どうしてこうなったのかわからない。
いや、本当はわかっている。
行き過ぎたやきもちを焼いてそれを涼ちゃんにぶつけてしまったせい。でもまさか別れ話にまで発展してしまうとは思いもしなかった。
昨日の夜、家で2人きりで過ごしていた時、昼間に涼ちゃんが他のアーティストと仲良さそうに話をしていて、挙句食事に行く約束なんかもしちゃってるのを目撃してしまい、もやもやと苦しい気持ちに襲われていたのをぶつけてしまった。
「涼ちゃんは他の人と距離が近すぎるの···いっつもにこにこしてさ、なんかなんでも受け入れてくれそうだし、もっと気をつけてほしい」
片思いのときには無かった感情に気持ちが揺さぶられて最近心穏やかにはいられない自分がいる。
「そんなことないよ···それにそれで言うと元貴のほうが人との距離感が近いしっ」
「誰も俺のことをなんてそんな目で見てないの!涼ちゃんみたいに可愛くもないしヘラヘラっともしてない」
むぅ、と涼ちゃんが可愛くほっぺたを膨らます。そう、そういうのも他の人の前でするのは可愛すぎて嫌だ。
「〜っ!へらへらなんてっ!僕だって本当はね、いやなの!匂わせとかもねっ、あれよくないよ!」
「それは完全に白でなんにもないんだってば!」
「それでも嫌なものは嫌なの!」
売り言葉に買い言葉。
俺達はだんだんとヒートアップしていきすっかり喧嘩腰になっていた。
こんなこと言いたいわけじゃないのにどんどん変な方向に進んでいく。
「そういうのが嫌なら俺のことなんて捨てちゃえばいいんだっ」
ここまで言えば、きっと涼ちゃんはそんなことしないよって言ってくれるはず。そんな思いでそう言ったのに。
「なんでっ···そんなこと···」
ぐっ、と唇を噛んで目に涙を溜めた涼ちゃんが俺を見つめる。
まさか泣くなんて。
どうしよ、と一瞬焦った俺に涼ちゃんははっきりとこう告げた。
「そんなこというなら、仕方ないね」
ドクン、と心臓が大きく鳴る。
仕方ない?仕方ないってなに?
そんなことを思っている間に涼ちゃんはパッと立ち上がり、荷物を掴む。
「バイバイ、僕帰るから」
「えっ、ちょっと涼ちゃん?!」
すると驚くくらいの速さで涼ちゃんが部屋から飛び出していき、完全にそんな予定の無かった俺は慌てて追いかけたものの、目の前でバタン!と大きな音を立てて玄関のドアが閉まって出遅れてしまった。
「うそでしょ···?」
部屋が一気にシン、として俺はただ1人取り残されてしまった。
ちょっと待って、もしかしてバイバイって別れるってこと?!
涼ちゃんがまさかあんなに怒って出ていってしまうなんて。
そんな予定じゃなかったんだよ。
ごめんね、ううん、だって涼ちゃんが可愛すぎるからさぁ、なんていう甘い展開の予定だったわけで。
自分のやってしまったことを思い返し、最低なことした、終わったかも···とその場にへたり込んでしまった。
そのあと電話しても、家に帰れた?とメッセージを送っても既読スルーで何の返事もないまま夜は明け···。
朝、スタジオでも涼ちゃんは俺のことをスルーしていた。
話かければ挨拶はしてくれる。
質問も聞けば答えてくれるけど必要な事以外は全く話さず、それは周りからみても「喧嘩してる」っていうのが見て取れるくらい酷い状況だった。
少しの休憩時間も涼ちゃんは俺と一緒にいたくないのか部屋から出ていってしまった。
「えーっと、喧嘩した?」
若井が俺に声を掛けてくれる。
周りのスタッフは気を使ってか俺と若井から離れて作業をしてくれている。
「···おっしゃる通り」
「そんなこともあるんだね、なにが原因なの」
「俺のせいなんだけど···別れるって言われた···かも」
「それはないでしょ···あの涼ちゃんだよ?」
ポン、と背中をたたいて隣に座ってくれる。
「俺が嫉妬して伝えたら言い合いになって、バイバイって···どうしたらいいの俺···」
「まぁ涼ちゃんも結構我慢してたからなぁ···」
「我慢?どういうこと?」
若井が口を抑えてマズイ、って顔をする。
「あー、まぁ···詳しくは仕事終わってから話そ、ここではなんだし」
その時ちょうど涼ちゃんがチラリと俺たちを見て、けどなんの反応もせずに持ち場に戻る。
涼ちゃんのあの表情はかなりキツイ。
いつもにこにこってしてるから余計に···もう俺のことなんて知らない、みたいな関心ない表情に苦しくなって俺ははぁ、と思わずため息が出た。
コメント
7件
仲直りしてほしいなぁ……
💛ちゃんの我慢、気になります🤭
あらら⋯これはまた派手に衝突したな。仲直りが大変そう。大丈夫かな?