テラーノベル
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柔太朗がハイネックを着始めたのは、ちょうど5日くらい前からだった。
季節はもう5月に入り日中は汗ばむ陽気だというのに、薄手のタートルネックや襟の高いデザインのシャツばかり着ていたし、おまけになぜか避けられているような気までした。
勇斗が「暑くないの」と訊いても、柔太朗は「こういうファッションだから」と言う。おしゃれな柔太朗のことだし、そういうものかと思っていた勇斗だったが、四日、五日と続くとさすがに勇斗の中に疑念が芽生え始めた。
五日目、勇斗はついにミーティング後に椅子に腰掛けた柔太朗の背後から、襟元を捕まえ中を覗いた。柔太朗は慌てて押さえたが、勇斗の目は逃さなかった。
───キスマークだ
俺たち2人は付き合っているはずだった。1週間程前までは他愛もないことで毎日のように笑い合い、キスをし、愛を囁いて幸せな関係を築いてたはずだった。
──え、相手は?
自分でも信じられないくらいドスが利いた低い声が出た。柔太朗の手首を強く握り込む。
「お前、分かってるよな?今日の夜絶対家来いよ」
「はやちゃん……!これは違っ……!」
柔太朗は青ざめた顔でなにか話だしたが勇斗は何も聞くことなく、部屋を立ち去った。これ以上この空間に居るのは限界だった。
**************
その夜、柔太朗は震える指でインターホンを押した。
重い玄関扉をあけるなり勇斗は腕を組み玄関で待ち構えていた。
「はやちゃんあのこれには訳があって——」
「それ、脱いで」
柔太朗の顔から血の気が引いた。勇斗の声や表情は、見たことないくらい冷たかった。
───本気で怒っている
柔太朗はタートルネックの裾を握りしめ、後ずさる。
「脱げって言ってる」
有無を言わさぬ口調で迫られ柔太朗は怯えた手で服を脱いだ。現れた首筋には、うっすら黄色味がかり、消え始めている内出血の痕があった。明らかに勇斗がつけたものではない。
「誰」
「はやちゃん、これは」
「なに?もしかして浮気?」
柔太朗は涙目で首を振った。
「俺だって拒否したんだ。でも、俺がデビューした頃からお世話になってる大先輩で。酔ってたし相手も覚えてないかもしれないし。俺が我慢すればって…でもそれ以上のことは、本当にないから…!」
「何もないのに何でこんな痕つけられてんの?」
冷たく言い放ち勇斗は柔太朗の腕を掴み身体を引きずるようにしてベッドルームへ攫った。
**************
2人が昨日まで恋人だったことが嘘のように、柔太朗は体を押され乱暴にベッドへ投げ出された。抵抗する隙すら与えず、両手を紐でキツくベッドへ結びつけられる。両腕を頭上に上げた格好になり、無防備な体では全く逃げ出すことができない。
「はやちゃん、聞いて……」
「言い訳なんて聞きたくない」
勇斗はベッドサイドの引き出しからバイブレーターとローターを取り出した。柔太朗の目が恐怖で見開かれる。
「やだ……それ、いや……」
「やだ?今さら何言ってるの?」
勇斗は強引に、二つの玩具を下半身に押し当てる。怒りの衝動に突き動かされた勇斗が一体何をしようとするのか。柔太朗は恐怖で身が竦む。
「お願い、外して……! やめてっ」
「うるさい」
勇斗の指は容赦なく彼の蕾にバイブを押し込み、浅い位置で固定した。そして鈴口にローターを当てがい、テープで固定する。
スイッチが入った瞬間、柔太朗の腰が跳ねる。
「ひっ……!」
もどかしく僅かな振動が柔太朗のものをふるふると刺激する。後ろに広がる異物感と、じんじんと広がる熱。強くもならない振動が、内側をじわじわと焦らしていく。
──いま、感じたくない。感じたら、本当に浮気をしていたみたいじゃないか。与えられる快感に耐えようと、内腿に力を込めようとする。
しかし柔太朗の意思とは裏腹に、じわじわと拷問のような刺激が、身体を蝕む。内壁が勝手に玩具に絡みつき、先端からタラタラと先走りが流れ出た。逃げようと身を捩れば手首の紐が食い込み、皮膚に赤い跡が刻まれる。
「んっ……ぁ…」
漏れた声に、勇斗は聞こえないふりをした。興味のないSNSをスクロールし、スマホの画面から顔も上げない。
「はやちゃん、無視しないで…」
名前を呼んでも、返事もない。
──浮気なんてしてないし、感じたくもないのに。積み重なる刺激に、身体はどんどん昂ぶっていく。
「はやちゃん……っ、お願い……っ」
ガクガクと腿が痙攣し始めたのを横目で見て、勇斗がようやく顔を上げた。椅子に座ったまま、冷めた目で柔太朗を見ている。
「何」
「ごめん……っ、ごめんなさい……っ」
「何が」
「勝手に……っ、出かけて……っ、心配かけて……ごめんなさい……っ」
「それだけ?」
「はやちゃんだけ、俺が好きなのははやちゃんだけだから……ごめんなさい……許して……っ、ください……っ、もう、許して……っ」
「許さない」
即答だった。柔太朗の脳裏に小さな絶望がよぎる。
「はやちゃん……っ」
「浮気を疑われてる側が、俺に感じてる姿を見せて許してくれって?」
「ちが……っ」
「違わないだろ。お前、今、俺に無視されて自分で腰振って悦んでる」
図星だった。柔太朗は何も言い返せず、ただ涙を零した。それすら勇斗は拭おうともしない。
「ごめんなさい……っ、ごめんなさい……っ、はやちゃん……っ」
謝罪の言葉が止まらない。けれど勇斗の表情は動かない。
許さない、という言葉が頭の中でぐるぐると回っている。それなのに身体はどんどん追い詰められていく。放置されたまま、じわじわと絶頂の手前まで連れていかれ、いやらしく汁を垂れ流して。
「はやちゃんしか見てない……っ、本当に……っ」
全身から汗を噴き出し、掠れた声で咽び泣くその姿を見て、勇斗はリモコンのスイッチを切った。ぶつりと、振動が消える。
「……っ、ぁ……っ」
柔太朗の身体が、快楽の行き場を失って震える。
勇斗は無言で、荒い呼吸を繰り返す柔太朗に近づき拘束を解き、玩具を取り去る。ぐったりとした身体を仰向けのまま、勇斗はその両足を持ち上げた。
「…はや……ちゃ…ん?」
焦点の合わない目で見上げる柔太朗に、勇斗はひどく冷たい目を向けた。けれどその奥に燃えるような怒りと傷つきが渦巻いていることを、柔太朗は一目で感じ取った。
「ほんとは俺のこともどうだっていいんでしょ?」
低く、抑えた声だった。
「そんなんじゃ……」
「柔太朗がそう言うつもりなら、それでいいよ。体だけの関係だっていい」
抑揚のない声で言いながら、勇斗は自身の昂ぶりを柔太朗の入り口にあてがう。充分に解れたそこは、ひくひくとめどなく蜜を溢れさせ勇斗の先端を咥え込んでいた。
「お前のここ、使い物にならなくなるまで今から犯してやるよ」
「あ……っ!」
一気に貫かれ、柔太朗の背中が反り返る。中はとっくに蕩けきっていて、待ち望んでいたかのようにうねうねとうごめき締め付ける。
「ほら、やっぱり感じてる」
「ちが……あ、ああっ!」
激しく腰を打ちつけられ柔太朗はただもう喘ぐことしかできない。最奥を何度も何度も突き上げられ、その度に目の前が白く弾ける。
「受け取れよ」
短く告げて、勇斗が一際深く突き入れた瞬間腹の奥に熱い飛沫が広がるのを感じた。
「は……ぁ…」
ぐったりと脱力する柔太朗から勇斗がゆっくりと自身を抜く。グチュリと淫猥な水音がして続いて塞がれていた穴からどろりと白濁が溢れ出した。とろりと太腿を伝いシーツに染みを作っていく。
「まだ終わってないから」
息を整える間もなく再び貫かれる。さっき出したばかりの精液がぐちゅぐちゅと音を立て糸を引く。
「あぁ……!!も、むり……!」
「無理じゃないだろ。ほら、もっとその淫乱な穴で飲み込めよ」
二度目の中出し。結合部からは泡立った白濁が溢れ出し互いの体液で腹も太腿もぐちゃぐちゃに汚れていく。
「はや……ちゃ……」
「お前が何度イっても、限界までやるから」
何度も何度もイかされ、もう柔太朗に出るものはないと言うのに、勇斗はただ淡々と腰を振り続ける。瞳の奥の心は閉ざされ、2人の心は永遠に通じなくなってしまったようで、柔太朗の胸はますます締め付けられた。
何度目かの絶頂のあと勇斗がようやく身を離した時、柔太朗の秘所はぽっかりと窄まりきれずにいて、そこからはとろとろと幾度分もの精液が溢れ出し続けていた。止まることを知らない白濁が、シーツに大きな染みを作っていく。
柔太朗の意識は、もうほとんどなかった。まぶたが重く、身体のどこにも力が入らない。ただ、ぼんやりとした視界の中で勇斗が自分を見下ろしているのがわかる。その表情は、もう読めなかった。
「……柔太朗」
呼ばれて重たい瞼をなんとか持ち上げる。けれどもう焦点は合わない。
そして、ぷつりと糸が切れるように意識は完全に途切れた。
*************
柔太朗が意識を失ったあと、勇斗は曇った目でしばらくその場で放心していた。柔太朗のぐったりと脱力した身体と荒い呼吸は次第に静かになり、やがて規則正しい寝息へと変わっていく。
「……ごめん」
誰にも聞こえない声でそう呟くと、勇斗は崩れるようにベッドサイドに座り込んだ。愛する人の首筋に残る、自分ではない誰かの痕が月明かりの下、憎らしく覗く。
柔太朗の髪をそっと梳く。汗で濡れた前髪をよけると、そこには泣き腫らした跡がくっきりと残っていた。
「……ごめん、柔太朗」
もう一度、今度は声に出して呟いた。
柔太朗が目覚めたら、服を着せて、温かいお茶を淹れて、そして謝ろう。2人のこれからをやり直すために。
勇斗はそっと柔太朗の身体を抱き寄せ、乱れたシーツを直して毛布をかけると、返事のないその唇へ、そっと口付けた。
#ご本人様とは一切関係ありません
あんり
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#ご本人様には関係ありません
ち び
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コメント
1件
うわー、9話読みました……重い、けど目が離せなかったです。キスマーク1つからここまで関係が揺れるのかと。勇斗の「許さない」の冷たさと、最後の「ごめん」のギャップが切なすぎます。柔太朗の無実の感じも伝わってくるだけに、2人のすれ違いが心に刺さりました。続きが気になります。