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ピンポーン、ピンポーン


夢の中でインターフォンが鳴っている。


ピンポーン、ピンポーン


うーん、うるさい。


ピンポーン、ピンポーン


ん!?夢じゃない?


ピンポーン、ピンポーン、ドンドンドンドン


「谷野さん!谷野さん!」




えっ、誰? 怖い……。


ドンドンドンドン


「谷野さん!大丈夫?」




あれ? 心配されている……誰だろう……?




ノロノロと起き上がりインターフォンに向かって「はーい、どなたですか?」っと、訊ねた。


「朝倉です」と、イケボが聞こえる。


「えッ。朝倉先生?」




慌てて玄関を開けると、180センチの高身長、俳優でもやっていけそうなイケメン、切れ長の優し気な瞳、鼻筋の通った鼻梁、薄い唇、ザ・パーフェクト男子。


見まごう事なき、朝倉翔也先生が立っていた。




「谷野さん?」


「はい?谷野です」


と、マヌケな返事をしてから、ハタと気が付いた。


上下スエット、ノーメイク、泣き腫らしたまま、顔も洗っていない。打ち上げの時に会った姿で70点、だとすると、今の私は、赤点どころかマイナスと言っても過言ではない程ヒドイ!

打ち上げの時の私と今の私の落差に、驚かれてしまったに違いない


しかし、天下の人気作家 朝倉翔也先生を玄関先に立たせて置く訳にも行かず、ましてや追い返す事も出来ず、「ドウゾ、オハイリクダサイ」と言った。


そして、朝倉先生を案内したリビングを見て、もう一度後悔する。


テーブルの上は、飲みかけのコーヒーカップ。床には、娘のオモチャが散乱、作業用のデスクもグチャグチャだ。サイアク!


「あはは、散らかってますね。す、すみません」


「いや、気にしないで。さっき電話の途中で悲鳴をあげて切れて、その後、電話しても繋がらないから心配で顔を見に来ただけだから」


そうだった、朝倉先生と話していた時に美優が泣いて転んで電話を壊してしまったんだ。


「ご心配お掛けしてすみません、家の中で転んで携帯電話を壊してしまったんです」


ペコペコと頭を下げ、ご迷惑をお掛けした事をお詫びした。


「無事で良かった。谷野さん、編集さんから独身だって聞いていたけど、子供がいたんだ」


「シングルマザーなんです。隠していたつもりはなかったのですが、わざわざ吹聴する事でもないので……」


朝倉先生は、私がシングルマザーだった事を知らなかったのか……。


とても気まずい沈黙が降りた。


子供が居る事で仕事に支障をきたす人物だと、悪い印象を与えてしまったのではないだろうか。

この先、仕事がもらえなくなったらどうしよう。


不安に駆られて視線を泳がすと、チェストの上に置いた携帯電話が目に入った。


「あの、携帯電話がこんな事になってしまって……すみません」


話題を変えるべく、チェストの上の壊れた携帯電話へ手を伸ばした。


その時、朝倉先生は、見せた携帯電話に目もくれず、チェスト上を凝視している。


「先生?」


不思議に思いながら声を掛け、朝倉先生の視線の先をたどる。

2Lサイズの窓2つ、Lサイズの窓4つのデザインフレーム中に飾られた娘・美優の写真に注がれていた。


その中には、お守りにしている産院で撮ってもらった、イケメンヒーローとの写真も含まれている。


朝倉先生は、手を口に当て呆然とデザインフレームを見ていた。


そして、ボソッと呟く。


「まさかと思うけど去年の12月に新北浜駅前で産気付いて、知らない人とタクシーで北浜病院に行った?」


「はい。神降臨かと思いましたよ。どうしてそんな……まさか!?」


「それ、私だよ」


「えっ!えええっ!!」


驚き過ぎて何から考えたらいいのか、頭の中は真っ白だ。


朝倉先生と私は、二人で暫くフォトフレームとお互いを交互に見ながら確認作業のように頷いていた。


そして、あの日、さんざんお世話になって居ながらお礼もしていない事に気づいた私は、突然床に突っ伏し頭を下げた。

ザ・土下座の姿勢である。


「その節は、大変お世話になりました。そして、ご迷惑をお掛け致しました」


「谷野さん、やめて下さい。たまたま通り掛かっただけなんですから」


せっかく会えた、恩人を目の前にして引くわけにはいかない。


「いえ、こうして私たち親子が無事にいられるのは、あの時、声を掛けて下さった朝倉先生のおかげです」


「いや、貴重な体験をさせてもらいました。感動しましたよ。命が生まれ落ちる瞬間に立ち会えるなんて……。あの時に産声をあげた子が、こんなに大きくなったんだね。また、感動だ」


と、温かい瞳でベッドの上に眠る娘を見つめた後、床から私を引き起こした。そして、朝倉先生の優しい瞳が私を見つめる。


「谷野さん、頑張ったんだね」


その言葉に胸が詰まった。そう、私は私なりに精一杯頑張っていた。


たった一人で不安と戦いながら、ずーっと、気を貼って頑張っていた。


でも、本音を言うと少し疲れていた。



あの日のヒーローに ” 頑張ったんだね ” と認めて貰えて、大変だった日々が報われた気持ちになり胸がいっぱいになった。

名無しのヒーロー

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