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QuizKnockのオフィスの一角、資料が山積みになったデスクで、田村は小さく息を吐きながらパソコンの画面を見つめていた
ここのところ、Webメディアの編集作業やイベントの企画が重なり、明らかにキャパシティを越えたスケジュールが続いていた
山本「田村さん、さっきから顔色すごい悪いですよ。大丈夫ですか?」
隣の席から声をかけたのは山本だった
心配そうに覗き込んでくる山本の顔が、今の田村には少しぼやけて見える
田村「うん、大丈夫。ちょっと、目が疲れただけだから……」
そう言って無理に微笑もうとした瞬間、鼻の奥がツンとした
風邪の引き始めのような、あるいは奥の方が急に熱くなったような、奇妙な違和感
田村(あ、れ……ッ?)
そう思った時には、すでに遅かった。ツンとした刺激がじわじわと広がったかと思うと、ポタポタとデスクの上の書類に、鮮やかな赤い斑点が広がり始める
田村「あっ、すいません、紙汚しちゃっ…」
山本「田村さんッ! ?鼻血!!」
山本が慌ててポケットからティッシュを数枚引き抜き、田村の鼻元に押し当てた
しかし、出血は想像以上に勢いが強かった
ティッシュは一瞬で真っ赤に染まり、田村の指先を伝って手首の方まで赤い筋を作っていく
山本「ちょっと待って、今もっと持ってきますから!」
山本がデスクを飛び出し、オフィスの奥からボックスティッシュをひったくるようにして戻ってくる
その間も、田村は鼻を押さえたまま動けずにいた
問題は、鼻血そのものだけではなかった
出血をきっかけにするように、頭のてっぺんから急速に血の気が引いていくのが分かった
心臓がドクドクと不規則に、そして耳元でうるさいほど大きく脈打ち始める
視界の端からじわじわと黒い靄が広がり、自席のパソコンの明かりが、まるで遠くの街灯のように小さくなっていく
山本「田村さん、これ使ってッ! ……ッ田村さん?」
戻ってきた山本がティッシュを差し出すが、田村の手はそれを受け取ることすらできなかった
指先に力が入らず、だらりと膝の上に落ちる
額からは、尋常ではない量の冷や汗が吹き出していた
田村「…あぇ、ッ僕……ぁん、かッ、上、向いた、ほぉッ、がいぃ、ッのかぁ……?」
呂律が回っていない
自分が今、座っているのか、それとも立っているのかさえ判別がつかなくなる
天井がぐにゃりと歪み、激しい目眩が田村を襲った
山本「ダメです、上向いたら血が喉に回っちゃうッ! 下向いて、顎引いて……って、田村さんッ!? 嘘ッ、ちょっとッ!!」
山本の焦った声が、まるで水の中にいる時のように遠く、こもって聞こえる
ガタンッ
椅子が大きく後方にのけぞる派手な音が響いた
それを認識した瞬間には、田村の身体は重力に逆らうことをやめ、糸が切れた人形のように、床へと崩れ落ちていた
山本「田村さんッ!! しっかりしてくださいッ!!」
オフィスの冷たい床の感触を背中に感じたのを最後に、田村の意識は完全に途切れた
田村「……ん…ッ」
次に目を覚ました時、視界に入ってきたのは見慣れたオフィスの天井ではなかった
休憩室のソファの上だった
身体の上には、誰かの厚手のコートが毛布代わりに掛けられている
山本「あ、気がつきました?」
枕元から声をかけられ、ゆっくりと視線を動かす
そこには、パイプ椅子に腰掛けて心配そうにこちらを見つめる山本の姿があった
田村「山、本……?」
山本「動かないで。まだ横になっててください」
起き上がろうとした田村の肩を、山本が優しい力で制した
山本「重度の貧血です。鼻血はもう止まりましたけど、顔が真っ白でしたよ。倒れた時、本当に心臓止まるかと思いました」
田村「ごめん…迷惑、かけた」
意識がはっきりしてくるにつれて申し訳なさが勝り、田村は少し弱気な声で、昔からの呼び方を口にする
田村「……ありがとね、よしくん」
高校生クイズのサポーターとして出会ったあの頃から、プライベートや本当に距離が近い時にだけ時折こぼれる「よしくん」という呼び名
山本は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに呆れたような、でもどこか懐かしそうな笑みを浮かべた
山本「迷惑なんてどうでもいいです。それより、最近ちゃんと寝てました? 食事も抜いてばっかりだったでしょう……そういう無理するところ、高校生クイズのサポーターやってくれてた時から全然変わってないよ、だっしぃ」
懐かしいあだ名で対抗され、田村は思わずベッドの上で目を丸くした
田村「……だっしぃ、はズルいよ。もう何年前だと思ってるの」
山本「だっしぃが先に『よしくん』って呼んだんじゃん……ほら、これ買ってきました。少しでも飲めそうなら、ゆっくり口にしてください」
山本が手渡してきたのは、ストローの刺さったスポーツドリンクと、ゼリー飲料、それから鉄分のサプリメントのボトルだった
田村は支えられながら少しだけ上体を起こし、スポーツドリンクを一口飲んだ
冷たい液体が染み渡るにつれて、少しずつ頭の霧が晴れていく
山本「伊沢さんたちにも連絡して、今日の田村さんの残りの仕事は全部みんなで分担することにしました。だから、今日はもう何も考えずに休んでください」
田村「でも、明日の記事のチェックが」
山本「僕がやります。だから、禁止です」
山本はそう言って、田村が持っていたペンやメモをサイドテーブルに置いた
その徹底した看病ぶりに、田村は小さく苦笑する
田村「よしくんは、意外と厳しいんだね」
山本「倒れるまで無理する先輩には、これくらい言わないとダメですから。……ほら、早く目閉じて」
そう言う山本の表情は、怒っているというよりは、本当にホッとしたような、暖かみのあるものだった
田村「……じゃあ、お言葉に甘えて、少し休ませてもらうよ」
山本「はい。ゆっくり寝てください。僕、ここにいますから」
コートの温もりと、変わらない絆を感じる安心感に包まれながら、田村は再び深い眠りへと落ちていった
コメント
9件
鼻血!!!!!!!好き!!!!!!!! ありがとう、ありがとう

はい!お兄ちゃん組!!!! うぇっへへへへへ...いいねぇ(((殴 この2人、あんまり知られてないけど個人的に大好きなんですよね ちなみに「よしくん」「だっしぃ」のくだりは雑談中にあったものが尊すぎたのでそれを私の妄想で広げました。この2人好きです() そしていつも冷静(のはず)の田村サマの鼻血の貧血とかもう神でしかない() ちなみにこの鼻血からの貧血の流れは実体験です☆ マジでこれ起こったらほんと状況把握できなくなる てなわけで天然不思議ちゃんでありお兄ちゃん組の田村サマに最適かな...と(?) あと山本サマが慌ててるとこが普通に好きぃ 頑張って看病して、めっちゃ心配してるのかわいいね食べたい(((殴 ちなみにこの後オフィスに戻ってきた伊沢サマや須貝サマに説教される田村サマがいたとかいなかったとか。山本サマは常にティッシュをいっぱい持っておくようになったとかならなかったとか。
みぅです🤍🥀 第3話、読みました……。田村さんの鼻血から貧血で倒れるまでの流れ、すごくリアルで息を呑みました。特に視界が黒く染まるところ、自分も経験あるから痛いくらい伝わってきて、山本くんの慌て方も本気で心配してるのがにじんでて……。最後の「よしくん」「だっしぃ」の呼び合い、あの距離感が懐かしくて優しくて、胸がぎゅっとなりました。無理しちゃう田村さんをちゃんと見てる山本くん、いいなあ。