「……ツまりですネ、ネマーチェオンには外のリージョンかラ落ちてキた色々な物が、所々で発見出来ルんです」
「へぇ、そうなんだー……」
まな板の上で優雅に座るキュロゼーラから、ネマーチェオンに関する情報を得ようとする女性シーカー。パフィからキュロゼーラの調理を擦り付けられたものの、目の前で喋る情報源の存在は、シーカーとしては無視出来ない。
他のシーカー達も同意見で、調理する事を約束し、ピアーニャと同じように、このリージョンについて教えてもらっていた。
「中にハ吸収出来ないモノもあり、アたし達のようナ存在によって集めラれ、封印されタり捨てらレたりしまス」
「封印って?」
「グルグル巻きニして、適当な場所に吊るしマす」
「へ、へぇ……捨てるってのは?」
「グルグル巻きニしてネマーチェオンの外に投げ捨てまス。おそラく別のリージョンに落ちる事でシょう」
「なるほど……」(なんかすっごい事聞いてる気がする……大丈夫かな)
周囲にいるシーカー達が、聞いた内容を書き記していく。ネマーチェオンどころか、世界の真理にまで到達しそうで、こんな事聞いていいのかと、内心焦っているシーカーが多い。
まな板の上のキュロゼーラは、この後もフレンドリーに話を続けていく。話し相手の女性シーカーも、少しずつ打ち解け、楽しくなってきたようだ。
「最近はおかシな生き物も現れてですネ。ネマーチェオンとしても少シ困ってるんデすよ」
「ははは、そりゃ大変だねー」
「ナんかちょッと半透明だし、ちょっピり吸収されかけタりするしで、コんな事は初めてでスよ」
(ん? なんか聞いたことある話だな?)
「ま、こコでこんな事話シても仕方ない事ですからネ。いやースッキリしまシたし、次の仲間ニ交代してあげタいので、そロそろスパッとヤっちゃって下サい」
「うんうん……え!?」
感情移入し始めた瞬間に、話題が調理に移ってしまった。なんだか重要な話になりかけた所なので、全員驚いている。その中でも、仲良くなったシーカーの反応はひときわ大きい。
「いやいやちょっと待って! これって仲良くなってきた談笑相手を切り刻めって事じゃん!? 無理なんだけど!?」
「一口サイズに切るノが簡単でいいデすよ。そレともスティックにシて齧りますカ?」
「いや待って! 早まらないで! ちょっとだれか助けてえええ!!」
「最初に食べテいただけタら嬉しいデす!」
結局、近くにいた別のシーカーにお願いし、キュロゼーラを切ってもらった。
新しく出来た友を目の前で失った女性シーカーは、すっかり凹んでしまった。慰められながらキュロゼーラスティックを齧り、ほろりと涙を流すのだった。
そしてこの後、数人が同じ状態になり、その日の調査は終了した。
次の日の朝。
「よぉーし! きょうもでかけるぞー!」
『おーっ』
ピアーニャの号令で、ミューゼ達は声を張り上げた。既に全員雲に乗り、準備万端。元気の良い姿を、その場にいるシーカー全員が注目していた。
そんな中、バルドルがおずおずとピアーニャに声をかける。
「元気いいっすね」
「ヤケクソにきまってるだろ! こっちみんな!」
「すんませんっ!」
本気気味の殺気を浴び、バルドルは逃げ出した。シーカー達も逃げ出した。ちょっと笑いながら。
「あいつら……」
「は、早く行きましょうよ」
ピアーニャが怒り、ムームーが急かす。そして全員が頷く。キョロゼーラと同じ格好……つまりマンドレイクちゃんの姿で。
そう、全員着ぐるみを着ているのだ!
「くっそぉ……アリエッタのキゲンとりがなければ、ヌぎすててやるものを……」
「あのドアを隠す時、悲しそうな顔をしてましたもんねぇ……」
「アリエッタを悲しませるのは許さないのよ」
「その姿で偉そうにしないでくれる?」
真面目な顔でアリエッタ(キュロゼーラのすがた)を抱擁しているが、パフィも同じ格好なので、慈愛や気迫などの表情は完全無効である。
こうなった原因は、小屋の内装をミューゼの魔法で変えて、ドアを完全封印した事。その際に、せっかくみんなの為に描いたドアが隠される、その事を残念に思ったのがアリエッタの顔に出てしまい、ミューゼ達が大いに焦ったのだ。
どうしたらアリエッタの機嫌を戻せるか全員で考えた結果、紆余曲折の途中で結論が出てしまい、全員でお揃いの恰好をするという事態になってしまったのだった。
そんな中、元凶であるアリエッタはというと、
(なんでみんなで着ぐるみ着てるんだろう。動きにくくない? おでかけには向いてないと思うんだけど)
実際ドアを隠された瞬間は確かに悲しんだにも関わらず、ちゃんと事情があるという事は理解している。ただし、説明を聞いても話が分からないので、全員が着ぐるみを着ている理由だけは全く理解していなかったりする。
「はぁ……もうつかれた……」
こうして一行は微妙なテンションのまま、飛び立った。
ピアーニャ達が出発した後、バルドル達数名が集まり、情報をまとめ始めた。キュロゼーラから得られた情報は多く、重要な物もあるため、まとめてからピアーニャに提出する事にしたのだ。その為、まだピアーニャの元に情報は届いていない。
「いやいや、せめてドルナがいる疑いだけは伝えるべきだったでしょーが!」
「すまんっ! 多すぎて埋もれてたんだ!」
キュロゼーラが言っていた『半透明』『吸収』などのワードから、ドルネフィラーから漏れた夢の生物『ドルナ』である可能性が出てきた。というか、タイミング的にその考えが一番に出てきてしまう。
「しっかし、どういうドルナが来たんだ?」
「さぁ……吸収しようとするくらいだから、ヒトではないと思うんだけどなぁ」
ネマーチェオンはミューゼの記憶を持っている。そのミューゼが、ピアーニャやネフテリアから、ドルナについてはあまり重要視しないように誘導されていたので、キュロゼーラもそれほど重要な情報として語らなかった。断片的だったり埋もれたりした原因はそこにある。
「いやいや、ドルナって重要案件でしょ。なんで微妙にミューゼちゃんに隠してるんですか」
「さぁな。王女関係の案件らしいから、あまり詮索も出来ん」
「そっすか」
王女の命ならばしょうがないと、シーカー達は諦める事にした。実際、ミューゼとパフィはニーニルに出来たエルトフェリアの重要人物なので、あまり危険な場所に積極的に行かせるのも違うと思ったのだ。
ドルナが現れる可能性が出た時点で、その為の準備と対策が必要になる。専用の武器(アリエッタ作)を手に取る事になると思うと、バルドルをはじめとする屈強なシーカー達が顔をしかめた。性能は完璧なのだが、見た目がひたすらファンシーで、男女問わず大人には持つのが辛い。
さらに今、対ドルネフィラー用の武器を持ち込んでいるのは、ピアーニャと行動を共にしているミューゼとパフィのみ。この2人はアリエッタに絵を描いて貰った武器を嬉しそうに持ち歩く。しかも他の物と違って恥ずかしくない…どころか、描いてある模様が格好良く、男達も羨んでいるくらいである。
「はぁ、まぁいい、続けるぞ。総長も移動しながら、ドルナの事を聞いているだろうしな。キュロゼーラいっぱい連れてるし」
「へーい……」
しっかりテンションを下げてから、ピアーニャへの報告書をまとめ始めるのだった。
「ホントウかそれは!」
「はイ」
移動中の『雲塊』の上では、キュロゼーラの話を聞いていたピアーニャ達が、驚愕していた。昨日も色々質問していたが、知らない事はまだまだ多い。
「そうなると、また話は変わってきますね」
「うむ、すまんがパフィ。よろしくたのむぞ」
「え~……」
キュロゼーラから教えられた衝撃的な事実。それはパフィを全面的に頼る事になるものだった。
「しょうがないだろう。わちらには、どうしようもないんだから」
「手伝ってくれても、いいのよ?」
「もちろん手伝うから。でも最終的には頼む事になるからね?」
「はぁ」
困った顔でチラリとキュロゼーラを見るパフィ。ずらりと並ぶニンジン……の中に白い葉野菜が混じっている。
「コれで、同ジ味だと飽きラれずに済みマす」
「そんな気遣いは欲しくなかったのよ……」
キュロゼーラはネマーチェオンから無限に生えてくるニンジン……のはずだったが、同じ様に別の野菜や木の実などでも生える事が出来る……という恐るべき生態を知ってしまった。
とりあえず今回は、ミューゼが知っている好きな野菜として生えて、こっそり混入したらしい。
アリエッタも興味津々に、その白い葉野菜を突いている。
(なんか白菜みたいだな、全部白いけど)
そしておもむろに持ち上げ、葉を1枚剝ぎ取った。
「ちょっとアリエッタ!?」
「おおイイですネ。そのマまムシャムシャとどウぞ。煮込んでモ美味しいと思いまスが。皆様も1枚どウですか?」
「って言いながら、仲間に体を千切らせないで!」
こうして、パフィが「今日もニンジン? 流石に連日はやめとくのよ」といって断る事は、不可能となってしまったのだった。
……ドルナ? そんな話は一切していない。
大騒ぎになり始めた一同を見ながら、ピアーニャはネマーチェオンについて考えていた。
他人の記憶を元に、木から自在に喋る植物を生やす事が出来る。それは、リージョンそのものに意思がある…という事。
今回はミューゼの記憶を使って、ミューゼと同じような口調で喋りかけてくる。しかし、明らかにミューゼではない他人として、身の上を話している。
ではその考え方は誰の物なのか。以前に吸収した生物の物? しかし、記憶を読み取れるのは植物のみと言っていた。という事は、ミューゼの記憶が最初の記憶の可能性が高い。それに、キュロゼーラはネマーチェオンを育てた神の事も認識していた。後から吸収した記憶に、そんな知識があるとは思えない。
(つまり、キュロゼーラのキオクのおおもとは、ネマーチェオンそのものか。ドルネフィラーとにているなぁ……)
ドルネフィラーも意思を持ち、吸収した記憶を具現化するリージョンだが、物理的な形が存在しない。対してネマーチェオンは触れる事が出来る超巨大な植物そのもの。似てはいるが性質がまったく異なる。
遠くに浮かぶ水と葉を眺めながら、改めてリージョンとは不思議なモノだと思うピアーニャであった。
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