コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヲノはカカシジに向かって走る。そしてカカシジに向かってブレードを振り下ろす。
カカシジは角の筋肉量を増やし、ヲノの攻撃を防ぐ。しかしブレード。
いくら筋肉量を増やし硬くしようが傷はつく。片方の角から微量の血を流すカカシジ。
「全然喰らってねぇ」
「今度はオレの番!」
ダインもカカシジに向かって走っていく。
「あ。ダインって走れるんだ」
ヲノは意外な事実を知り、ダインはハンマーを振り上げる。しかし素早さはカカシジのほうが上だった。
カカシジは頭を地面にスレスレまで下げて、勢いよく振り上げる。
するとちょうどハンマーを振り上げたダインの腹部の辺りに角が。
「ぐっ」
体重がそこそこありそうなダインが宙に舞う。
「ダイン!」
ヲノも思わず宙を見る。ダインはカカシジの攻撃をもらったものの
空中で体勢を立て直し、宙に放り出されたことを逆手にとって
「さよなら!」
相当な高さからカカシジに向かってハンマーを振り下ろした。
ドーン!とものすごい音をさせ、土埃を舞上げ、ダインが着地した。
「おぉ〜」
ヲノはブレードを小脇に抱え、ダインに向け拍手を送る。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「でも大丈夫なのか」
「あぁ。まあ、多少来たけどな。さすがに。でも誇り高きムスコル族だし、腹も筋肉すごいんだから」
「おぉ〜。さすがです」
改めて拍手を送る。
「いや、ありがとうございますありがとうございます」
後頭部を掻きながら照れるダイン。そんなほのぼのとした雰囲気を壊すように
ヲノとダインのちょうど間に大きな岩がものすごい勢いで通過する。
ヲノとダインがそちらに視線を向ける。土埃を切り裂くように前脚が出てきて、角も姿を見せた。
「嘘だろ」
驚くヲノだったが、さすがにダインの攻撃は致命傷だったらしく、脚はフラフラ。
筋肉でできた角も筋肉量を増やせないのか
ついさっきまでは隆々のゴツゴツした立派な角だったのだが、弱々しい角になっており
両目から血を流し、口からも血が流れていた。
「まだ生きてたか。マズイな」
「マズイ?」
いや、もう瀕死だろ
とヲノが思った途端、カカシジが緑色の光に包まれる。
「は?」
「振り出しか」
ダインは息を整えるようにハンマーを地面に置いた。
緑色の光に包まれたカカシジはみるみるうちに元気を取り戻していった。
「え…。え?」
「さて。もう1回戦」
ダインが肩を回す。
「いやいやいやいや。当たり前みたいに」
「あぁ。そうか。ヲノはカカシジ初めてだもんな」
首がもぎ取れるほど頷くヲノ。ダインが太い人差し指である部分を指指す。そちらに視線を向ける。
「…角がー…ない。メスのカカシジ?」
目を細め、遠くのメスのカカシジを視認する。角のないメスのカカシジの耳は淡く緑色に光っていた。
「最初に言ったろ?カカシジはペアや集団で行動するって」
「おう」
「その理由がこれ」
とオスのカカシジに視線を向けるダイン。
「オスのカカシジは闘って、メスはオスのサポートをする。
ヒール魔法、治癒の魔法とか攻撃力を上げる魔法とかが使えるメス」
「ガチか…」
項垂れるヲノ。
「んで、1番厄介な魔法がこれ」
巨大なクレーターのような凹みの中にいるオスのカカシジ。
両目から流れていた血は止まったものの、血の跡がまるで赤いメイクを施したようになっており
口の血を唾と共に吐き出したその姿は、先程のカカシジより何倍も強そうに感じた。
「なんか…雰囲気がまるで違うな」
「瀕死になった状態にしか施せない魔法。エルフ族に聞いたら、エルフ族も使える魔法らしい。
Vingema emergência(ベンジェーマ エメルジェンシア)っていう
火事場の復讐力っていうのか?体力でいえば3分の1ほどしか回復できないらしいが
その代わり、俊敏性、攻撃力、防御力が特段に上がるらしい」
「え」
絶句するヲノ。
「だから雰囲気が違ったのか」
「なんか歴戦の。って感じだよな。全然歴戦ではないと思うけど」
ハンマーを手に取るダイン。お腹をさする。
「腹、大丈夫か」
「あぁ。全然。戦いに支障はない」
「そっか」
オスのカカシジが前脚を地面を掘るように動かす。
「来るぞ」
オスのカカシジが動いた。しかし先程までの速さとはまるで違う。
先程までも速かったが、赤い目の残像が残るほどのレベル。
防御とも攻撃ともとれる、ダインがハンマーを
向かってくるオスのカカシジに向かって右から左にスイングした。
ゴーン!ともキーン!ともとれる轟音が鳴り響く。
オスのカカシジはほとんどダメージを喰らっていない様子だが
ダインはオスのカカシジの突進の勢いに負け、吹き飛ばされた。
「ダイン!」
ダインも踏ん張ろうとしたが、腹部のダメージのため、踏ん張りが効かなかった。
ヲノはオスのカカシジに向かって走る。右から左へスイングして斬りつけようと試みた。
しかし、持ち前の洞察力で軽やかにジャンプして、ヲノの攻撃を避けた。
「くそっ!」
オスのカカシジは着地した瞬間、地面に角をめり込ませ
先程よりも大きな岩を掘り上げ、ヲノの頭上に放り投げた。ヲノの周囲が影に包まれる。
「この影から出ればいいんだよ」
ヲノは冷静に影を見ながら影から陽の当たる場所へと足を踏み出した。
しかしその大きな影から出た瞬間、影が分裂した。
「は?」
オスのカカシジはヲノの頭上に放り投げた岩に、もう1つの岩を直撃させ砕き、小さな石にしてみせた。
「これは無理」
と諦めかけたが
「そうか」
ブレードを頭上に上げ、側面でガードすることを思いついた。
カン!ガン!カンカン!と石の雨が振る。石の大きさはまばらで
手に伝わる感覚も、軽いものもあれば手がジンジンするほど重いものもあった。
「痛ってぇ〜」
手を振るヲノ。オスのカカシジは首を傾げる。
「お。案外やるなってか?」
オスのカカシジがヲノに走って向かってきた。
「来いよ」
ヲノもブレードを構える。ヲノはオスのカカシジの突進を交わし
右から左にスイングしてカカシジの角を斬りつけた。しかし、先程の手ごたえよりはるかに硬く感じ
振り返ったオスのカカシジの角についている傷は先程よりも明らかに浅かった。
「なるほど?そういえば防御力も上がってんだっけか」
オスのカカシジは間髪入れずに突進してくる。
「さすがの俊敏性。でも体力は回復してないんだっけか?なら短期決戦だな」
ヲノは嬉しそうにブレードを構える。右から左にスイングする。
オスのカカシジはジャンプしてヲノの攻撃をかわす。
かわしたかと思ったら、角を地面に突き刺し、両後ろ脚でヲノの背中を蹴り飛ばした。
「ぐあっ!」
ヲノは土埃を舞わせながら、地面を転がった。
「…痛てて…」
ヲノは背中をさすりながら立ち上がる。
「角じゃないだけ助かったか」
ヲノと対峙するオスのカカシジ。オスのカカシジはヲノに背を向ける。
すると後ろ脚を使って地面を掘るように、土埃を舞上げる。土埃でオスのカカシジの姿が見えなくなる。
「姿が見えなくても大丈夫。姿が見えないほど素早く移動できるわけじゃない」
とブレードを構え、オスのカカシジが飛び出してきても斬りつける準備を整える。
しかし煙幕から飛び出してきたのは大きな岩。ヲノの頭上に放り投げた。ヲノが大きな岩の影に隠れる。
「なるほどな。でも影から出れば大丈夫」
ヲノが影から出る。しかし次の攻撃は煙幕からヲノに向かって放り投げられた大きな岩だった。
影を見るために下を向いていたヲノ。しかも岩のスピードはそこそこに速い。
「ヤベッ」
気づいたときには大きな岩はヲノのすぐ目の前。
ヲノが目を瞑り、相当な痛みを覚悟したそのとき、ヲノの目の前で大きな岩が砕け散った。
ヲノの額にコツンッっと小さな石があたった。
「痛っ。…あれ?」
目を開ける。岩は砕けており、その傍らにはダインのハンマーが落ちていた。
ダインがヲノに向かう岩に向かってハンマーを投げて、岩を砕いたのである。
「…戦線復帰」
と呟きながらヲノの側に来て、ハンマーを手に取る。
「助かった」
「おうよ」
「大丈夫なのか」
「ちょっと踏ん張りが効かなくてな。でも、直接攻撃を貰わなくて助かった。
ハンマーをかませてなかったら、そこそこ大ダメージだった」
「よし。無理すんな」
「大丈夫だ。行くぞ」
土埃がおさまり、オスのカカシジの赤い目が鋭く光った。
オスのカカシジは首を傾げる。その後2人に向かって突進してきた。
ヲノがブレードを右から左にスイングして斬りつけようとする。
しかしそのヲノの攻撃をオスのカカシジはジャンプして避ける。
そして先程と同じように角を地面に突き刺し、両後ろ足で蹴ろうとした。
「もう1人いること忘れてんじゃ」
ダインがハンマーを右後ろに振って
「ねぇー!」
左に向かってスイングしてオスのカカシジの蹴る攻撃に合わせた。
両後ろ足の攻撃は角よりも攻撃力は低く、オスのカカシジの攻撃が負けた。
オスのカカシジは回転しながら宙を舞い、地面に叩きつけられた。
「ナイス」
オスのカカシジは土埃の中、立ち上がり、地面から大きな岩を掘り出し角の上に乗せた。
オスのカカシジはどうするか考えた上で、2人の頭上に放り投げることにした。
ヲノとダインは少しだけ言葉を交わし、頷き、ヲノがダインのハンマーの上に乗る。
そのままダインはハンマーを振り上げる。
ヲノが宙に舞い、ヲノがオスのカカシジが放り投げた岩の上に着地する。
オスのカカシジはそれを見上げる。ダインは走ってオスのカカシジに近づき
「下下!」
ハンマーを後ろに振った。オスのカカシジが下を向こうとしたとき
上からは、岩の上からヲノがブレードの刃先を下に向けて飛び下りてきた。
下からはダインのハンマー。上からはヲノブレード。ダインのハンマーは下からオスのカカシジの顎をカチ上げ
ヲノのブレードは上からオスのカカシジの脳天を貫いた。
ブレードを引き抜き、ダインの近くに着地するヲノ。オスのカカシジは力無く倒れた。
「浄化完了。ナイス」
「そっちもな」
「さて。あとはメスだな」
とメスのほうに視線をやる。するとメスのカカシジはオスのように角を生やしてみせた。
「え!?マジ!?オスになれんの!?」
「いや?あの角はダミー。幻影。実体はない。だからあの角で攻撃されることもない。
突進してきて相手が逃げるように仕向けて、そのまま逃げるっていう戦法よ」
「ほうほう」
するとメスのカカシジは、ダインの言った通り突進してきた。
「ヲノ、やる?」
「お、おう」
ヲノはブレードを構える。メスのカカシジは果敢に走ってくる。
「すまん」
ヲノは向かってくるメスのカカシジの首を斬った。
「かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
ヲノ、ダインはオスとメスのカカシジを肉屋に持っていき、対価を貰い
いつもの大衆食堂というか、居酒屋で武器屋のおっちゃんと合流して乾杯をしていた。
「いやぁ〜。それは運が悪かったな」
「ま…ある意味…レア…だけどね」
ダインが食べながら喋る。
「まあ、そんな修羅場潜り抜けたら平気だろ」
「そんななんか」
「あぁ。まず瀕死になる前にトドメは刺せるもんだからな」
「そうなんか」
「カカシジの浄めでそんな修羅場になったの、あんま聞かないし」
「へぇ〜…。…。ずっと気になってたんだけど。聞いていい?」
「なんだ?」
「なんで”浄め”って言うの?“狩り”じゃないん?」
「あぁ」
「あぁ」
ダインと武器屋のおっちゃんは目を合わせる。
「ヲノ。リンピアドールとして生きていくんだな?」
「?いや、そのリンピアドールがわからんけども。
朝、ニュートラルキーパーとダインが話してるときにも出たワードだけど」
「Alma Limpiador(アルマ リンピアドール)。
マナトリアを浄めて生計を立ててる者のことをいう。ダインがそうだな」
と言うとダインが肉を頬張りながら笑顔を向ける。
「ま、オレも昔はそうだった。引退したがな」
「あ、そうだったんだ」
「そ。で、なぜ“狩り”“狩猟”と言わず“浄め”“浄化”と言うか。
それは以前話した話に関係あるんだがぁ〜…。覚えてるか?」
「…いや、覚えてるか覚えてないか、どんな話か聞かないとわからん」
「それもそうか」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「マナトリアはオレたちヒトだったって話だ」
「あぁ。覚えてるよ。浮気やら裏切りやらに遭ったヒトたちだったって話だろ」
「そうだ。要するにマナトリアの魂はヒトへの憎しみに支配された魂ってことだ。
だから、オレたち…あぁ、オレは違うか。
リンピアドールたちが、ま、“狩る”ことによってその魂を“浄め“て天に送ってやるんだ。
それがリンピアドールの仕事。
だから”狩る“とか”狩猟“って言葉を使わず”浄める”“浄化”って言葉を使うんだ。敬意を込めてな」
「なるほどな。リンピアドールか…。いい職業だな」
「だな」
ダインも肉を頬張りながら笑顔で頷く。
「よし!リンピアドールにオレはなる!」
高らかに宣言するヲノ。
「…なんか麦わら帽が見えた気がしたけど…気のせいか」
笑う武器屋のおっちゃん。
「で?リンピアドールになるにはどうしたらいいんだ?」
「どうしたらいい。いや、ただ単純に名乗ればいいだけだ」
「は?」
「リンピアドールですって言えばリンピアドールだ」
「は?そんなんでいいのかよ」
「あぁ。小説家だってマンガ家だって、名乗れば小説家だしマンガ家だろ?
腕がいいかどうかはそいつの実力次第。小説家だってマンガ家だって、実力があれば食っていける。
実力がなきゃ食っていけない。リンピアドールも同じようなもんだ」
「はあ。なるほどな」
「ま、おまえさんは素質があると思うぞ。最初に会ったマナトリアがムガルルで
今回も滅多にお目にかかれない修羅場のカカシジと戦ったんだろ?悪運が強いというかなんというか」
「そうなんか?」
「ま、そもそもメモトゲの家に生まれて、なんも不自由もないのに
刺激がほしいって家出して、わざわざ茨道に来たんだ。バカは割と向いてたりするからな」
「誰がバカだ」
ダインも武器屋のおっちゃんも笑う。
「ダイン。どうすんだ?カカシジとも戦ったし。次は大陸でも越えるか?」
武器屋のおっちゃんが冗談っぽく笑いながら言ってお酒を飲む。
「んん〜…。そうだなぁ〜。まだイグニルとかもいるし。
もうしばらくはムアニエル山(ざん)周辺で浄めるかなぁ〜。あぁ〜…イグニルかぁ〜…。嫌だなぁ〜」
「イグニルって鳥のやつか。魔法使えるっていう」
「そ。メスのカカシジどころじゃないからな。
メスのカカシジはオスのサポートで、サポート魔法しか使えないが、イグニルは攻撃的な魔法を使ってくる」
「ほおぉ?」
ヲノは嬉しそうな表情を浮かべる。
「ニヤニヤして。スケベな顔にも見えるな」
武器屋のおっちゃんがお酒を飲みながら言う。
「は?スケベ?オレが?」
「男なんだから多少なりともスケベだろ」
「し、知るか!んなもん」
「ヲノ、女性と触れ合ってないのか」
「…母様と姉様くらいだな。ま、あとは城のメイドとか
料理係とか掃除係に、チラホラいたけど、あんま話したことはないな」
「ほぉ〜。お童貞様か」
と笑う武器屋のおっちゃん。
「どっ…。ダインだってそうだろ!」
自分に話が飛んできて「へ?」という顔で肉をむしゃむしゃと咀嚼する。ゴクンと飲み込み
「オレはあるぞ。お付き合いしたこと」
「げっ。マジか」
「ま、城に閉じこもってちゃ彼女できるもんもできないか」
「…たまにパーティーで交流あったけどな。でもオレは退屈すぎてすぐ部屋に帰ってゲームしてたからな」
「城にはなかったのか?その、スケベな本とか映像とかは」
なんていう下ネタを話し、ヲノは顔を真っ赤にさせて
それを見て、ダインと武器屋のおっちゃんが大笑いしたりして1夜を明かした。