《2人編》
とある日の昼休み。
木戸芽那は憑き物が落ちたような吹っ切れた表情で屋上のドアを開けた。
そこには先に先客がいたようで、芽那は軽く目を見開く。一華だった。
「久しぶりね」
「…うん、久しぶり」
まるで先日のことを思い出す展開だ。
ただ、一点だけあの日とは違う点がある。あの日は2人とも全身びしょ濡れであった点だ。
よく陽の当たる屋上で、2人は弁当も食べずにどちらからともなく今までの現状をお互いに報告した。
片方が話しているときは口を挟まず、ただ耳を傾ける。そんなことを繰り返す。
「声に出した貴女は救われた。
いいよね、誰かが助けてくれるって」
「貴女はどうして声に出さないの?
だから誰も助けてくれないの。
訴える努力を貴女は放棄した」
内向的な性格の芽那と、外向的な性格の華。
何も言えなくなってしまう芽那と、余計なことまで言ってしまう華。
最初から最後まで、彼女と彼女は相容れない存在だったのだ。
「私、転校することにしたの」
「そう。逃げれて良かったじゃない」
華の言っていることはいつだって本心だ。
今だって、本当にそう思っている。
「貴女に私のやり方は出来ないわ」
「…貴女は最初から私とは違ったよね」
芽那は華と出会った時を思い出した。
肌をさらけ出すのを躊躇していた芽那とは違い、華は何の躊躇もなく濡れていた服を脱いだ。初対面の芽那の目の前で、だ。少なくとも芽那はそのようなことは出来ない。
「当たり前よ。
同じ人間なんていないわ」
華は太陽を背にジッと芽那を見つめる。
「貴女は初めから現状に抵抗していた。
私は、現状を…受け入れた」
「理不尽な目に遭っているのに、なぜ受け入れなければいいのか分からないわ。
心配してくれた人もいたでしょう?貴女はその存在を無視したのかもしれないけれど」
無視した…確かに心当たりはある。
偽善だと決めつけていたが、それでも自分のことを考えていてくれた人がいると少しだけ心の救いにはなったのだ。
華の言葉は鋭い。
だからこそ、的確に芽那の心を刺してくる。
「私も華ちゃんみたいに強くなりたかった…」
「まるで悲劇のヒロインね。
現実はおとぎ話じゃないのよ」
芽那は弱々しく笑う。
華はその様子に慌てて自分の口を塞いだ。
少し前に余計なことを付け足す癖があると言われたばかりでは無いか。控えなければ。
「ごめんなさい、言いすぎたかもしれないわ」
「ううん、ありがとう…
私、次の学校では私なりに頑張っていく」
「応援してるわ。芽那」
芽那はそれ以上何も言わずに屋上を後にする。
華は去っていった彼女を振り返ることなく、雲ひとつない空をただただ見上げていた。
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