テラーノベル
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昼下がりの月光。
杠は厨房の片隅で皿を磨きながら、平和な時間を満喫していた。
杠「(今日は静かだなぁ……こういう日が続けば平和なんだけど)」
そう思った矢先、
「ドンッ!!!」と勢いよく扉が開く音がした。
杠「うわっ!? な、なに!?」
勢いよく入ってきたのは――
赤いチャイナ服を着た、小柄な少女。
その後ろには、やる気のなさそうな細身の男が腕を組んで立っていた。
「邪魔するネ!!」
杠「いらっしゃいませ!?!?」
裏から出てき光たがカウンター越しににこやかに笑う。
ヒカリ「いらっしゃいませ。ようこそ月光へ。ルー様。ショウ様」
ルー「ヒカリ!またこの前の客、ルーの店に取られたネ!悔しいネ!!」
光「それは残念でございますね」
杠(取ったも何も、うちは別ジャンルでは……?)
ルー「許せないネ!!だから今日は店の今後を賭けた料理勝負するネ!!どっちが“真の料理人”か決めるネ!!」
杠「(ちょ、ちょっと待って!? 料理勝負!? 店で!?)」
光は微笑を崩さず、静かにうなずいた。
光「かしこまりました。」
杠「光さん!?」
横から見ていたサグメはニヤリと笑う。
サグメ「面白いねぇ。じゃあ審査員は杠くんとショウにしよっか」
杠「僕!?」
ショウ「は?」
テーマはルーの得意料理、麻婆豆腐に決定
厨房に熱気が満ちる。
杠は両者の間でおろおろしながらも、メモ帳を片手に実況を続けていた。
杠「ルー選手、豆板醤を3種類ブレンド! ヒカリさんはなんと市販の豆板醤!?」
杠は思わずサグメの袖を引く。
「ねぇ……だいじょうぶ? 相手、すっごい自信満々だよ?」
「心配ないさ。ヒカリさんは、味の“波”を読むのが上手い」
「ルーを舐めてもらっちゃ困るネ!」
金色龍の厨房で鍛えた手さばきは伊達じゃない。
ルーは豆板醤、甜麺醤、豆鼓(とうち)をひとつずつ味見して、即座に比率を決めた。
中華鍋を熱し、油を煙が上がる寸前まで熱する。
そこに挽き肉、にんにく、生姜を投入
爆ぜる音と同時に、厨房全体に香ばしい香りが立ちこめる。
「うわっ、すご……」杠が思わず目を丸くした。
「これが火の呼吸ネ!」ルーは得意げに笑う。
「強火で、辛味も香りも最大まで引き出すネ!これがルーの流儀!」
炒めた肉にスープを注ぎ、絹ごし豆腐を丁寧に沈める。
ラー油の紅が混ざり、まるで溶けた夕焼けのような色になる。
ルー「最後に山椒を……倍量ネ!」
ショウ「倍って……口、死ぬよそれ」
ルー「舌が死んでも心は生きるネ!!」
ルーは叫び、勢いよく鍋を振った。
ヒカリの手元は無駄がない。
サグメ「鍋の温度、180。あの人、また勘で合わせてるね」
光は豆板醤を少量ずつ油に溶かして、じっくり時間をかけて炒める。
さっきまでのルーの爆音とは対照的に、こちらはと静かな音だけ。
ヒカリ「焦げる寸前まで香りを育てて、脂に移す。辛味じゃなく、記憶を残すのです」
香辛料とネギを加え、スープを注ぐ。
香りは穏やかだが、深く、丸い。
杠の鼻をくすぐるその匂いは、どこか懐かしさを誘った。
杠「…これ、なんか安心する匂いですね」
光「料理は戦いではございません。
『思い出』を蘇らせるものでございます。」
ヒカリの声は穏やかで、どこか優しかった。
「はい、完成ネ!!」ルーが審査員の杠と男の前に皿を差し出す。
燃えるように赤い麻婆豆腐。
一口食べた杠の目に涙が浮かんだ。
「か、辛っ!!でもうまっ!!」
「ふんっルーの勝ちネ!!」
「まだだよ」ショウは静かに口を拭う。
「次、月光の」
ヒカリの麻婆豆腐は、まるで淡い金色の月のよう。
見た目は地味だが、口に含んだ瞬間舌の上で溶ける豆腐の柔らかさと、あとからくる深い旨み。
辛味は控えめなのに、なぜか箸が止まらない。
ルー「結果はどっちネ…!」
ヒカリ「お教えください杠様、ショウ様」
杠「僕はどちらも決められないほどおいしかったです。えっと…そちらは…」
ショウ「月光のほうがうまい、月光の勝ち」
会場の熱気が歓声とともに押し寄せる。
ルー「な、なんでネ!?なんで裏切ったネ!!!!!」
ルーは悔しげに叫ぶ。
ショウ「ルー様の味食べ飽きました」
ルー「酷いネ!!!!」
ヒカリが笑いながら手を拭う。
ヒカリ「感謝いたしますショウ様」
ルー「むぅぅ……ずるいネ!でも…ルー、負け認めるネ!」
ルーはぷいと顔をそむけるが、どこか嬉しそうだ。
ルー「ショウ!帰るネ!次はカレーで勝負ネ!」
ショウ「はいはい、っと……。あー、また、食べに来ますんで。次は客として」
扉が閉まる。
月光の厨房に、再び穏やかな音が戻った。
去り際、ショウはサグメをちらりと見た。
「……やっぱ、どっかで会ったことあるんだよな」
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