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鶴崎「いてっ! あ、やば、紙で指切った……! 痛い痛い痛い」
QuizKnockのオフィス、あるいは撮影の合間の控室。そんな少し大げさな声が響き渡るのは、もはや日常茶飯事だった
鶴崎は人差し指の、言われなければ見えないほど小さな傷を大げさに掲げ、顔をクシャッと歪めて見せる
周りにいたメンバーが「はいはい」と苦笑しながら絆創膏を差し出すと、鶴崎は「ありがとう〜、命拾いした」なんて言って、ケラケラと笑う
普段の彼は、ちょっとしたかすり傷や筋肉痛、ちょっと頭が痛いだけでも「いたーい、もう動けませーん」と周囲にアピールして、手厚く、あるいは適当に構ってもらうのがお決まりだった
だからこそ、誰もがその日も、彼はただの元気な鶴崎だと思っていた
――その、妙な「癖」に気づくまでは
その日は、大型企画の動画収録が数本立て続けに行われていた
スケジュールはタイトで、セットの移動やクイズの準備で、スタジオ内は常にバタバタと人が行き交っている
「鶴崎さん、次の動画の機材チェック終わったので、スタジオ入ってください」
スタッフの声に、鶴崎は「はーい、すぐ行きます」といつも通りの高いトーンで返事をした
だが、その足取りが、なんだかやけに重い
荷物をまとめていた須貝は、ふと手を止めて顔を上げた
コツ、コツ、と響くはずのスニーカーの足音が、片側だけ妙に短い
というか、引きずるような不自然なリズムになっている
廊下を歩く鶴崎の後ろ姿を、須貝はじっと見つめた
気のせいか、左足を踏み出すときに、ほんの一瞬だけ肩がビクッと強張っているように見える
須貝「……おい、鶴崎」
須貝の声に、鶴崎はピタッと足を止めた。振り返った彼の顔には、いつもの飄々とした笑顔が張り付いている
鶴崎「ん、なんですか、須貝さん」
須貝「お前、その足どうした」
鶴崎「え? 足ってどれですか。僕の足は今日も健全そのものですが」
須貝「嘘つけ。さっきから左足に全然体重乗せてねえじゃん。歩き方、めちゃくちゃ変だぞ」
須貝がジリッと距離を詰めると、鶴崎の笑顔の口元が、わずかに引き攣った
額には、冷房の効いたスタジオ内には不釣り合いな、うっすらとした汗がにじんでいる
笑っているはずの目が、全く笑っていない
鶴崎「気のせいですよー。ちょっとさっき、セットの角に小指をぶつけちゃって。ほら、小指ってめちゃくちゃ痛いじゃないですか。だからちょっと過保護に歩いてるだけです」
須貝「じゃあ、ちょっとその左足で片足立ちしてみろ」
鶴崎「いやいや、なんでそんな体力測定みたいなことしなきゃいけないんですか。時間がもったいないですって。ほら、みんな待ってますし、行きましょ」
ごまかそうと、わざと大げさに笑って一歩を踏み出した、その瞬間だった
ガクッと、鶴崎の左足首の力が完全に抜けた
鶴崎「ッ……!」
声にならない悲鳴
鶴崎の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく
バランスを崩し、そのまま床に崩れ落ちそうになった鶴崎の身体を、須貝はすんでのところでガシッと抱きとめた
須貝「おっと……危ねえ! ほら見ろ、全然大丈夫じゃねえじゃん!」
鶴崎「……ッ、痛ッ……あ、いや、すいません……」
腕の中で、鶴崎が小さく身を縮める
須貝はハッとした
大げさに騒ぐときというのは、大抵が大したことのない時だ
本当に痛いとき、本当に限界のとき、こいつは周りに気を遣わせまいと、あとことん笑って隠そうとする
鶴崎にはそういうひねくれた悪い癖があることを、須貝はよく知っていた
須貝「おい、収録一回ストップ! 鶴崎を控室に戻す!」
須貝の鋭い声に、周囲のスタッフやメンバーが驚いて集まってくる
「え、鶴崎さん!? どうしたんですか」
鶴崎「なんでもない、なんでもないですから! すぐ戻ります!」
なおも強がって自力で立とうとする鶴崎の肩を、須貝は強引に抱え込んだ
須貝「いいから黙って俺に体重預けろ! ほら、足引きずるな」
鶴崎「……すみません」
控室のソファに半ば強制的に座らされ、鶴崎は観念したようにガックリと肩を落とした
須貝が膝をつき、恐る恐る鶴崎の左足のスニーカーと靴下を脱がせる
現れた足首は、くるぶしの位置がわからないほどパンパンに腫れ上がり、赤黒く変色し始めていた
須貝「うわ……これ、相当いってるぞ。いつやったんだよ」
鶴崎「……1本目の収録の、最初の休憩のときです。階段踏み外しちゃって」
数時間も前だ
鶴崎はその間、この激痛に耐えながら、カメラの前では何食わぬ顔でクイズを解き、いつものように笑っていたのだ
須貝「痛かったろ。なんで言わねえんだよ。お前、さっき指切ったときはあんなに騒いでたのに、なんで本当にヤバいときは黙ってんだよ!」
須貝が少し怒ったように言うと、鶴崎は視線を床に落としたまま、ぽつり、ぽつりと本音をこぼした
鶴崎「だって……みんな今日のためにめちゃくちゃ準備してたし。僕がここで足くじいたなんて言ったら、撮影止まっちゃうじゃないですか。そんなの申し訳ないっていうか、かっこ悪すぎるし……」
須貝「バカか、お前は」
須貝は大きくため息をつき、スタッフがすっ飛んで持ってきた氷嚢を受け取ると、鶴崎の腫れ上がった足首にそっとあてがった
鶴崎「ひッ……! つめたッ、痛い!」
須貝「冷やさなきゃもっと痛くなるの。我慢しろ」
冷たい感触と激痛に、鶴崎はソファのクッションに顔をうずめた
張っていた緊張の糸が完全に切れたのか、途端に彼の肩から力が抜け、どっと深い疲労の色が浮かび上がる
いつもは饒舌な天才の口から、今は小さなうめき声しか出てこない
須貝「いいか、鶴崎。お前が痛がって騒ぐのはみんな慣れてるし、むしろそれで場が和むこともある。でもな、本当にヤバいときに隠されるのが、一番周りはキツいんだよ。お前が倒れたり、大ごとになるほうがよっぽどみんな傷つくわ」
鶴崎「……はい」
須貝「クイズ解くときはあんなに頭回るのに、なんで自分の身体のことになるとそんなにアホになんだよ」
呆れつつも、須貝の手は優しく氷嚢を固定していた
クッションに顔をうずめたまま、鶴崎の耳が心なしか赤くなっている
鶴崎「……すいません、須貝さん。ありがとうございました」
須貝「おう。分かったなら、今日はもう強制送還な。病院行って、家でおとなしく寝とけ」
少し強がりで、でも本当は痛みに弱くて、誰よりも周りを気遣ってしまう優しい後輩の頭を、須貝は少し手荒に、だけど温かくポンポンと叩いた
コメント
11件
好き🫶🫶🫶 うんうんうん、痛かったよね、大丈夫だよ、お兄ちゃんがいるからね、うんうん() マジで今回も相変わらず最高っすわ……

はい、いろいろ捏造しまくりっすねはい() いいんだよ私の自己満なんだから☆ 鶴崎サマは...まぁ騒ぐかどうかは別として、重大な怪我とかあったら隠しそうっていう妄想ですね...本当にそうであってほしいけどあってほしくない(どっちだよ) それと博士組って好きなんですよね大好き!!!!!!!! というかクイズノックって嫌いになる人いないからな((( そんな人達を傷つけるなんて心が痛...まないけど(おい) あと須貝サマは絶対怒るんだよな隠してたら お兄ちゃんだから気づきもするんだよな うん、好き() ちなみに、鶴崎が「いたーい!」と元気に(?)大騒ぎしているうちはQuizKnockも平和だな、と須貝たちはひそかに確信したとかしなかったとか
ああ、これすごく良かった……! 普段は大げさに騒ぐくせに、本当にやばいときは隠そうとする鶴崎さんの性格の描き方がリアルで、胸がギュッとなりました。須貝さんが「お前が倒れたり大ごとになるほうがよっぽどみんな傷つく」って言うところ、最高に染みました。二人の信頼関係がじんわり伝わってきて、読後感がすごく温かいです。