テラーノベル
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寝不足の目で隣ですやすや眠る奏(そう)ちゃんを眺める。
昨日、俺の部屋に泊まった奏ちゃんとベッドで抱き合って。
抱き合って…。
でも何にもしなかった。
キスだけ。
ぅおぉぉい!もう悶々して眠れなかったぜ!
奏ちゃん、ひどいよ。
途中で寝てるんだもん。
まぁ、昼間体調悪かったし疲れてたんだろ。
俺は奏ちゃんを起こさないようそっとベッドから出ると一階に降りた。
母はもう仕事に行ったようで誰も居なかった。
俺は冷蔵庫から牛乳を取り出して飲むと、洗面所に行く。
鏡を見ると、首に虫に刺されたような跡があった。
「なんだこれ…あっ…!」
昨日、奏ちゃんがつけたキスマーク。
「やだあ…奏ちゃんの変態…。いくら俺が可愛いからって」
昨晩のことを思い出して顔が赤くなってしまう。
「響、何ひとりごと言ってんの?」
気付くと後ろに奏ちゃんがいた。
「わっ…!びっくりしたよ、奏ちゃん。起きたの?」
「うん、おはよう響」
奏ちゃんに後ろから抱きしめられる。
「奏ちゃん」
振り返ると、奏ちゃんが俺にキスしてきた。
幸せ…。今日も世界が輝いている。
「奏ちゃん、うちの母仕事行ったし昨日の続きしよ」
「お母さんにちゃんと挨拶出来なかったな。ありがとうございましたって伝えておいて」
「うん、それで昨日の続きを…」
「響」
俺は両手を掴まれ壁に押されると、奏ちゃんの唇で俺が喋れないように唇をふさがれた。
「響、一緒にいたいけど1回家に帰るね」
「はい…」
突然のキスの破壊力がすごくて俺は奏ちゃんに逆らえない。ずるいよ、奏ちゃん。
「それに今日から塾の夏期講習があるんだよね」
「えっ、奏ちゃん塾行ってんの?」
「うん、一応来年は受験生だし。うちの母親、俺に無関心の割には見栄っ張りだからある程度の大学行ってほしいみたいだから」
あっ、そうだ。奏ちゃんの母親のこと。
「奏ちゃん、うちに泊まったのは怒られなかった?」
「メールは送ったけど既読になってないし。言ったでしょ?俺に関心ないから」
なんか切ないな。
「奏ちゃん、寂しくなったらいつでも俺に電話してね?せめて、モーニング牛乳でもしていく?」
俺はグラスに牛乳を注いだ。
「響、牛乳好きなの?」
「奏ちゃんくらい背が高くなりたいから毎日飲んでる」
「えーそのままでいいよ、響は」
「奏ちゃん、いま何cm?」
「180になってた」
「えっ!?2センチも伸びてんじゃん!」
俺は奏ちゃんの前に立ち、奏ちゃんの顔を見上げる。
「10センチも差ができた…。夏休み中に5センチは伸ばす!」
奏ちゃんが俺の頭をポンとすると
「響はそれくらいがいいよ。小さい方が可愛くて抱きしめたくなるし…守ってあげたくなる」
と言った。
「マジで?」
そう言って奏ちゃんが俺を抱き締めると、俺の頭が奏ちゃんの肩にちょうどもたれかかるぐらいで確かにしっくりくる。
「奏ちゃん、俺今日から牛乳もう飲まない…」
「ほどほどにね」
そして、俺から離れると奏ちゃんは玄関の方に向かった。
「奏ちゃんは毎日、塾なの?せっかくの夏休みなのにぃ」
「毎日じゃないし、今日も昼間だけだから終わったら連絡するよ」
「うん、待ってる」
奏ちゃんはバイバイすると、家を出ていった。
奏ちゃん、俺のこと守ってあげたいだって。
嬉しいけど俺だって奏ちゃんのこと守りたい。
孤独感から俺が救われたように救い出してあげたい。
奏ちゃんが1秒でも悲しい思いをするなら、俺に分けてほしい。
そんな事を考えながら俺は自分の部屋に戻り、またベッドに寝転がる。
ふとスマホを手に取ると、あさ美からメールがきていたことを思い出した。
やべっ、どうしよう。
「話したいことがある」ってなんだ。
あさ美は女だけど、ホントに友達。
いろいろ世話にもなってるし、放ってはおけない。
「だけどな〜昨日奏ちゃん怒ってたよなぁ〜。二人で会うなんて言ったらなぁ〜」
俺は頭を抱えながら返信した。
「何系のお話ですか?」
すぐに既読になり、あさ美からメールがくる。
「恋愛相談とゆうか、困ってる」
ん?よくわかんねぇ。
好きな男でもできた?
そういえば、花火大会の夜にナンパされたとか言ってたっけ。
でも困ってるって何だ?
「何があった?」
とあさ美に返信すると
「会って話したい」
と返ってきた。
「奏ちゃんに聞いてみてからでも良い?俺愛されちゃってヤキモチ焼かれるから」
と、あさ美を和ませようとふざけてメールを送った。
俺は何も考えていなかった。
「あっ、そうか。なるほどね!」
あさ美からの返信はそれだけだった。
少し気になったが、昨晩の寝不足がたたって睡魔が襲ってきた。
あとでまた、あさ美に連絡するか。
俺は自分の盛大な思い上がりをあとになって悔やむことになるんだ。
自分だけ幸せで舞い上がっていたことを。
恋人も友達も守ってあげられるほど、ご立派な人間じゃないことを。
人の本当の気持ちになんて気付けるわけが無いのに驕り高ぶっていたんだと。
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