テラーノベル
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それから、花斗が再び袴田さんを捕まえて話し出したので、私は壱月と共にパーティーでの歓談を楽しんだ。
しばらくして、そろそろ申し訳ないなとちらちと袴田さんの方を見ると、彼の周りには他にも三人の子どもが集まっていた。
引っ込み思案の花斗を上手く引き入れながら、子どもたちと話す袴田さんはまるで保育士だ。
「愛音」
不意に耳元で壱月が囁き、大げさに肩が揺れた。
「びっくりした!」
振り向くと、壱月はいつの間にかシャンパングラスを片手に持っている。
「どうぞ」
「お酒は、私は……」
「だから、中身はサイダーだって」
壱月はニコリと笑って、私にそれを押し付けてくる。シュワシュワと泡を立てるその透明な液体から、たしかにアルコールの香りは感じない。
「メアリーさんに言ったら、出してくれたんだ」
「メアリーさんが?」
「ああ。彼女、ジョージの奥さんだから」
「ええ!?」
思わず大声が出てしまい、慌てて口元を押さえる。それで、壱月はぷっと噴き出した。
「ごめん、驚いちゃって」
「いや、いいよ」
だが、壱月は笑いをこらえきれずに肩を揺らす。
ああ、恥ずかしい。
頬が熱くなるのを感じつつ黙っていると、笑いを収めた壱月が口を開いた。
「メアリーさんから聞いた。前に俺に話していたら英語で接客して満足してもらえたお客様、メアリーさんだったんだろう?」
私はコクリと頷いた。
「さっきも、メアリーさんに助けてもらったの。壱月は私が大丈夫だって言ったの信じてくれて花斗のほうに行っててくれたんだろうけど、でもメアリーさんが居なかったら無理だったと思う。私は、ラッキーだね」
そう言って笑うと、壱月は静かに首を振る。
「俺は、愛音が頑張った結果が巡り巡って、愛音自身を助けてくれたんだと、思う」
「そうかな……」
照れくさくなって、それを誤魔化すようにエヘヘと笑う。
「ああ。でも、もっと俺に甘えてもいいからな」
「え?」
見上げた壱月は、窓の外のどこか遠くを見ていた。
「俺がいないと生きていけない、と言ってもいい。俺はどんな愛音でも、ずっとそばにいたいと思う」
言いながら、壱月の耳が赤くなる。遠くを見ていたのは照れ隠しだとわかり、今度は私がクスクス笑ってしまう。
だけど、気持ちはとても嬉しい。こんな彼だから、私は大好きなのだ。
「壱月」
ん?と振り返った壱月の腕に、私はぎゅっと抱きついた。
「私の未来には、壱月がいて、花斗がいる。おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ずっとずっと隣には壱月がいるからね。そうじゃない未来なんて、考えられないよ」
そのたくましい腕に、頬ずりをしてみる。
そのまま見上げた壱月は、優しく微笑んでいた。
「俺もだ。というか別に、不安になったわけじゃない」
「それはわかってる。ちょっと、寂しかったんでしょう?」
意地悪くニヤリと笑って見せると、壱月はそんな私に触れるだけのキスをする。
「まだパーティー中だから」
「構わないだろう。俺たち、夫婦なんだから」
今度は壱月がニヤリと意地悪く笑う。それで、私たちは互いに笑いあった。
*
「楽しかったね!」
パーティーからの帰り道。
すっかり日が沈むのが早くなった暗い道を、花斗と壱月と手を繋いで歩く。
どうして私が真ん中なのかというと、花斗が飛行機の模型を手に持っているから。
クリスマスパーティーはお子さんもいる家庭もあるからと、夕暮れとともにお開きになった。
最後に行われたプレゼント交換で、子度も用のプレゼントから花斗が手に入れたのが、今手にしている飛行機の模型だった。
詳しいことはわからないが、今まで持っていた飛行機のおもちゃよりは本格的なディテールで、大人が部屋に飾っていてもおかしくなさそうなデザインだ。
そして、案の定壱月が私と手を繋ぎたいという。
私の旦那さんは、どうやらとても甘えん坊らしい。
「なあ、愛音」
「んー?」
飛行機をビューンと掲げながら歩く花斗を横目に見ながら歩いていると、不意に壱月に話しかけられる。
「俺さ、考えたんだけど」
「なに?」
「結婚式、挙げないか?」
ちょうど横断歩道が赤信号になり、立ち止まった所で壱月がそう言った。
「結婚式?」
「ああ、花斗が小さかったり、お互いに仕事忙しかったり、……他にもいろいろあって、挙げていなかったから」
「でも……」
それは私と壱月が話し合って決めたこと
だ。
そう続けようとしたら、壱月がゆっくりと首を横に振った。
「今日みたいに家族でパーティーに参加したら、まだ愛音のことを知らないヤツも結構いたから」
「だからこそ、こういう機会に参加したらいいと思う」
私が言うも、壱月は再び首を横に振った。
「俺としては、愛音は俺の嫁さんと皆に知らしめたい。それに、きちんと祝ってもらう機会をつくったら、少しは愛音に向けられる妬みも減るんじゃないかと、思ったんだ」
つまり壱月は、私を守るために……?
胸が急にポワっと暖かくなる。
「メアリーさんにも言われたんだ。結婚式に呼んでもらいたかった、愛音のウェディングドレスはさぞ綺麗だったんだろうって。で、想像したら、……俺も見てみたくなったんだ。愛音の、ウェディングドレス姿」
だんだんと小さくなる語尾に、愛しさがあふれ出す。
じっと壱月を見ていると、信号が青になったらしい。壱月が先に歩きだす。
そんな彼に、私は口を開いた。
「私も、見てみたいよ。壱月の、純白のタキシード姿」
思わず想像して、絶対に似合うと思ったら、口から勝手にそうこぼれていたのだ。
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コメント
1件
うわあ、もうクリスマスパーティーの余韻がじんわりと心に沁みる回でしたね……! メアリーさんがジョージさんの奥さんだったっていう伏線の張り方、さりげなくて好きです。そして壱月が「結婚式を挙げないか」と切り出す流れ、彼なりの愛音を守りたい気持ちと、ウェディングドレス姿を見たいという照れ混じりの本音が混ざっていて、すごく人間味があって温かかった。最後の「純白のタキシード姿」って返しも、愛音らしい素直な愛情表現で良かったです。二人の関係性が地に足ついて育ってるのが伝わってくるし、花斗の飛行機模型のディテールにまで目が行く愛音の視点も、この家族の空気感を形作ってるなあと感じました。