🍵完璧な三要素と、不完全な所作
イリスは、茶葉を温めておいたティーポットに静かに入れた。
「兵長。いよいよ、淹れます」
彼女の声は、緊張でわずかに震えていた。
水: 完璧な硬度の天然水。
茶葉: 最上級のオレンジペコ。
温度: 沸騰直後の、最も純粋で熱い蒸気を放つ瞬間。
イリスは、ポットをわずかに持ち上げ、一気に熱湯を注ぎ入れた。茶葉がポットの中で、歓喜するように弾け、黄金色の水と混ざり合う。
リヴァイは、書類から目を上げ、その一連の動作を凝視していた。彼の目は、戦闘中と同じ鋭さで、イリスの手元の一挙手一投足を追っている。
彼は腕を組み、口を開いた。
リヴァイ:「おい。ティーコゼーは使わないのか」
「ひゃい!蒸らす時間と温度を最大限に引き出すため、このポットを**『最も清潔な布巾』**で包んで対応します!」
イリスは、消毒済みの新品の白いリネンでポットを慎重に包み、砂時計を裏返した。蒸らし時間は、その茶葉の特性と、リヴァイ兵長の好みを考慮した正確な3分間。
☕リヴァイの最終検閲
砂時計の最後の砂が落ちる。
イリスは緊張しながら、ポットを外し、自らが磨き上げたカップをソーサーに置いた。
リヴァイは、そのカップを指先で持ち上げ、ソーサーの裏、カップの底の縁を、まるで爆弾の信管でも確認するかのように、徹底的に検分した。
リヴァイ:「…フン。カップの**『残留水分』はゼロ。ソーサーの縁の『指紋』**もない。ここまでは及第点だ」
(良かった…!)
イリスは、蒸らし終えた紅茶を、最後の集中力を込めて注ぎ始めた。液面は、雑味のない鮮やかな黄金色だ。
紅茶の香りが、清掃され尽くした部屋の中に、優しく、しかし確実に広がっていく。
リヴァイは、目を閉じたまま、深く、深く、その香りを吸い込んだ。
🥇最高の評価と、最後の「不衛生な指摘」
イリスは、両手でカップをリヴァイの前に静かに置いた。
リヴァイはゆっくりと目を開け、カップを中指と人差し指の第二関節だけで持ち上げた。熱い紅茶を、彼は一気に半分ほど飲み干した。
彼の顔に、感情と呼べるものが初めて現れる。それは、微かな安堵、そして満足だった。
リヴァイはカップを静かに置き、ふう、と小さく息を吐いた。
リヴァイ:「…チッ」
イリスはゴクリと唾を飲んだ。この「チッ」は、否定なのか、肯定なのか。
リヴァイ:「悪くねぇ」
「悪くねぇ」――リヴァイ兵長が出す、最高の、最大級の賛辞だった。イリスの全身の緊張が、一瞬で溶けていく。
「あ、ありがとうございます!兵長!」
イリスは感極まり、胸に手を当てた。
しかし、リヴァイの鋭い視線が、イリスの手元に注がれた。
リヴァイ:「だが」
「ひゃい…?」
リヴァイは、自分のカップではなく、イリスがまだ手に持っているティーポットを指差した。
リヴァイ:「そのポットの注ぎ口に、**液体の『雫』が残っている。これは『液体の滴下による、周囲への汚染リスク』であり、『視覚的な不衛生』だ。すぐに『清掃』しろ。『最高の紅茶』は、『最高の衛生状態』**で提供されなければ意味がない」
イリスは、最高の紅茶を淹れた直後に、最も不衛生な指摘を受け、敬礼の姿勢で固まった。
(やはり、私の**『清掃任務』に終わりはない…!しかし、『悪くねぇ』をいただいたからには、この『不衛生な雫』も、兵長のための『最優先清掃任務』**とします!)
「ひゃい!直ちに、**『雫』**を排除します!」
イリスは急いで、用意していたリネンの端で、ポットの注ぎ口を、神を拭くかのように丁重に拭き取った。
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