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一旦混乱した気分を落ち着けるため、小屋の中に戻ったピアーニャ達。自分達の苦悩を擦り付けるかのように、ニヤニヤしながら中心にいる人物を眺めていた。
「このドアヤバいアリエッタちゃんヤバい何これリージョン間移動とかおかしいでしょコールフォンもおかしかったけどそんなモンじゃないどうしてこんな事をしたの聞いても分かんないよねそうだよねわたくし達の常識が分かんないからやっちゃうんだよねわたくしも買い物とか知らない時はやっちゃった事あるし気持ちは分かるよでもねでもねドアで繋げるってなに壁どこにあるの隣にリージョンあるわけないでしょドルネフィラー今度シメる八つ当たりさせろなんでアリエッタちゃんそんな可愛く首傾げてるのいっそ笑ってよブツブツブツブツブツブツ……──」
いきなりネマーチェオンに連れ込まれたネフテリアである。状況を受け止めきれずに、ちょっと壊れている。
「くくくく……テリアのヤツこわれたぞ! あはははは」
「随分面白い顔してるのよ」
「だねー」
「いやいや何で王女様を嘲笑ってるんですかっ!」
ついに耐えられなくなって笑い始めるピアーニャと、釣られて呑気にコメントするミューゼ達。まだこのメンバーに慣れていないムームーが、慌ててツッコミを入れている。
ネフテリアの傍には、困った顔のバルドルが佇んでいる。こちらもこのノリについて行けない様子。
事情を全く分かっていない犯人のアリエッタが、心配そうにネフテリアに近づいて行く。
(よく分からんけど、元気になってもらわないとな。たしか励ます時は……)
王女の手を取り、濁り切った瞳と見つめ合い、元気を出してほしいと願いながら、覚えた励ましの言葉を口にした。
「ざぁこざぁこ!」
『ぶーっ!?』
「あははははっ! ひーっひっひっひっ…げほっ…だはははは!」
「しまったあああ! 修正するの忘れてたああああ!!」
美しい瞳をした少女からの励ましに、ネフテリアは完全に気絶。数人が驚愕で吹き出す中、ピアーニャが大笑いし、ミューゼが絶叫するのだった。
この後、ピアーニャとミューゼによって、ネフテリアは気絶したままエルトフェリアの裏口に放置された。しばらくしてオスルェンシスが回収した……が、いいのかそれで。
「さすがに、ほかのヤツらにはつかわせられんな……」
「あんな非情な事して、なんで何事も無かったかのように話を再開出来るんですかね」
ムームーのツッコミはピアーニャを黙らせた……が、それも一瞬の事。すぐに無かった事にされ、アリエッタのドア対策会議が始まった。
テーブルを囲んで、あーでもないこーでもないと、ピアーニャとバルドル、ついでに保護者であるミューゼも混ざって、ドアの隠蔽を謀っている。なにしろ出口がミューゼの家なので、他人事ではいられない。
テーブルを囲んでいるメンバーの中でも、特に真面目な顔をしているのが、ラッチとアリエッタ。その理由は、
(……眠くなってきた。話終わんないかなぁ)
(とりあえず話が分かってるフリしていれば、ぱひーとか褒めてくれるかな)
眠気と煩悩だった。
この2人が最もシーカーの会話を理解出来ないのだ。とりあえず真面目な顔でいればなんとかなる精神である。
しかし、すぐに飽きて、近くにあるキュロゼーラを掴み、再び観察を始めてしまった。
「生デもいけまスよ?」
「いや、あーしはお野菜とか食べられないから」
「そんな……」
生物的に食べてもらえないと知ったキュロゼーラは、しおしお~…としな垂れてしまった。
「……なんか元気なくなっちゃったから、ストレヴェリー様お願い料理してあげて」
「やりにくいのよ……」
味の良さは知ってしまったが、流石に意思疎通が可能な相手を生きたまま料理するのは、パフィも気が引けている。しかし、放っておけば、また自分自身を切り刻んだり、あわよくば茹でたりするだろう。それもパフィの目の前で。
「ありがトうございマすっ!」
「まだやるって言ってないのよ」
「さぁサ、遠慮なさラず、スパッと!」
「もうヤなのよ、このミューゼ」
「そこ! あたしじゃないって言ってんでしょ!」
悪魔に食べられたくないラスィーテ人と、絶対に食べられたいネマーチェオン人の戦いは、既に始まっていた。
隙あらばナイフに飛び込もうとするキュロゼーラ達からナイフを守り、パフィは壁際へと後退った。しかし、背後の壁から新たな気配を感じ、前方に飛び退く。
「そんな所からも生えるのよ!?」
「この小屋モ、同じネマーチェオンを使っテいますカらね。既に貴女はアたし達の手中にいまス」
「つまり、この木がある限り、そなた等は無敵…という訳リムなのだな」
「ソうですね、絶対ニ食べられてみセます」
「いやもうどうしたらいいのよ……」
これまでの話で、キュロゼーラは無限に湧き出てくることが可能だという事は分かっている。調理しても問題無いという事も。そして、どんな手段を使ってでも食べてもらいたいという想いも。
意思疎通さえ出来なければ、ちゃんと調理していたかもしれない。しかし、そんな想いを踏みにじるかのように、相手は全力で話しかけてくる。まな板の上でも元気に話しかけてくる。精神的に切り難い事この上無いのであった。
「隙アり!」
「!?」
一瞬の思考に陥ったパフィの隙を突き、横にいたキュロゼーラが飛び込んだ。向かう先はもちろん巨大ナイフの先端。いつのまにか別のキュロゼーラによって、鞘を外されていた。
しかし、パフィは慌ててナイフを手に取り、その場から遠ざける。が、
ガッスパッ
「ぅえっ!?」
ナイフの動きを予知していたかのように、別のキュロゼーラが飛び込んだ。
周囲の人やキュロゼーラを警戒したパフィは、動かす方向に刃を向ける迂闊な事はしない。ちゃんと背を向けて動かしている。
しかし、ミューゼの記憶を持つキュロゼーラは、それくらいお見通し。ナイフの動きが止まったタイミングで、キュロゼーラ同士が連携し、蔓を使って数体をナイフに向かって投げつけたのだ。
不意打ちをされて相手を切ってしまったパフィは、キュロゼーラ立ちが届きにくいように、ナイフを上に掲げる。しかし、突如天井からキュロゼーラが生えてきて、ナイフに向かって落ちてきた。
「ちょっと待つのよおおおお!!」
たまらずナイフを抱えて小屋から脱出するパフィ。
近くにいた女性シーカーが何事かと声をかけた。
「どうした?」
「キュロゼーラが切られようとして飛び込んでくるのよ」
「は?」
事情を知らないシーカーは首を傾げる。
その時、小屋からキュロゼーラ達が出てきた。マンドレイクちゃん着ぐるみ姿のアリエッタを伴って。
「諦めてアたし達を調理しなサい! アリエッタさんモ悲しんデいるぞー!」
「……? ぱひー、ごはん?」
「くっ、人質とは卑怯なのよ!」
「……どゆこと?」
周囲から見ているシーカー達も、なんとかして状況を理解しようとするが、今の会話から推測出来る訳がない。警戒しながら引き続き様子を見る事にした。
「そもそも、調理されたかったら喋らないでほしいのよ!」
「楽シくお話をしナがら調理されル。素晴らしい事ジゃないデすか。そウ思いまセんか?」
「思わないのよっ。やりにく過ぎるのよ」
「こウなったらアリエッタさンに説得しテもらうしかナいですね。アリエッタさん!」
「う?」(えっと、このきゅろぜーらかな? あ)
ポキッ
『折ったー!?』
掴む所を間違えたアリエッタが、キュロゼーラの足を再び折ってしまった。これにはシーカー達もビックリ。しかし、そんな事は無かったかのように、会話は進む。
「こコにいる全員ヲ料理にしなけれバ、アリエッタさんがあタし達の足を折りツくす事にナりますよ? 良いのですカ?」
「それどう反応したらいいのよ!?」
「アリエッタ、『ジャンプ』!」
「あいっ!」
ぴょん
ベキッ
「あう?」(やべっ、踏んじゃった)
「ふっフッふ、どうですカ?」
「着地地点に滑り込んで踏まれて得意気にするなああああ!」
このやり取りを見て、周囲のシーカー達が頭を抱え始めた。常識的な感覚では理解出来ない事が、目の前で繰り広げられている。
「アリエッタ、『ハッピー』!」
「あいっ!」
アリエッタは両手を挙げてピョンピョンと飛び跳ねた。その度に、キュロゼーラの足が踏まれて折れていく。足元の破片のせいで少し転びそうになったが、別のキュロゼーラに支えられていた。ニンジンがニンジンに支えられている。
「くっ、可愛いのよ……卑怯なのよ」
「アリエッタ、『ぷんぷん』!」
「あいっ」
今度は腕を組んで頬を膨らませた。目は怒っていないので、ただ可愛いだけである。それがパフィに効果覿面で、顔を赤らめ鼻のあたりを押さえながら、なんとか立っている。
「ちょっと待って、そんなポーズ知らないのよ。ミューゼが教えたのよ?」
「今頃気付きましタか? まだまだ芸はあリますよ。アと1つだケ見せましょうカ。そしたラあたし達を下ごシらえしてクれるデしょう?」
「ぐぬぬ……どこまでも非道なのよ……」
「いやあの、どこが?」
隣にいるシーカーの真っ当なツッコミは、誰にも届かない。
「ミューゼさんガ教えた芸に抗えマすか? コれを見て恐レ慄くといいですヨ」
「こ、これいじょう何を……」
「いやペットじゃないんだから……」
どうやらミューゼが、パフィの見ていない場所でアリエッタに芸を仕込んでいたようだ。アリエッタもミューゼに褒められる事を理解し、素直に命令を聞いていたのである。
そんなミューゼの記憶から、容赦なくパフィに芸を見せつけるキュロゼーラ。小屋の中でミューゼが冷や汗をかきながら知らんぷりしている事には、誰も気づいていない。
「アリエッタ、『今宵の肉は豪華であれ』!」
くるっビシッ
「ぐはっ!」
ニンジンアリエッタが、1回転して戦う美少女のようなポーズを決め、パフィが崩れ落ちた。
『なんかそれだけ難しいな!?』
色々な意味で難易度の高い芸に対し、その場の全シーカーからツッコミが入った。命令にもポーズにも、パフィのリアクションにも理解が追い付かない。
「どウですかパフィさん。調理してクれる気にナったでしょウ?」
「いやどこをどーやったら、その考えに行きつくのやら……」
真っ当なツッコミは、もちろんスルー。
そして、なんとか身を起こしたパフィは、息を吸って、指を差した。
「この人があなた達を調理するのよ」
「え…………わたしか!?」
先程からツッコミを続ける女性シーカーに、キュロゼーラの調理を丸投げしたのだった。