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「じゃぁ、それでお願いします」
翌朝、涼ちゃんはマネージャーさんに連絡をした。はじめは困惑気味だったけれど、元貴のことを伝えるとすぐに動いてくれた。チームの皆が元貴を大事に思ってくれているのが嬉しかった。
「元貴、もうすぐ終わるからね」
涼ちゃんの言葉の通り、マネさんに頼んだ翌日にはプロデューサーの悪行が各メディアで放送された。被害者はもちろん伏せられているが、元貴だけでなく沢山の人に手をかけていた事が分かった。あいつの進退にまで興味ないが、この業界でやっていけないことだけは確かだろう。
今日も音楽番組の収録が終わった。元貴は安心したのか、のびのび歌えていたように思う。無事に収録も終わり、元貴がお手洗いから帰ってくるのを待っていた。俺は涼ちゃんと元貴の寝顔フォルダを見返していた。気がつけば時間が経っていて、時計の針が半周していた。それなのにまだ元貴は戻ってきていない。
「涼ちゃん、元貴遅くない……?」
嫌な空気が楽屋に漂っている。俺も涼ちゃんも耐えきれなくなって、慌てて楽屋を飛び出した。突然体調が悪くなったのか。それ以外なのか。とにかく無事でいて欲しいと、それだけしか考えられなかった。
side:mtk
ずっと、深海に沈んでいるような感覚だった。どこに行っても、あいつに見られている。あいつに触られた肌が波打っている。そんな気がして、落ち着かなかった。若井たちといる時は少し落ち着いたけれど、今度は皆にバレてはいけないというプレッシャーで胸が張り裂けそうだった。
「元貴くん、そろそろ考えなよ。一番賢いやり方が何か…」
「触らせるだけじゃダメって分かってるよねぇ…僕のことも、満足させてくれないと」
あぁ、吐きそう。こうやって俺の人生はこいつに縛られるのか。そう思うと目の前が暗くなり始めた。
「元貴くん、これ何かわかる?そう、上手く撮れてると思わない?」
「こればら撒かれたくないでしょう?次はちゃんと準備してきてね」
「絶対逃がさないから」
あ…もう、やだ……
気付いたら部屋はボロボロになっていた。若井と涼ちゃんがこっちを見てる。
それからの記憶は曖昧だった。それでも、2人の温もりだけはよく覚えていた。
収録の帰りにあいつと鉢合わせて、手を掴まれた。若井たちからはバレないように袖口に紙を入れられる。きっと、今夜のお誘いだ。全身から力が抜けていく。やだ。やだ。やだ!
逃げたいけど、逃げられない。2人に頼りたいけど、頼れない。結局家に居たがる2人を追い出して、僕はあの男を招き入れた。
抵抗出来ないように、手錠をかけられて体を触られる。できるだけ心を無にして。なにも感じないように。いよいよ下着を脱がされそうになったところで男の携帯が鳴る。トラブルがあったみたいで、苛立っている。苛立ちを発散するようにお腹を拳で叩いて男はいなくなる。
あぁ、助かった。頬から流れるものには気が付かないふりをして、意識を落とした。
翌朝、若井に腕の痣がバレてから事態は急変した。全部分かっていたかのように2人も、チームも動いてくれた。あの男はもう干されたのか、どうなのか。分からないけど、皆と一緒ならどうにかなる気がした。
番組の収録が終わり、お手洗いに行こうと局内を歩いていた。突然、手を掴まれる。気付いたときには遅くて、近くの部屋に引きずり込まれた。暗くて何も見えなくて、それでも背後からのしかかる気配は嫌という程知っていた。
「つかまえた、元貴くん」