見て、触れて、その名を呼んで。私を感じてほしい……。この部屋から出られない私にとって、貴方は唯一の刺激。いつも難しい顔をして、よく分からない大きな機械と向き合っている。それでも、同じ空間に誰かがいるだけで嬉しいの。アプローチしてもスルーされるばかりで、傷つけられたこともあったけど。この体は周りの人間が直接見ることも触れることも出来ないから仕方ないわよね。亡霊って不便だわ。まあ、生きてた頃からずっと一人だったようなものだし、今更ではあるのだけど。
でも、窓に映れば貴方は私を見てくれる。夢の中なら会うことだって叶う。驚いた顔をするのも無理はないわよね。見知らぬ女が突然映り込んで、頭の中にまで現れるんですもの。近頃は目が合うようになったし、笑いかけてもくれる。少しずつ距離が縮まっているのを肌で感じるわ。
願わくば、もっと近くで愛し合いたい。硝子の平面世界でも寝ている間だけ開かれる夢想世界でもない、この現実で。口づけをして、抱きしめて、二人の道を駆けていきたいの。私の心を打ちつけて、愛を盗んだ貴方と共に。
僕は亡霊に囚われている。窓に映り、夢を侵し、僕の中から離れずにいる。だけど直接姿を現しはしない。問いを投げても返ってくるのは静寂だけ。叶う筈のなかった再会を果たせたと思ったのに。目が眩むほどの太陽は再び真っ暗な海へと消えた。そこのいるのに言葉を交わせないのは、死よりも辛い。
だから、君の体を作ることにした。君が再び僕の前から消えないように。もう一人にならないように。容れ物さえあれば、宝石よりも煌めいていたあの日々を取り戻せる。右も左も分からないまま始めた計画は失敗の連続だったが、君がいなくなった後の人生を一人で過ごす方が僕にとっては茨の道だ。
機械仕掛けの君と出会えるまであと少しだ。二人で明日へ向かっていけるなら、過去の全てを変えられる。錆びた鍵でドアを開け、振り返らずに歩いて行こう。窓に君を探す夜。気がつけば微笑が零れていた。