テラーノベル
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『らぶ美さんの写真送ってよ』
画面を見た瞬間、心臓がどくりと跳ねた。
(しゃ、写真……!?)
思わずスマホを伏せる。
(待って……距離感間違えたと思ったけど……やっぱり踏み込んで正解だったってこと?)
(写真なんてどうすれば……)
恥ずかしくて羞恥にさらされた気分になる。
だって、こんなの……。
知らない男に写真を送るみたいなものじゃない!
……いや、違う。
相手は知らない男なんかじゃない。私の夫だ。
その事実が、余計に気持ち悪かった。
「なんなのよ、ほんと……」
慎一は、今。私だと気づかないまま、別の女に夢中になっている。
しかもその別の女が、私。
滑稽すぎて、吐き気がした。
スマホがまた震える。
『恥ずかしがり屋?(笑)』
続けてもう一件。
『顔見たいな』
ゾワッと鳥肌が立つ。
その時だった。
ピコン♪
今度は、今日入ったサロンのグループチャット通知だった。
ユカリ:困った時は相談してね♡
ああ、救世主!!
私はすかさず夫から連絡がきたことをそのまま伝えた。やり取りして、写真送れって言われたところまですべて正直に。
それを読んだオーナーがメッセージをくれた。
MAKOTO:顔は絶対に映さないでください
美輪:どうしたらいいですか
既読が次々につく。
最初に返ってきたのはリリコさんだった。
リリコ:男なんて単純だから大丈夫
カスミ:全部見せる必要ない。
カスミ:生活感を消して 部屋だってバレるもの映さない方がいい
ユカリ:鎖骨だけでも充分釣れるよ~
画面越しなのに、不思議だった。
誰かに「大丈夫」って言われたの、いつぶりだろう。すごく安心する。心強い。
MAKOTO:見えそうで見えない が最も想像力を刺激します
その一文だけで、急にこの写真を送ることが、戦略に変わった気がした。
私は洗面所の鏡の前に立つ。
パジャマ姿でぼさぼさの髪。
泣き腫らした目にやつれた顔。
こんな自分を、慎一は女として見なくなった。
でも。
裏垢の向こうでは、私がどんな姿をしているのか、想像して夢中になっている。
「……バカみたい」
私はスマホを構えた。
顔は映さない。鎖骨から胸元まで。
ピスタチオのケーキを持ちながら、
少しだけ唇を写す。
照明を落として、
柔らかくぼかす。
まるで別人みたいだった。
(これが……らぶ美)
送信ボタンの前で指が止まる。
怖い。
でも。
ここで逃げたら、また今までと同じだ。
『私今、ケーキ食べてました。いっちゃんさんの写真も欲しいな~♡』
私は覚悟を決めて、画像を送った。
数秒後。
既読。
そして。
『ヤバ……めっちゃタイプ』
即レスだった。
『こういう色気ある人好き』
さらに。
『旦那、見る目なさすぎじゃない?』
「っ……」
思わず奥歯を噛み締めた。
誰のせいで、私はこんなに苦しんでると思ってるの?
でも、怒りより先に、別の感情が胸を刺した。
効いてる。
慎一は完全に、らぶ美に食いついている。
すると再び
『今度、会わない?』
夫が私を口説いている。
『いっちゃんさんの写真送ってくれたら考える』
『タイプだったらいいな♡』
ツッこみすぎたかな。いや……どうだろう。
既読が付いたけど、返信がなくなった。そうだよね……やっぱり画像は無理――
ピコン♪
『最近のいちばんお気に入りの写真』
それは、口元こそ加工して隠しているけれど、明らかに慎一とわかる写真。
だってこの写真、私が撮影して持っているものだから。
『素敵♡ また連絡する』
『待ってるよ!!』
さあ。引っかかった。どうやって調理していこうかな――
※
翌日。夫を見送った後、お昼時にサロンへ出向いた。オーナーがおいでと誘ってくれたのだ。リリコさんたちはもう集まっていた。
「きたきた! 美輪ちゃん待ってたよ」
「MAKOTOがランチご馳走してくれるって。一緒に食べよう」
「デザート付きだよ~☆」
サロンに入るとみんなが出迎えてくれて、わっと私を取り囲んでくれた。
「美輪ちゃん、昨日頑張ったじゃん!」
「進捗聞いた時はどうしようかと思ったけど」
「よく乗り切ってエラーい☆」
口々に褒めてくれて、ほんとに嬉しい。
昨日の功績を湛え、オーナーがランチをご馳走してくれるなんてありがたい。
「美輪さん、昨日はお疲れ様でした。本日はゆっくりランチを召し上がってください」
ややトーンの低いハスキーボイス。宝石ジェンヌと呼ばれるだけのことはある。この中世的な雰囲気がいいんだろうな。
オーナーを囲うように席に着く。すでにランチは用意されていて、パン、コンソメスープ、サラダが並んでいる。
私が席に着いてから、メインディッシュに上品な牛フィレ肉のステーキ、横に添えられたキノコパスタの入ったお皿を置いてくれた。めちゃくちゃ豪華だよ~!
「おいしそう……ほんとうにご馳走になってもいいのですか?」
「はい。昨日、美輪さんお誕生日だったというのに、お祝いが店のケーキを持って帰ってもらうくらいしかできませんでしたから。1日遅れましたが、お祝いしようと思いまして。おめでとうございます」
「オーナー……」
30歳になって、知らない人から誕生日を祝ってもらうなんて、想像もしなかった。
「ありがとうございます……」
滲む涙をぬぐいながら、温かなスープを口にした。おいしい。すごくおいしい……。
パンやサラダ、お肉の焼き加減もちょうどよくて柔らかい。そして、キノコパスタはもっちりした触感と、味付けが最高にマッチしていておいしい。
これが、うまく調理するってことなんだ。
私は今、慎一を倒す証拠を手に入れたばかり。でも、まだ調理法がしっかりしていない。
「デザートの前に、美輪さんに見ていただきたいものがあります」
オーナーが封筒を渡してくれた。
「次のレシピです。どうぞ」
早速中を確認する。入っていたのは、GPSとICレコーダー、そして……
『制裁レシピ 第二工程 ――愛人を、社会的に料理する』
――!!
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