっふっふ(?) 最高すぎて涙出てきた(?) 続きが楽しみです🥹✨
玲司さん………自分が元貴の一番の理解者で元貴をずっと支えてきてきた。だけど、もう元貴には滉斗がいるって分かったとき、反抗せずに受け入れて認めてくれて、玲司さんが心の底から元貴に幸せになってほしいって思ってるんだなって分かった。切ない、、 そして今後の展開楽しみだなぁぁぁぁ!!