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「ああ、どれも好きだな」
「よかった……なら、これを調合しますね」
それぞれの量を調節してビーカーに垂らし入れ、軽く振って混ぜ合わせた。
スプレー付きの遮光ボトルに、店員さんにロートで香水を入れてもらっていると、
「良くブレンドされていて、とてもいい香りですね。いつもはお客様の混ぜ合わせたものを、こちらで微調整をしているんですが、それもいらないくらいで。もしかして以前にもこういった経験がおありなのでしょうか?」
首を傾げて、そう尋ねられた。
「……いえ、その経験というか、彼にぴったりな香水を作りたいと思ったら、自然に……」
自分が調香師であることをごまかして答えると、「ああ」と店員さんが納得したように頷いて、「とても素敵な彼氏さんですものね」と、少し離れてこちらを眺めている貴仁さんの方を見やった。
「あっ、ありがとうございます」
そんな風に言われて、さすがに照れが隠せないでいると、「それに、」と、店員さんが付け足した。
「お二方とも素敵で華があるので、お客様の呼び込み効果もあったみたいで」
そう笑顔で告げられて、「えっ……」と赤らんだ顔を上げてみると、いつの間にか店内はけっこうな混み具合を見せていた。
「本当に、お客さんが増えていて。ですがそれは、私はともかく、彼には確かに華がありますから」
ふふっと店員さんに笑われて、自分がたった今とんでもないのろけ話をしたことに気づいた。
「仲がよろしくていいですね」
「いえ、その、そんな……」
いたたまれなさに、さらにカーッと真っ赤になっているところへ、
「もう出来たんだろうか?」
と、彼が近寄ってきて、よけいに顔が火照ってくる。
おまけに、「あの男の人、すごいカッコ良くない? ラフな服装も似合ってて、なんだかモデルさんみたいで」なんていう、彼を褒めそやす話し声も聴こえてきて、顔だけじゃなく耳までが熱くなった。
程なくして店員さんが香水を入れ終わり、ボトルを箱に入れると、「お待たせしました」と、小さな手提げ袋で渡してくれた。
「ありがとうございます」
支払いを済ませ、「はい、貴仁さんに、プレゼントです」と、差し出す。
「ありがとう。大切に使わせてもらう」
目を細め優しげに微笑んで、それを受け取ると、
「ここで少しつけてみてもいいだろうか?」
彼が私に顔を向け、そう問いかけてきた。
「はい、つけてみてくれるなんて、とってもうれしくて」
にっこりと笑い、彼に答えると、
コロンを取り出した後で、「どこにつけるのがいいんだ?」と、尋ね返された。
「えーっと男の人でしたら、首筋から胸元の辺りくらいに、ワンプッシュでいいかなと」
「わかった」と頷いて、周りの邪魔にならないよう通路の隅に寄ると、彼がパーカーの首回りからシュッとコロンを吹きかけた。
「……どうだ?」
少しだけ鼻先を近づけてみると、服の隙から覗く男性的な骨太の鎖骨から、しっとりとしたエレガントな甘さが仄かに匂って、彼のフェロモンに当てられたかのように、胸の高鳴りがドキドキと止まらなくなった。
「す、すごく、いい香りで……」
短い一言を発しただけなのに、口ごもる私に、
「……本当にか?」
と、まさかの恥じらいに気づいてはいない彼が、不用意に顔を迫らせて、魅惑的な香りがますます間近くなりくらくらしてしまいそうにもなる。
「あっ、あの……貴仁さん、そんなに寄らなくても……本当にその、あなたにぴったりで、いい匂いだってわかるので……」
あまりの恥ずかしさに、しどろもどろになっていると、
「……君を、酔わせることができただろうか?」
ふと耳に甘やかな吐息とともに低く声が吹き込まれて、心臓の音はドクンといっそう大きくなった。