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ピーンポーン
突如として、暗い家には似合わないやけに明るいインターホンの音が家中に鳴り響く。
俺は”薬“の瓶を閉めると安定しない体を立たせ、玄関のドアスコープから外の様子を伺う。外を見ると、其処にはいつもと違い、左目に白い眼帯を付けた幼馴染である潔の姿があった。
眼帯をしてない方の目は何処か虚でぼんやりとしている様なはっきりとしている様な表情を浮かべている。
「ねえ俺知ってるよ?凛が1人“XX”してるの知ってるよ」
潔はスマホを口元に掲げ絶妙に重要な部分が聞こえない声でそう呟くとコンコンと軽快なリズムでドアをノックする。
何で、俺が“XX”したの知ってるんだ。
「ビクンビクン震えてさ 声もダダ漏れなんだよ」
囁く様に口元に手を当て、潔は再びドアの前で呟く。
俺はその一言で自身の心臓が急激に冷え、背中に嫌な冷や汗が伝う。
もしかしてあの事がバレてしまったのだろうか。
…いや、そんな筈はない。
不安になる気持ちを抑え俺は耳を塞ぎ、ドアの前に座り込む。
自分の心臓がドクドクと脈をたてる音が体中を駆け巡る。
暫く潔はドアの前でしゃがみ込んだり、左や右に行ったりと廊下を彷徨いた後再びドアの正面に立つ。
「正直に言っちゃえよ バレてるんだし言っちゃえよ。なぁ、凛聞いてんの?…恥ずかしがる必要なんてないよ。皆隠してるだけ」
最初の質問とは裏腹に最後は俺を慰める様な優しい声でそう呟くと
「…明日もまた来るね」
という一言を最後に潔は俺の家を後にした。
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「ねえ、俺知ってるよ?君が1人涙してるの知ってるよ」
潔は宣言通りあの日から次の日、また次の日と日を重ねここに通い詰めてもう1ヶ月程たつ。
俺が返事をしなくてもそれでも通い詰める潔に少しばかり恐怖を抱く。
眼帯をしているのは怪我のせいなのか時間がたっても相変わらずといった様に付けていた。
「弱音吐いたって良いんだよ?何度でも受け止めてあげるから。
だから、もう我慢しないでいっぱい出してよ」
甘く優しく此方を溶かす様な甘い声で潔は囁く様に呟く。スコープ越しに見る瞳は深く青い海の様でまるで俺を溶かす様にどろりと溶けている。
「俺、凛がどんな事をしても、それでも好きだよ?」
くすりとドアの前で何処か妖艶に微笑む潔に自身の心臓が痛い程音をたてる。
俺は耳を塞ぎ、甘い言葉に堕ちてしまわない様に自身を抑え込む。
あの青い瞳で見つめられるだけで気が狂いそうだ。
痛く心臓と頭を抑えながら俺は唾を飲み込む。
潔はいつもと同様ドアの前を暫く彷徨った後、再び笑みを浮かべると気になる一言を残していった。
「…あと、もう少しだな」
***********************
ピーンポーン
俺はここ最近すっかり聴き慣れてしまった何度目かのインターホンの音を聞き、ドアスコープを覗き込む。
「っ…!?」
ドアの前にはひたすらに「見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい見たい」と狂った様に笑い呟く潔の姿があった。
ハイライトの浮かばない青い瞳がドア越しで俺を見る様に渦を巻く。
俺は驚きのあまりドアスコープから目を離す。
狂った様な瞳が脳内を駆け巡る。
ぐるぐると回る気持ち悪さに吐き気がする。
俺が気持ち悪さ嗚咽を漏らしていると、コンコンと軽快なリズムと共に優しい声がドア越しに聴こえてくる。
「…俺、凛は出来る子って知ってる。辛い時は弱いくらいが丁度いい。
凛が病めるときも、俺側にいるよ。だから、頼ってよ」
潔は囁く様に俺に問いかけた後、想いを吐き出す様に静かに呟いた。
「凛の痛みも苦しみも俺が全部背負うから」
俺はその言葉に釣られ、気持ち悪さも忘れ勢い良くドアを開けた。
「凛、」
潔は出てきた俺に驚いた様に目を見開く。潔の姿を見た瞬間、心に張り詰めていた糸が解けていくのが分かる。
ぽたりぽたりと自身の頬に温かな雫が伝う。
「いさ、ぎ…、いさぎ、潔潔。俺、俺…っ」
「うん。分かってる。凛、全部分かってるよ」
必死に名前を呼び、涙を流す俺を潔は優しく抱きしめる。暖かな体温と優しい言葉に更に涙が溢れ出す。
一回り俺より小さい体、爽やかな香水の香り、優しい声。その1つ1つが俺を安心させるものだった。何度も名前を呼ぶ俺に答えるかの様に潔は何度も返事を繰り返した。
いつまで、そうしていただろうか。
潔はゆっくりと俺の身体から腕を解き、哀しそうな瞳で俺も濡れている頬を優しく撫でる。
青い瞳にターコイズブルー色の俺の瞳が反射する。
口を開くとひどく静かな声で潔は呟いた。
「…片付けよっか、」
“真っ赤”に染まった部屋に潔の言葉が響き渡った。
『_____続きまして次のニュースです。先月から、スペイン在住の 糸師冴選手 さんの行方が分からなくなっています。冴さんの専属マネージャーさんの証言では自身のスマホに「家族に会いに行く」というメッセージだけが残されていた様です。現在、警察は失踪事件として捜査を進めています』