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なんて言うか貴仁さんって、計算ずくじゃない分、逆に最強なのかもと密かに思いつつ、胸に手を当てて早る鼓動を抑えた。
そうして次はどこへ行ったら……と、モール内を見渡していると、映画の告知ポスターが目に入った。
「そうだ、見たい映画があって」
思わず声に出すと、「なら、二人で見ようか」と、壁に掛けられたポスターに、彼も目を移した。
「はい!」と勢い込んで返事をしたものの、私の見たい映画を果たして彼が気に入るのかが心配になってくる。
「あの、恋愛サスペンスって、お好きですか?」
「うーん……」と、彼は顎に片手を添えて考え込んで、「あまり私は見たことはないが、別に嫌いではないんで見てみたいな」と、続けた。
もしかして気をつかってくれているのかなと、見るのをちょっとためらっていると、彼がふいに私の手を掴んで、フロアの奥にあるシネマホールに向かった。
「私が見たいかどうかを気にしなくてもいい。君と見れば、きっとなんでも気に入るはずだからな」
ホール内に足を踏み入れると、彼がこちらへ顔を向け、そう話した。
「……そんな風に思ってもらえるなんて、うれしいです」
はにかんで口にする私に、
「君と同じ時間を共有できるのは、私もうれしいのは同じだ」
彼がフッと笑って答えた。
……ほら、ね? こういうことをさらりと言えちゃうんだもの、やっぱり貴仁さんて、無自覚に最強なんじゃないのかな?
そういう彼が好きでと思うと、私の顔も無意識にほころんだ。
チケットを二枚購入した彼に、代金を渡そうとすると、
「いやさっきコロンをもらったから、今度は私におごらせてほしい」
彼がそう言って、私を制した。
「あ、ありがとうございます」
お言葉に甘えて、頭をペコッと下げる。
まだ上映までには時間があって、「ちょっとトイレに行ってきますので、先に席に座っていてもらえますか」と、彼を促した。
トイレから出ると、ロビーでポップコーンが売っているのが目に留まり、映画を見るなら、やっぱりポップコーンがあった方がいいよねと、カップ入りの物を一個買って席へ戻ると、
「……それは?」
と、彼が不思議そうな顔をした。
「映画を見ながら、食べようと思って」
席に着いて話すと、
「えっ、映画を見ながら、食べるのか?」
彼が半ばオウム返しに口にして、ますます不思議そうに首を傾げた。
「えっとポップコーンって食べても音があんまり出ないので、言うなれば映画のお供みたいなものなんですよ」
「そうなのか、全く知らなかった」
ポップコーンのカップを見つめ、あっけにとられている彼に、
「実は一個のカップから二人で食べるのも、映画デートではよくしたりするので、貴仁さん、いっしょに食べませんか」
そう笑顔で勧めた。
「二人で一つを……そういう楽しみ方もあるのか」
新鮮味の感じられる彼の反応に、私まで初めての映画デートみたいに、なんだか気分がそわそわと浮き立ってくる。
「どうぞ食べてみてください。定番の塩味にしたので」
「じゃあ、もらおうか」
二人の座席の間に置いたカップから、彼がひとつまみを食べて、
「うん、うまいな」
と、楽しげに微笑ったところで、館内のライトが落ち上映を告げるベルが鳴った──。