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「お父様、そんな顔はしないでくださいませ」
「……アンナ」
「はい」と返事をして、父を見つめる。心配してくれているのが伝わってくる。そう、大切にされていることがこんなにも伝わってくることに胸がいっぱいになりそうだ。
「心配はいりません。私は、ここ数年、きちんと考えてきました。この『予知夢』をみる意味も含め、将来のことを。お父様が心配してくださることは嬉しいですが、私は私の選んだ道を信じたいです」
ニコリと笑かける。それでも不安そうな表情は変わりはしない。「続きを」と促すと、頷いてくれた。
「ジョージア様とは、来年、私の学園への入学に伴い出会いますが、特にこれと言って私たちに接点があるわけではありません。夢の記憶でいうと、何かのきっかけで少しお話するくらいだと思います。内容までは覚えていませんが、とても楽しかったと記憶しています」
隣にいる兄から少しホッとしたような気配がするのは何故なのだろう? 私はそんなに恥ずかしい妹なのだろうか?
「普段のジョージア様といえば、周りにいる人たちのさらに外側から私を見ているというところでしょうか? 手紙のやりとりやお付き合いなど一切ないのです。むしろ、夢では殿下とハリーが私の周りをうろうろしているせいか、話すこともままならない感じですよ」
「それは、今も同じではないか?」
「そうですね?いつも私と一緒にいてくれるのは、ハリーですね。お兄様も一緒にいてくれてもいいのですよ?」
「……遠慮しておくよ。場違いだし、アンナと違って、殿下のご学友でもないしね?」
「そうですか?」と兄の方を見れば、困ったような表情だ。
「……いつもはそんな感じですけど、私は、ジョージア様を見つけますし、彼も私を必ず見つけます」
断片的な夢を繋げて語っているので、私の想像も含まれている。
ただ、夢の中で語られたことも覚えている限りは話しているので大きな間違いはないだろう。
「余談ですが、私、殿下と婚約するとかしたとかの噂も流れるらしいのですが、お父様にはしっかり断っていただきたいです。その代りと言っては何ですが、私の友達になる予定の子を後押ししてください。そのときになれば、誰かはお話します。まだ、その方に出会っていないので、その方が実在されているのかどうか……」
「どんな子なんだい?」
「彼女は、トワイス国の公爵家の出で第3妃になるのですが、寵姫となります。後押ししておいて我が家にとって損はないでしょう。このことは大変言いにくいのですが、王妃となられるローズディアの公女は第1王子を生んでからすぐに産後の産褥がよくなくほどなくして亡くなります」
「それは、本当なのかい?」
「えぇ、本当です。ローズディアの公爵家であるアンバーには情報がおりてきますから。病気で亡くなったことになりますが、実際は……体の弱い方なのですかね?」
「それは、わからぬな。隣国の公女なら、情報を集めておいたほうがいいだろう」
「はい、お願いします。殿下も公女には深く愛情を抱いていたのでしょうね。かなり傷心されます。政務には影響ありませんが、プライベートになると生気の抜けた屍のような感じに。殿下の心を救ったのが、その第3妃となる公爵令嬢です」
父は、陛下から殿下と私の縁談をすでに打診されているのだろうか? メモを取っていたペンが同じところをくるくると回っている。
「ちなみにですが、寵姫には子供は王女が二人生まれます。どちらかが降嫁され、お兄様の子供のお嫁さんですよ」
「サシャも結婚はできるのね。それを聞けただけでも、今はホッとするわ」
「母上……僕をなんだと」
「……いわないといけないですか?」
母の一言で、兄は押し黙る。自分がどんな性格であるか、自身が誰よりもわかっているから。
「私が知る限りでは、お兄様の奥様も素敵な方ですよ? 楽しみにしておいてください!」
「アンナの協力は?」
「そうですね……協力してくれるなら、考えておきます」
「何をしたらいい?」
必死な兄にクスっと笑ってしまう。人見知りな兄は、私とは別の意味で両親の心配の種だったのだ。結婚できるということと孫が生まれるということに両親も心のどこかではホッとしているのだろう。
「お父様もお兄様も、まずは、ローズディアの公女との婚姻を殿下に勧めてください。そのあとは、トワイス国の跡取りとして、ローズディアの公女が生んだ第一王子を王太子として推してください!」
将来生まれてくる我が子にとって大事な王子だ。父や兄には大切に扱ってもらわないと困る。たとえ、誰からも見向きされない王子だったとしても、二人が手を差し伸べるだけでも違う。
「アンナ……僕の奥さん……」
兄は、私のお願いより、自身のことに興味があるようだ。ため息をひとつしたあとチラリと睨む。
「それは、ご自分で探してください。二人の女性が夢に出てきました。どちらを選んでもいいという運命ではないので、ご縁のいい方と添い遂げられるよう力添えはしますが、あくまでお兄様が選ばないといけませんよ」
兄にはまだ、恋人がいないのだ。母は情けない兄にため息を、父は頭が痛そうにこめかみを抑えている。
一時間以上ゆっくり話をしていたため、喉が渇く。
「少し休憩をはさみましょうか?」
母が新しいお茶を用意してくれる。机にそっと置かれた紅茶で私は喉を潤す。
本当に母はなんでもできてしまうなと感心する。この入れてくれた紅茶もものすごくおいしい。
同じもので兄が入れると……なぜか飲めたものではないほどまずいし、私がいれると普通なのだ。ほぅと一つ息を吐くと少し気持ちが楽になる。
メモを取っていた父が、そのメモを見返しているのか、カサカサと紙をめくる音がしている。私の話は、まだまだ話は続くとばかりに母に紙の用意を頼んでいた。
兄は隣で「僕の奥さん素敵……」とつぶやいている。嬉しそうだ。
一息入れたところで、夢の続きの話を再開した。
「ここまでの話を要約すると、将来戦争が起きる。その結果が、アンナが1つ目選択をすると我が国は滅びる。我々も死ぬか……2つ目の選択をするとアンナが、アンバー公爵家の子息と学園で出会う。その時は何も起こらないが、のちにアンナと婚約をする。その公爵子息には、すでに婚約者候補がいるが、家格の問題でアンナが第一夫人となるということでいいかい?」
父が取ったメモを私に確認してくるので、コクンと相槌をうつ。
「殿下の側室と第一王子については、私も注意しておこう。サシャも気をつけておいてくれ。私が引退すれば、いずれ側近となるのだから……私の息子・アンナの兄として、もうその道は始まっていると思っていてほしい」
兄に向けての父の視線は、国の中枢にいる側近として厳しいものだ。
「そして、これから話す方が大事なのだろう。アンナ、君は、この国で殿下か宰相の息子と結婚するものだと皆に思われているからね?」
コクリと頷く。それは、周りというより両親が望んでいたことだろう。私がこの道を選びたい決意した理由を聞いてもらう。
「すでに想い人がいますと、陛下や宰相様には断っていただければ……ありがたいです。殿下はローズディアの公女とハリーは公爵家のイリア嬢と結婚するのですから……」
そこまで話を聞くと、さすがに母が話に入ってくる。
「もう、すでにわかっているのですか? 王太子妃になる方とヘンリー様の第一夫人になる方が……」
「はい。わかっています。そして、子供たちの名前も。すべて、私の子供とかかわることになりますから……お伝えしますか?」
父に視線を向けると「頼む」と言われる。仕える相手を間違えるわけにはいかないからだそうだ。
「第一王子の名前は、ジルアート。こちらは、ローズディア公女の正妃そっくりです。傷心した殿下には、10歳ぐらいまで女の子のように育てられます」
「それは……気の毒ね」
「そうですね。ジルアート王子は隠されてしまうので、亡くなったと噂されたり幻の存在として扱われます。処遇はとても冷ややかなものになりますから、お父様とお兄様には、第3妃を立てつつ、ジルアート王子をよい方向に導いてほしいのです。この子の成長が今後を左右するでしょう」
「わかった。今後、みなで注意することにする」
「お願いします。ハリーの子供は、男女2人。妹のジュリアンナが私の子供と同じ年になりますので、その子のことしかわかりません。ちなみに、私の名前から付けられているそうですよ。ジュリ「アンナ」ですから。笑いますね……」
『ジュリアンナ』の話をすると、母が額に手をおいてため息をしている。この未来は、ハリーが、私に想いを寄せているという話になるのだ。私も憎からずハリーへの情はあるので、親たちがこの決意を反対したい気持ちがあるように感じる。
「話を戻しますね。私は、なぜジョージア様と婚約できるかというと、まず、お父様が縁談を断り続けてくれること、お兄様も私の縁談については素知らぬふりをしてください。最難関は、殿下からの求婚です。陛下も乗り気ですから……これが一番厄介ですよ?」
殿下の求婚は、陛下も関わっているらしい。今度は父が頭を抱えている。すでに陛下からの打診は、何回もあるそうだ。断り続けている父には本当に感謝だ。
母の方にも正妃から打診を受けているとのことだ。こちらも、断り続けてくれているらしい。
両親とも頭を悩ませる日々は、まだまだ続きそうだ。それにしても、自分で言うのはなんだが、よくこんなじゃじゃ馬な子を未来の王妃にと考えられるものだ。