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麗の目に台北は、新旧が入り交じった、日本より雑多でエネルギーに溢れた町に映った。
新しい建物を建築している作業員の土台が竹でできていたり、今にも崩れそうな家の隣に最新のビルが建っている。
タクシーの車窓から見える風景に麗が夢中になっている間に、タクシーは日本ならば警察密着番組でモザイクを入れられた運転手が、若い女性白バイ隊員に諭すように叱られるのではないかという速度で進んでいく。
それでも、明彦は横でパソコンをタイプし続けており、酔わないか心配になる。急遽旅立つことになったので、調整しきれていない部分もあるだろう。
(それにしても、アキ兄ちゃん、三半規管めっちゃ強いな)
天は明彦に二物も三物も四物も与えたのだなと、麗は車に酔わないという視点から感心した。
「お客さん、もうつくヨ」
「ありがとうございます」
台湾人は日本語が話せる人が多いと明彦が言っていたが、本当のようで、麗が返事をすると運転手がフロントミラーごしににっこりと笑った。
彼はとても親切で、麗が台湾は初めてだと知ると、観光地や有名なビルやホテルが見える度、教えてくれたのだ。
因みにさっきのランジェリーショップも彼が奥さんと喧嘩したときにお詫びのプレゼントを買うのによく使うらしい。きっとセクシーな奥さんなんだろう。
「お客さんが行くホテル。凄くいいホテルネ」
明彦がいつの間にかホテルまで予約してくれていたらしく、旅はスムーズに進んでいた。
せめて、タクシー代くらい出さなきゃと思いつつも、そもそも麗は台湾元をブラジャーの残金分しか持っていない。
麗が空港でキャリーケースをベルトコンベアから救い出すよう頼まれていた間に、明彦は一人で両替所へ行っていたようで、麗は無一文ならぬ無一元だ。
「楽しみです」
「見えてきたヨ」
「わあ! 凄いっ」
城だ。普通ならヨーロッパ辺りに建っているような重厚な城が見えた。
本来ならば、アジア圏にあれば違和感が満載の筈の建物はしかし、色合いが落ち着いているからだろうか、周辺に馴染んでいる。
こんなホテルに泊まれるだなんて、夢でも見ているかのようだった。
「どうぞ、お姫様」
部屋に着くと、明彦が鍵を開けてくれ、麗を先に入れてくれた。
「……もう、何ゆうてんの」
アホな事言わんといてと、何時もならツッコめる筈なのに、麗はできなかった。本当にお姫様になったかのような気分だからだ。
「悪いな、急だったからそこまでいい部屋がとれなかった」
「すごい!!」
広い廊下を早足で進むと、応接室をバックにして、一面に町が広がり、奥に更に広い寝室に大きなベット。
駆け出してお風呂場を覗くとジャグジーに、ドレッサーまである。
「凄い!綺麗!!」
この感動を伝えるには麗には語彙力が足りないことが悔しい。
「気に入ったか?」
「勿論!」
「そうか。悪いが、俺は仕事が残っているから、スパで時間を潰してくれ」
「へ?」
(スパ? 週刊誌なんか持ってきてたっけ? もしかして、スパゲティ??? いや、それはないわ。ということはやっぱりSPA?)
「そんなんええよ、贅沢すぎて身に余るわ。私は端で大人しくしてるから気にせんで」
麗は全力で手を横に振った。
現状でも罰が当たりそうなくらい贅沢をしているのに、これ以上贅沢をするなんて……。
「もう予約したから行ってこい」
「嘘やろ!?」
それは、本日何度目かの叫びだった。