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名無しのヒーロー

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名無しのヒーロー

8 - 第8話  イケメンがイクメンでサイコーじゃないか!

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2024年02月26日

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ベビーベッドの上で美優がフニャフニャ言い出し、起きそうな気配を見せている。

「ちょっとすみません」と声を掛け、手早く娘のおむつ替え、抱き上げた。


すると、朝倉先生が腕を差し伸べてくる。


「私にも抱かせて」


その言葉に頷いて、美優をそっと受け渡す。

意外にも、朝倉先生は手慣れた手つきで抱き上げ、あやしている。


「朝倉先生、子守り、お上手ですね」


「ちょっとしたものだろう? 女きょうだいが、3人もいると姪っ子、甥っ子がたくさん居てね。親類の集まりの時には、その子たちの子守りは強制的な義務だからね」


朝倉先生は、照れたようにふわりと笑う。飾らない笑顔が素敵だなと思った。


「あ、mayuyuさんも姪っ子だっておっしゃっていましたね」


「そう、一番上の姉貴のね。女きょうだいって、何であんなに強いんだろう。いや、女の人は、子供を産むから強く出来ているのかな? この子もいずれ、男の子を尻に敷くぐらい強くなっちゃうのかな?」


朝倉先生にあやされて、キャッキャッとはしゃぐ娘は、実は人見知りの激しい時期だ。

散歩の途中に近所の人に声を掛けられても、直ぐに泣いしまうのに朝倉先生になついている。

やっぱり、娘にもあの日のヒーローだってことがわかるのだろうか? と、不思議な気持ちで二人を眺めていた。


すると、何かを思い出したように朝倉先生がパッと顔を向けた。


「谷野さん、携帯電話が無いと困るんじゃないか?」


「はい、少し困っています。カスタマーサービスに連絡入れて新しい携帯を送ってもらえるまでどのくらい掛かるのか……。その間、孤立無援です」


赤ちゃんを連れて携帯電話ショップに行っても、窓口で子供が泣いたら困る事は目に見えていた。だから、ネットでカスタマサービスを利用しての一択だった。


「仕事は、PCのメールでどうにかなるにしても、子供がいるのに緊急の連絡も取れない状態は良くない。まだ、ショップが開いている時間だから急いで行った方がいい。車で来ているから連れていくよ」


確かに、家電を置いていない我が家では、緊急の連絡が取れなくなる。

今回、朝倉先生が心配してわざわざ来てくれたのだって、家電が無かったせいだ。

でも、携帯ショップに連れて行ってもらうなんて……。

そんな、迷惑を朝倉先生に掛けられない。けど、先生の言っていることはもっともだ。うーん。迷う。


「ほら、早くしないとショップの時間に間に合わなくなるよ。携帯会社は?」


そう言って、朝倉先生は、壊れた携帯電話を見て、その通信会社の近いショップを自分の携帯電話で検索している。


私は、せかされるように出かける支度を始めることになった。


そして、洗面所に行って鏡を見た時、自分のズタボロの格好に唖然とする。

頭はボサボサ。泣きはらした顔に部屋着のスエット……。


「マジ、マイナスだよコレ」


急いて顔を洗い、ブラウスに、ワイドパンツに着替え、その姿を鏡に映す。


うーん、女っぽくないけど、子供を連れて歩くのにワイドパンツは何かと便利だから仕方がない。

自分の女子力の低さを残念に思いながら、オールインワンジェルを下地にして、ファンデーションをパタパタとのぜ。後は、眉毛を書いて、アイライナーとリップの簡単メイクの完成だ。


娘を押し付けたまま朝倉先生をお待たせするわけも行かず、急いでメイクをしたけれど、マイナスから30点ぐらいに、なれただろうか?


子供も連れて出かけると言うのは、大仕事である。おむつの替え、ミルクの準備は、水筒にお湯を入れ、哺乳瓶、ステックのミルク。ぐずった時用のおやつ。ハンドタオル、何かと役立つバスタオル。バタバタと動きまわりお出かけ用の準備をする。


それでも今日は朝倉先生が、娘をあやしていてくれたおかげで支度もスムーズだ。


大きなマザーズバッグを肩から下げ、お次に美優を抱き上げようとしたら、朝倉先生の手がスッと伸びて来た。


「いいよ。まかせて」


と茶目っ気たっぷりに微笑んで美優を抱き上げると、そのまま玄関からスタスタと出て行ってしまった。


笑顔が眩しい……。目がやれそうだ。



しかし、家の前に止めてある車まで行った朝倉先生は固まっていた。

そして、ポソリとつぶやく。


「しまった。赤ちゃん用のチャイルドシートが無い」


真剣に困っている様子がなんだか可愛らしく見えてしまった。

けれど、美優の事を心配してくれている様子は、思わずありがたい気持ちで拝みたくなる。

そして、私の重たい腰をここまで上げてくれた朝倉先生にはに感謝しかない。


「今日はありがとうございました。ここまでで大丈夫です。朝倉先生の貴重なお時間を、これ以上使わせるわけにはいきませんから、自分の車で行きます」


「なんだ、谷野さんの車があるじゃないか」


と、手を差し出された。なんの意味か分からず首をかしげる。


「そっちの車で行こう。鍵貸して」


「そんな、悪いですよ」


「ショップで子供がぐずったらどうするんだ?」

ぐっ、それを言われると言い返す言葉が見つからない。

朝倉先生の好意に甘える事にした。


「すみません。よろしくお願いします」


◇ ◇


ショップでの携帯電話の交換をしてもらっている間。朝倉先生は待合ソファーに腰掛け、娘を膝の上に乗せて上手にあやしてくれている。

普段の生活の中で、なんでもない事も子供が居るとスムーズにいかずに、周りの人に迷惑を掛けながら生活している気がする。

カウンターで係りの人からの説明もスムーズに聞ける。

好奇心いっぱいの幼児を抱きながらだと、イタズラを止めながら、係りの人に相槌を打つのが精一杯だ。

パートナーがいると、こんなにも手続きが楽なのとかと、感激してしまった。


おかげさまで無事、新しい携帯電話を手に入れることが出来た。


「朝倉先生、ありがとうございました」


すっかり、お世話になってしまった朝倉先生のもとへ行き、美優を預かろうと手を伸ばした。

すると、気が付けば、店中の視線が私たちに集まっている。

うわ~。みんな朝倉先生を見てる。

朝倉先生ほどのイケメンが子供をあやす図は、イケメンがイクメンになって、尊い構図だ。


あー、視線を送る全ての人に言いたい!

『神降臨かと思えるほどの良い人でイケメンの

朝倉翔也の新刊を是非買って下さいっ! 私は、表紙担当です。今日は、心配してショップに付き合ってくださっただけなんです!』


「谷野さん?」

はっ!妄想に浸ってしまった。いけない、今日のお礼しなくちゃ。

「朝倉先生、ありがとうございました。良かったらこの後、ウチでお食事していきませんか? お礼にご馳走させて下さい」

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