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秘匿戦艦《アマノハシダテ》は、ゆっくりと連邦軍基地の巨大なドックへと収まっていった。
外装に刻まれた無数の傷。
それでも、致命的な損傷はない。
――生き延びた。
その事実が、艦内にかすかな安堵をもたらしていた。
直後、通信が入る。
《よく無事にここまで来てくれたな、艦長》
落ち着いた、年配の男の声。
神崎は即座に応答した。
「はい。援軍、感謝します」
《にしても……》
通信の向こうで、男が低く唸る。
《これが例の秘匿戦艦か。
存在は聞いていたが……想像以上だな》
「……まだ未完成の部分も多い艦です」
《それでも、だ》
一拍。
《艦長、いいかね。少し二人で話がしたい》
神崎は、一瞬だけ迷い、すぐに答えた。
「……ええ、わかりました」
彼はブリッジを見渡す。
「各員、作戦行動は終了だ。
今はしっかり休息を取れ」
短い命令。
それだけを残し、
神崎は基地司令部へと向かった。
⸻
その頃――
艦内、居住ブロック。
朝倉恒一は、自室のベッドに仰向けで倒れ込んでいた。
「……はぁ……」
全身が、重い。
戦闘の疲労だけではない。
あの黒紫のモビルスーツ。
レイブンの声。
――「元々のパイロットしか動かせない」
「……なんなんだよ……」
天井を見つめたまま、そう呟く。
その時。
「コーイチ
オイ、コーイチ」
小さな電子音。
「……なんだよ、ハロ」
「今は……休ませてくれ……」
ベッドの横で、ハロがぷかりと揺れる。
「モー」
拗ねたような声。
それに、恒一は小さく息を吐いた。
「……お前は、気楽でいいな……」
ハロは答えない。
ただ、そばにいる。
その静けさが、
かえって恒一の不安を際立たせていた。
⸻
一方、基地司令部。
重厚な扉が閉まり、
室内には神崎と、先ほど通信を入れてきた男だけが残った。
「ガンダムのパイロットの件だが」
唐突に、男が切り出す。
神崎の眉が、わずかに動く。
「……朝倉ですか?」
「やつは、元々民間人だとの話だが」
「ええ。ですが、それがどうかしましたか」
男は端末を操作し、低く呟く。
「なるほど……どうりで、だ」
「……どういう意味です?」
男は端末を閉じ、神崎を見据えた。
「上からの命令が出た」
室内の空気が、凍る。
「パイロット、朝倉恒一」
一拍。
「——死刑宣告が出た」
神崎は、言葉を失った。
「……なぜ、です……」
喉が、かすれる。
男は淡々と続ける。
「非正規の民間人が、極秘兵器を運用」
「しかも、異常な適応速度を示している」
「そして何より——」
「“本来、触れてはならないものに触れている”」
神崎の脳裏に、
あの敵パイロットの言葉がよぎる。
――元々のパイロットしか動かせない。
「……彼は命令に従っただけです」
神崎は、必死に言葉を絞り出す。
「彼がいなければ、艦も、街も——」
「だからこそだ」
男は、静かに遮った。
「軍は、例外を許さない」
「事故では済まされない案件だ」
神崎の拳が、震える。
「……いつ、執行を」
「すぐではない」
男はそう答えた。
「基地到着後、正式に身柄を確保する」
「その後、処置が決定される」
処置。
その言葉が、
あまりにも冷たく響いた。
「……私は」
神崎は、低く言う。
「彼を、守ると誓いました」
男は、ほんの一瞬だけ沈黙した。
「それは、君個人の感情だ、神崎艦長」
「軍は、感情では動かない」
そう言い残し、男は背を向ける。
「この件は、まだ本人には知らせるな」
「以上だ」
扉が閉まる。
神崎は、その場に立ち尽くした。
「……朝倉……」
その頃。
何も知らない恒一は、
ベッドの上で、ゆっくりと目を閉じていた。
守られていると、
まだ信じたまま。
だがその裏で、
世界はすでに彼に
「終わり」を用意していた。