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#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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千歳に言われて外出してよかったな。初詣自体は俺が言い出したことだけど、冬の関東特有の、青い空の下を歩くのは、いい気分転換になった。
九さんに勧められたので、まず本殿に行って、鈴を鳴らしてから家内安全と商売繁盛を祈る。そう言えば、前に千歳に、願いは口に出せと言われたなと思い出して、でも周りに人がいたので口の中でつぶやくように「家内安全、商売繁盛。最低でも家内安全はお願いします」と言った。
千歳は『隣の奴がめっちゃ稼いでめっちゃ結婚してめっちゃ子孫つなぎますように!あとワシちゃんと大人になれますように!』と普通の声量で言っていた。うん、前半はもうちょっと小さい声で言って。
お祈りを終えて振り返ると、九さんに手招きされたので、二人でまた九さんのところに行った。佐和水香さんが、湯気の立つ紙コップをくれた。
「熱いので、お気をつけください」
「あ、ありがとうございます」
『ありがとう!』
千歳が早速甘酒をすするので、俺も一口すすった。甘くて生姜きいてて、おいしい。温まるな。
九さんが言った。
「一応な、お前たちの家の近くで働くから、水香のことを知っておいてくれ」
水香さんが無表情で頭を下げた。
「改めまして、佐和水香と申します。去年から佐和家の者がこの神社を管理していまして、今度から私が主にこちらに来る予定です。よろしくお願いいたします」
俺もあわてて頭を下げた。
「あ、よろしくお願いいたします」
『よろしく!』
水香さんは言葉を続けた。
「あの、和泉さまが祠にぶつかった当時、この神社は権利関係が混乱していて、しっかり管理されていなくて。和泉さまが祠のことを警察を通して連絡してくださっていたのに、対応できなかったんです。申し訳ありません」
「あ、そうだったんですか?」
千歳が持ってきた小判を拾得物として交番に持っていった時、そこの警官に、俺が祠にぶつかって壊してしまったことと、祠の所有者に連絡しようにも連絡先がわからない、ということを話した。警官は、管理者がわかったら連絡すると言ってくれたのだが、管理者についての連絡は、ついになかった。そういうことだったのかあ。
九さんが呆れた顔をした。
「千歳のことがあって、管理されてないことがわかったそうでの。権利関係をきれいにして、佐和家が管理することになったそうじゃ」
「そうだったんですか……」
『へー、そうだったのか。そう言えば、倉沢静が祠に封じられてから、それっぽい奴特に来なかったな』
千歳が首を傾げた。知らない名前だったので、俺は千歳に聞いた。
和泉「倉沢静?」
『ワシがよくなってる、デカくてゴツいおっさん』
な、名前と見た目が合わない!
「そんな名前だったんだ……」
水香さんが言う。
「倉沢静が封じられた時点では、まだ管理されてたみたいなんですが、そのころから三十年以上経ってしまってまして、いろいろありまして」
『何があったんだ?』
「簡単に言うと、管理者死亡、子供なし、跡継ぎなし、縁者は遠縁のみ、言い伝え失伝、法律的な相続もちゃんとされてなかった、という感じです」
『うわー』
千歳は顔をしかめた。
「それで、祠が壊れてるとわかったのが、金谷あかりさんが千歳さんを見つけて以降だったりしまして。詳しい者たちが事態を把握するまでにタイムラグがあったんです」
『へえー』
「そうだったんですね」
俺も相槌を打った。
「まあ、相続関係も権利関係もきれいにしまして、今は佐和家が管理者です」
九さんが本殿を見やった。
「妾も、部下を連れてちょくちょくこの神社に顔を出すことにしてのう。ここを拠点にして、たまにお前たちの顔を見に来るつもりだ」
「そうなんですか」
俺はふと思いついた。九さん、千歳の状態とか、千歳のことに割と詳しいんだよな。いつでも連絡取れるようにできたら、安心だなんだけどな。
俺は九さんに聞いた。
「あの、じゃあ、九さんの連絡先とか、よかったらいただけませんか? 困ったことが出た時とか、相談できるとありがたいので」
相談役としては南さんがいるけど、相談先はいくつかある方が嬉しい。
九さんは「ん?」と首を傾げた。
「うーん、妾、携帯とか言うのは持っとらんからの……。水香に連絡してくれれば、そのうち顔を見に行く」
水香さんがスマホを取り出した。
水香「では、私と連絡先を交換いたしませんか?」
「あ、じゃあお願いいたします」
俺もスマホを出した。
『えー、じゃあワシも交換したい』
「はい、よろしくお願いいたします」
そんなこんなで、LINEとメルアドを水香さんと交換した。俺は水香さんにお礼を言った。
「ありがとうございます、今、相談役では南さんを頼ってますけど、相談先はいくつか合
ったほうが安心なので」
水香さんが頭を下げた。
「南さやかがお世話になっております。私の従姉でして」
『え、そうなのか!?』
「そうなんですか?」
二人で驚いた。
「あの人ちょっと変わった人ですが、普通のフリはとてもうまいので何かあったときはちゃんもできる人ですので」
水香さんは、無表情ながらなんか早口で言う。変わった人? え、俺、南さんに全然そんな印象ないけど? 従妹視点だと違うものが見えるの?
「えっと、こちらこそお世話になっております」
とりあえず、無難な返事をしておく。九さんが「そう言えば」と言った。
「あのな、水香は今度峰家の長男坊と結婚するんじゃが、こないだ千歳になにか仕込まれたじゃろ、仕込まれた呪術を解析したのが峰家の当主での。峰家とも仲良くしておくんじゃな」
「え、そうなんですか!?」
新事実がたくさんだ。そういう家のつながりとか全然知らないからな。
『あ、あの峰家か。じゃあ、その峰家の人にもありがとうって言っといてくれ!』
千歳は詳しいみたいだ。水香さんはまた無表情で頭を下げた。
「伝えておきます」
俺も頭を下げた。
「私からもお礼を言わせていただきます。すみません、どこの家がどういうつながりか、とか、全然知らなくて」
『峰家は呪術に詳しいところだぞ。関東だと一番か?』
九さんが頷いた。
「そうじゃな、関西だとまた違うが」
「へえ、西と東で違うんですね」
俺は不思議に思って聞いた。
「まあ、都が西から東に移動した関係でのう。帝も引っ越したしの」
「西と東は仲いいんですか?」
九さんは苦笑した。
「うーん、お互い利益は引っ張ろうとするが、負担は被りたがらんの」
「うーん、なるほど……」
言いたいことは何となく分かる。
『天皇に着いてきた奴と、西に留まった奴でもまた違うしなあ』
千歳が嘆息した。
「なんか複雑なのはわかったよ。どこも大変だね」
水香さんが千歳の方を見た。
「千歳さんが作ってくださってるお守りが、わかりやすい利益なので、西の人が特に欲しがってますね」
『へー、西のやつが欲しがってたのか。うん、頑張って作るつもりだけど、まだ詳しい話来ないんだよなあ』
「話まとまったと聞きましたので、世間が仕事始めになったら、話が行くと思います」
『じゃあ、大人しく待ってる。なあ、あんた、すっごく狐の精に懐かれてるけど、なんでだ?』
え? 狐? そんなのいる?
きょろきょろする俺に、千歳は言った。
『お前は見えないだろうけど、水香さんにめちゃくちゃ狐の精が集まってスリスリしてるんだ』
「え、そうなの?」
九さんが「ああ」と頷いた。
「水香には妾の部下の変化の練習に付き合ってもらっていての。皆、水香の毛づくろいが好きなんじゃ」
水香さんは無表情で「櫛でといてあげてるだけですよ」と言った。この人、ずっと表情が固くて冷たいんだよな。でも言ってることは普通、むしろ気遣いしてくれてる感じだから、単にこの顔が通常なのかな?
九さんは語った。
「それがいいんじゃよ。毛が生えてる体だと、あんまされてるみたいな心地になるんじゃ」
へえー、そんなもんなんだ。そう言えば、こないだ狭山さんがブラッシングでとろけてるクーちゃんの動画SNSにあげてたな。そうか、ブラッシングってマッサージなんだ。
あ、だから、水香さんのことを千歳は初対面ですぐ『優しそう』って言ったのか。なるほど、見るとこ見てるんだな。
千歳、人の見るとこ見て、ちゃんと信用に足る人物か判断しようとしてるんだな。
多分、これはいいことだ。
その後も九さんと水香さんと少し話し、まっすぐ家に帰った。祈るべきことは祈ったし、相談先も増えたし、家内安全と商売繁盛のために、仕事頑張んないとな。
コメント
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リオンです。第286話、初詣の温かい空気感がとても良かったです。千歳の「隣の奴がめっちゃ稼いで…」の祈りには思わず笑いましたし、和泉くんが「口の中でつぶやくように」祈る対比が二人の性格をよく表していて好きです。佐和水香さんの登場で、神社の管理権や九さんの連絡手段、南さんとの関係、峰家との繋がりが一気に開けて、物語の地盤がどんどん整備されていく感じが心地よかった。千歳が「優しそう」と見抜いた理由が、あとでブラッシングの話で腑に落ちる構成も巧いなと。祈って、歩いて、新しい繋がりを得て、家に帰る。日常の積み重ねがじんわり沁みる回でした。