ユウコは地下につながる階段を
猫のように足音を立てずに
降りていた
今の時間帯は厨房には
この楊貴館のありとあらゆる
ディナーを取り仕切っている
料理長の神谷が一人で
明日の仕込みに入っているはずだ
この館に来てから
ユウコはここに関わっている
従業員を一人残らず調べ上げていた
そして見つけたのだ
自分の言いなりになって
望みのものを自分に
与えてくれる人物を
まるで猫がねずみの死骸を
褒めて欲しくてご主人様に
見せびらかしに来るように
それにしてもここに来てから
聞いた噂は本当だろうか
セリナがオーナーのミスヨーコの
寵愛を受けているとは・・・
ユウコはその手のゴシップを
嗅ぎつける天才だった
セリナはここでも特別グループに属し
いくつもの上客を相手にしている
自分も女王様を演じれると
何度もミスヨーコに交渉したが
彼女は聞き入れなかった
そしてその特別グループには
あのいまいましいユカも入っている
不公平だわ
セリナがチームリーダーとして
偉そうにしてオーナーの
お気に入りの愛人みたいに
ふるまっている
今はとても面白くない
まったく馬鹿で高慢な女
ユウコは真っ白いバロック調の壁に
ネイルの施された爪で真一文字に
傷をつけて歩いた
人を恨むのがとくいな自分だ
でも
もうすぐ私の時代が来る・・・・
そうよ
自分の実力を示す時が来たのだ
もっと狡猾に近づかなければ・・・
それには運と忍耐が必要だ・・・・
そう・・・・
クモがあの芸術的な模様の
編みを張って獲物が
ひっかかるのを待つように・・・
一度にひとつづつ
薄暗い厨房に足を踏み入れると
他の従業員はみんな帰っていた
料理長の神谷が後ろ向きに
自分の所だけ灯りをつけ
何やら生地を捏ねていた
彼女は腰をゆっくり振りながら
厨房の中にいる神谷に近づいて行った
「おじゃましてごめんなさい
眠れなくて 」
ユウコはマスカラをたっぷりつけた
まつげを神谷に向かってしばたく
そして誘うような笑みを
ゆっくりと浮かべた
年かさは40代は半ばだろうか
頭は若干薄く
中年の腹が突き出た体形は
今まで旨いものをさんざん
食べてきただらしなさが見える
もちろん食い物に
だらしがないのであれば
女にもだらしがないのが見て取れた
神谷は振り向きユウコを見ると
ぎょっとした顏を浮かべて言った
小さなひとえの目がこちらに
向けられている
「・・・・ここには無断で
出入りは禁止になっている 」
ユウコの笑みが氷ついた
怒りが押し寄せる
優しさのかけらもない男だわ!
しかし次第に神谷の熱い視線が
ユウコの体を舐めるように
絡みつくのを感じ
ほくそ笑んだ
ユウコは下着はつけていなかった
ピンクのオーガンジーのガウンを
交互に前合わせにし
金の腰ベルトで結んでいる
ピンととがった乳首や
足の間の三角形の茂みが
透けて見える
ユウコはカウンターに両肘をつき
手に顎を乗せて誘うように微笑んだ
「眠れなくて・・・・
一杯おごってくれない? 」
神谷はじっとユウコを見つめている
なかなか楽しめそうだ
仕事と楽しみを一緒にするのは悪くない
ユウコはさらに挑発した
「愛想が悪いのね
料理人は気難しいって
決まっているのかしら
一杯飲ませてくれたら
さっさと退散するわ 」
「ウイスキーでいいか?」
神谷は棚から瓶を取り出して
コップを二つ取り出し並々と
継いでユウコにぶっきらぼうに
差し出した
「ああ~・・おいしい
本当にこの仕事って体力勝負でしょう?
初めてここに来てから
ずっと男の相手をしっぱなしで
肩はこるわ
アソコはひりひりするわ 」
ユウコは気さくなであけすけな
物言いをして軽い女を演じた
「それは・・・・ひどい話だな」
神谷の視線がユウコの
透けている乳首の上を泳ぐ
ゴクリとウィスキーを飲み込む
音がやたらと大きく響いた
「久しぶりの休みだと思ったけど
結局気を紛らわせれる
ものがないのよ 」
神谷の前にそっと近づいて
小声で言った
「ア・レ・以外にね 」
神谷は無表情でグラスの
向こうから彼女を見つめた
「・・・・商品には手を出さないと
オーナーと契約している 」
ぶっきらぼうに答えたが
神谷の頬はうっすらと赤くなっていた
ユウコはかすれた声でささやいた
「まぁ!知らなかったわ
嫌な思いをさせてしまって
欲求不満の女はさっさと退散するわ
ごめんなさい・・・
仕事をじゃましてしまって 」
「いや・・・いいさ
気にするな・・・
そんな時もある 」
しばらくして彼が言った
落ち着きなくそわそわしている
ユウコは厨房台のかごにのっている
人参を一本つかみ神谷に言った
「よかったらこの人参を下さる?」
神谷は怪訝な顔をして言った
「それはいいが・・・
いったい何に使うんだ?そんなもの 」
ユウコは人参をペロリと舐めて言った
「部屋に持って帰って一人で遊ぶの
きっと満足するまで
ずいぶん時間がかかるわ
だってこれは冷たくて
硬くて・・・
もっとも硬いのは大好きだけど
ひっかかりもないし
きっと
ずいぶん奥まで入れなきゃいけないわ
あたしって・・・
すごく深いのよ・・ 」
神谷の口がにやりとひきつった
きゅうりを手にとって言った
「ほう・・・じゃこれはどうだい?」
「どうかしら・・・・
このブツブツは
気持ちよさそうだけど・・・
細いのは好きじゃないのよ
それにすぐふやけちゃうわ
あたし・・・
よく濡れるから・・ 」
ハァ・・・と
神谷の首筋に熱い息をかける
神谷の顔が赤くなった
「そうか・・・・
じゃあこれは無理だな
君に合うおもちゃを
一緒に探してあげよう」
ユウコは神谷の
股間をそっと撫でて言った
「あなたのこれはとても大きくて
強そうだわ・・・
きっと嫌なことを
忘れさせてくれるでしょうね」
「ああ・・・俺は太くてデカい・・ 」
「太くてデカいの大好き・・・」
ふたりは見つめあった
神谷がグラスを持ち上げた
彼が中身を飲み干す間
ユウコの手はしっかり
彼自身を握っていた
高まりが強く激しく
脈打っているのがわかる
もう一息だとユウコは思った
さらに挑発した
「もう濡れてるの・・・
ぜんきなんか必要ないぐらい・・・ 」
「ほほう・・・
どれどれ見せてみろ・・・ 」
神谷は口ごもり・・・
コック服の襟のボタンを外しだした
ユウコは調理台に手をついて
ガウンを背中までめくり
そのみごとなヒップを神谷に
誘うようにさらけ出した
ピンクの襞を指で掻き分け
神谷によく見えるように
思いっきり広げた
「ねぇ・・・綺麗でしょう?
もうこんなに濡れてるの・・・ 」
神谷の息が荒くなっている
「ああ・・・もう・・本当に
綺麗だ・・・ 我慢できない 」
神谷が荒々しくズボンの前を開き
硬くなった男性自身を出す
そして豚のように鼻をならし
一気に貫いた
ピカピカのステンレスの厨房の冷蔵庫が
鏡代わりに二人の姿を映し出す
ユウコの白い下半身に
毛だらけの浅黒い神谷の尻が重なる
神谷が動くたびに筋肉が収縮した
尻が引きつる
「あん あん いいわ
そこよ! ああ・・・いい・・・ 」
ユウコは片手で神谷の
尻に爪を立て言い続けた
神谷は1.2分息を荒げて
ウンウンいってから
大きなうねり声を発し
急にぴくっとしたきり動きを止めて
全身を震わせた
ユウコが彼の尻に爪を立て引き寄せ
ぐったりして自分に寄りかかって
くるとその手を緩めた
しばらく彼を背中で支えたまま
背中をおざなりにポンポンと叩いた
まるで赤ん坊をゲップ
させるようなしぐさで
神谷は顏から首筋まで
顔を赤黒く染めて
肩で息をしていた
ユウコのうなじにキスをする
まったくイッた後の男ほど
無防備な生き物はいない
この男の脳みそは今は働いていない
ユウコは身をよじりながら言った
「ねぇ・・・あなたって
週に2回町に仕入れに
行っているのよね
買ってきて欲しいのが
あるんだけど 」
神谷は目を閉じまだ
荒い息を整えて言った
「・・・週3回だ
欲しいものを言ってごらん
俺のかわい子ちゃん・・・・ 」
ニヤッと笑って
ユウコはもう一度中を締め付けた
神谷がそれにあわせて
またうなった
ダイニングでは
セリナさんとアランが
熱気と情熱とおよそ2リットルの
ちゃんぽんの酒のせいなのか
真っ赤な顔をテーブル越しに
突き合わせ
卑猥な悪態を吐きながら
いがみあっていた
それを他の見物人の女達は
大喜びで口笛を吹き
野次を飛ばしとりわけ痛烈な
悪態にはどっと笑い声が
起きていた
そんな時大広間に来客の
合図のベルが鳴った
「海盛丸の皆様がいらしたわよ!」
「キャー!」
途端に歓声があがり
女達が迎えの準備をする
大広間は大勢のむさくるしい男と
派手に着飾った女との熱気に
部屋の温度が一気に上がる
あたしはドキドキして
今はひそかに誰かを待っていた
「ユカ!!」
「信一郎様」
彼があたしを見つけて
駆け寄ってきた
「お帰りなさい」
「ただいま!」
二人は熱く見つめ合った
彼は先月会った時より
前髪が伸びていた
真っ黒のストレートヘアは
真ん中で分けられて
大きくてまっすぐな鼻
琥珀色のアーモンド形の瞳は
目じりが下がっている分
性格の優しさがにじみ出ている
犬顔の彼は今は再会の喜びで
笑顔が弾けて
肌は健康的に日焼けしている
そして彼は洗いたての
シャツと海の匂いがした
うっとりと彼を見ていると
突然抱き上げられた
「キャァ!信一郎様? 」
「いつものコテージに行こう」
背の高い彼に抱き上げられると
まるで景色が違い驚いた
「おろしてください!
歩けます 」
「おとなしくしないと
米俵のように担いでいくぞ!
少し痩せたような気がする 」
あたしは降りようと
したけど無駄だった
海の男の本当の力をみくびっていた
月明かりに照らされラグーンは
小さな波が押し寄せては引いていた
今夜はイルカはいない季節を重ねた分
初めて会った時より少し風は肌寒く
闇は濃くなっていた
遠くで虫の羽音が聞こえる
あたしは抱えられたまま
コテージに入り
彼は黙ったままそっとあたしを
コテージのベットへ降ろした
「な・・・何か召し上がりますか?」
「君に飢えてる 」
彼が熱く私を見つめ続けるので
顏が赤くなった
「お・・・お風呂・・・」
「後で一緒に入ればいい 」
「でも・・・・
海盛丸の皆様にご挨拶を・・・」
「そんなものくそくらえだ!
ヤツらに君を見せるのはもったいない」
あたしはドキドキしていた
目の前にいる彼は
以前のように儚げな童貞の
少年ではなく
成功している
男としての自信にみなぎっていた
無言で強く抱きしめられると
彼の喉があたしの心臓と同じように
ドクドク脈打つのを感じた
彼があたしの肩をつかんで
少し離したので
見上げると彼の顔があった
手の大きさとぬくもりにめまいが
しそうだった
「君がほしい、ユカ」
つまった声で言った
次に何を言えばいいか
分からないぐらい
一瞬言葉を止めた
「君を想うと胸が苦しい
ずっと欲しくてたまらなかった 」
彼は服を脱ぐ手間さえ惜しんで
苦労してしゃべっている
とても強烈な何かを抑えようとして
拳が震えている
荒々しく唇を重ねられ
あたしは喜びで震えた
彼の息は荒く熱く
とても爽やかだった
彼が耳もとで
切なそうにささやいた
「いますぐ
君の中に入らないと死んでしまう」
すかさずあたしは
それに答えた
不意に目が覚めた
胸の重みは信一郎だった
彼の髪が潮風にさらされ
湿ってあたしの乳房の上で広がっていた
胸骨にあたる彼の頬は暖かく
汗で少しべとついるが
背中と腕は吹き込む
夜中の潮風に冷やされて冷たかった
あたしはすっぽり彼に
覆われているのでとても暖かく
満たされていた
天井を向くと
支柱にかけられている
カーテンが揺れている
こんなに心を満たされたのは
何年ぶりだろう・・・・
いつもは
心がどこか破けてて
何か大切なものが零れ落ちてる
感覚に襲われるのに
あたしに覆いかぶさったまま動かず
胸をまくらに熟睡している彼の
髪をそっと掻き分けてみる
男らしい眉毛とは反対に
閉じた長い睫がこの人の
無邪気さを前面に表していた
きっとこの人のせいね・・・・
彼が大きく深呼吸し
かすれた口調でつぶやいた
「・・・ハラ減った・・・」
クスクス笑いが止まらない
何か食べ物を持ってこようと
起きあがろうとすると
また押さえつけられた
やっぱり力が強い
ひとさし指で私の乳輪
をゆっくりなぞった
「こんな色の桜貝を見たことがある
もっと硬かったけど・・・ 」
口に含まれた時は
彼の口の粘膜の熱さに
大きく吐息がもれた
彼はつづけた
「いつか消えるのかな?
君への欲望は・・・・ 」
熱心に乳房を愛撫している
あたしは目を閉じ
体を弓なりにして聞いた
「君と離れた瞬間にもう胸が
締め付けられ指がうずく
もう一度触れたくて 」
彼が月明かりの中で
あたしの顔を包み
親指で眉の弧をなどった
「君が俺の手の中でそんな風に
震え奪われるのを
待っていると思うと・・・
ああ・・・
君をとことん喜ばせたくなる
まるでペニスと一緒に
魂まで捧げた気分になる 」
彼がまたがったので
あたしは脚を開いた
はいってこられて
少し顏をしかめると
信一郎がフッと笑った
「ああ・・・・
俺もちょっと痛い
やめてほしか? 」
答える代りに脚を腰に巻きつけ
彼を引き寄せた
「あなたはやめたい? 」
あたしは尋ねた
彼はまじめくさった顔で言った
「まさかっ!やめられるわけがない 」
私たちは笑い
ゆっくり腰を動かした
二人で荒い息を整え
落ち着いた頃彼が思い出したか
のように飛び起き脱ぎ散らかした
ズボンのポケットを漁り
あたしとむかえ合わせに座り
そっと手を引き起こした
あたしはシーツを胸元まで引き上げた
「君に渡したいものがある」
小さな包みを取り出し
あたしの手のひらに置いた
「開けろよ 君のだ」
あたしは彼を見つめながら
紙包みを破ると
幅広の銀の指輪がポロリと落ちた
「まぁ・・・・ 」
「フィリピン港で腕の良い
銀細工職人がいてね
作ってもらったんだ 」
キラキラ光る幅広の指輪を裏返すと
波の模様の彫刻にサファイアが
埋め込まれていた
「綺麗・・・・ 」
指輪の内側には
何やら文字が彫られている
「これは何て書いてあるの? 」
あたしの耳の裏にキスをして
優しく囁いた
「ケリーア カサールメ コンティーゴ・・・・」
そして右の瞼にもキスをして言った
「スペイン語で結婚してください
って言う意味だよ
もともとフィリピンはスペインの
植民地だからね」
二人の目が合った・・・
「まさか・・・ 」
「はめてくれるか?ユカ」
彼は慎重に言った
頬を紅潮させ
唾を飲み込む音が聞こえた
「君を身請けしたいと思っている・・・」
手で優しく頬をなでられた
あたしは混乱し先ほどの熱い
愛の名残りは一気に冷え体は
からっぽになった気がした
考えたこともなかった
ここを出ていけるの?
あたしはハッとなった
胸の中に幸福の小さな泡が生まれ・・・・
それはすぐ弾けた
そう・・・
あたしは自分で出て行こうと
思えば今すぐにでも出ていける・・・
自由の身になることと
ショージの愛を獲得すること
とは別問題だ
もしほんの一瞬でもあたしの存在が
彼のためになるどころか
彼に嫌悪をもたらすものだったら・・・
千回巡らせた考えが頭をよぎった
そして千回同じように
全身鳥肌が立った
ここには何もない
でもオーナーのミスヨーコは
ジョージの存在を言っている
唯一の人物
ここだけが彼とのつながりを保てる
一筋の光
もっともその光も消えかけているけど・・・
朝方の風は冷えて冷たく感じた
遠くでシラサギの甲高い鳴き声が
聞こえた
体への欲望なら
いくらでも受け入れられる
でも・・・・・
これは・・・・
受け入れられない
だってあたしの心の中に住んでいる・・・
それはもう長く根を張っている
あたしは怖いのだ
死ぬほど愛したもう一度彼に
裏切られるのは耐えられない
かといって
このままずっと彼を思って
生きれるほどあたしは強くない
あたしは泣いた
すすり泣き
体を震わせた
目の前ですべてを与えようとする
男の愛に
二度と会えない男への
胸の張り裂けそうな
悲しみがまじっていたから
頭の中から溢れかえる言葉や
感情のうちどれから話せばいいか
わからず言い淀んでいると
彼はあたしを抱え上げ膝にのせ
温かい胸に頭をもたせかけた
彼はあたしを抱いたまま闇を怖がる
子供にするようにやさしくあやしつづけた
「今すぐでなくていい
いつか君がこれをはめて
くれる日が来ることを俺は願ってるよ・・・」
軽くキスして言った
「それまで
君に会いに通い続ける・・・
俺の愛が本物だということを
証明してみせるよ 」
その目の明るさは影をひそめたが
視線はまっすぐな意思と同じで揺るがない
「信一郎様・・・・ 」
それから二人は
朝まで抱き合って眠った
楊貴館から海岸線の曲がりくねった
道路を降りきった場所に
そのイタリアンレストランはあった
ここはセリナさんのお気に入りで
シーフードも本場のイタリアから
取り寄せたもので楊貴館の
ディナーよりはるかに
美味しいらしい
もっとも本場を知らないあたしは
セリナさんの講釈に黙って
うなずくことしか出来ないけど
でもセリナさんおすすめのサラダは
本当においしかった
最近ではもっぱら仕事前に
セリナさんと遅めのランチをするのが
習慣になっていた・・・
二人で通り沿いのテラスに
むかえ合わせになって座り
あたしは自分が頼んだ
イタリアントマトスパゲッティが
すっぱくて思わず吐きそうになった
それをセリナさんが見て言った
「孕んだの? 」
「まさか以前ヨーコさんにも聞かれたわ」 」
セリナさんが器用に
スパゲティを巻いて言う
「それが一番あたし達が
恐れていることだからね
射精後の口径用避妊薬
ちゃんと飲んでる? 」
「もちろん!ミスヨーコが
海外で特注に作らせている
ピルでしょ? 」
あたしはシャンパンを軽く
口に含んで言った
「あれは絶大に効くけど
副作用も絶大みたいね 」
「たとえば? 」
セリナさんも同じシャンパンを
飲みながらニヤッと笑って言った
「あのピルはなんと男性の精子のみを
攻撃して破壊してしまう
いわば精子専用の抗生剤みたいなもの
さらに体内で免疫をつくるらしいの 」
「それが副作用なの? 」
あたしはサラダにドレッシングを
かけながら言った
「そう一生妊娠しないかもしれない」
「いらないわ 子供なんて」
そう言葉にしてみれば
なんだか落ち着かなくそわそわした
「あら?信一郎の身請けの話は
どうなったの? 」
「なんともいえないわ」
「館内で噂は広まってるわよ
相当の額をミスヨーコに提示してきたって
ずいぶん羽振りがいいのね大島のボンは 」
あたしは目をぱちくりさせた
「でも 無理ね
ミスヨーコがあんたを離さないわよ
プロポーズのお礼に
今度信一郎に4時間ノンストップの
フェラチオなんかどう?
坊や鼻血吹くわよ 」
セリナさんがクスクス笑って言った
「下品なんだから・・・・ 」
あたしは呆れて言った
「あんたの呆れた顔セクシーよ」
セリナはそう言って意地の悪い笑みを
浮かべシャンパングラスを掲げた
その時バッグの携帯が鳴った
「やれやれ
食事もゆっくり食べれないなんてね!」
セリナさんがうんざりして
目をぐるっと回した
「・・・気晴らしに外へ
出れるだけでも感謝しなくちゃ・・・
他の子はあの館から一歩も出れないのよ 」
あたしは店のレシートを手にして言った
「行きましょう 」
店に行くと
スタッフの男の人に声をかけられた
お客があたしを待っている
行かなくては
グリーディングルームで
マダム純子とそのスタッフが
あたし達を見て一斉におじぎをした
「お待ちしていました
ユカ様セリナ様 」
セリナさんは鼻歌を歌い
着ているものを一枚一枚放り投げ
真っ裸になってバスルームに向かった
スタッフがあわてて彼女が
脱ぎ散らかした服を拾う
あたしもシャワーを浴び
膣の中に特殊な薬品を塗りつける
摩擦から粘膜を守り精子を殺すものだ
そしてバックにさっきセリナさんと
話題にしていた射精後の
口径避妊薬を2錠しのばせる
バスルームから出てくると
マダム純子とそのスタッフに
身を任せる
「ユカ様は本当にお綺麗ですわ
でもわたくしの手にかかれば
歩道を歩くだけで自動車事故を
起こさせることだってできますわよ 」
そうマダム純子がコロコロ笑って言った
器用にブラシが髪に入っていく
「そんなまでしなくても」
ちっちっちと
マダムが顔をしかめて言った
「どうやらユカ様は女王パワーの講習
プログラムを受けた方がよさそうですわね
本当に魅力的になるということが
どういうことかすぐにわかりますわよ
さぁすばらしいドレスを用意しましたわ 」
スタッフが広げたドレスは
シャンパン色のシンプルなドレスだった
ウエストからたっぷり襞をとった
スカートが上品に広がっている
ネックラインと胸の谷間が
引き立つ深いV字型だ
オフショルダーのデザインなので
ブラはつけられないが
見るものを楽しませるように豊かな
胸がきれいに押し上げられるように
何本もワイヤーが仕込まれている
どうせすぐ脱ぐのに凝った代物だ
ドレスを着用し
マダムが賞賛の声を漏らしながら
腰まである毛先をコテでカールしている
あたしは鏡に映った自分を見つめた
もちろん下着はつけていない
無防備で隙だらけになったような
気がする
見知らぬ男の快楽のために
女という性を全開でさらしている
「さぁ!今夜のお客様の
ミスター・ミュラー様からの
特別なプレゼントなのですよ!
ユカ様の真っ白なお肌に良く映えますわ」
ネックレスはドレスに合わせ
5種類の異なったデザインの
ものが用意されていた
どれも先端に大きな宝石が
埋め込まれていた
金持ち男のきまぐれのために
費やされた信じがたい浪費
真っ赤なルビーの息を飲むほどの
見事なデザインのネックレスをつけた
マダム純子は自分の仕事ぶりに
満足の声をあげ
先に立って廊下を進み
特別室に先導した
ドアを開けた部屋は床から
天井まで窓がいくつもある
広々とした応接室で
奥にキングサイズのベットが圧倒的な
存在感を醸し出している
平均的なほっそりとした男性が
こちらに背を向けて窓の外を
見つめている
あたしが入っていくと
男が貴族の様な仕草で
ゆっくり振り向いた
「お待たせしてごめんなさい 」
ミスター・ミュラーがにっこりほほ笑んだ
生え際は薄くオールバックにしている
オリーブ色の肌をして目は灰色だ
笑うと目じりに皺がよる所を見ると
良い年の様だ
彼はハリウッド映画の有名な
監督らしい
「ああっ!半年待ったかいがあったよ
HPで君を見つけてから
ずっと会いたかったんだ! 」
ミスター・ミュラーは
すべるように近づいてくると
感慨深い表情を見せて言った
「・・・本当に・・・・
雪のように色が白いんだな・・・
こんな肌は初めて見た・・・ 」
着飾り微笑んだあたしをみて客は
子供のように顏を綻ばせる
私に伸ばされたその手を取り
指と指をからませて
そうして繋いだ指を引きながら
部屋へと案内する
にっこり笑いながら
あたしは今日のプログラムに入る
キングサイズのベッドの横には
まわりに豪華なフルーツを盛った
人が一人寝ころべるほどの
テーブルが仕込まれている
あたしは彼をベッドの淵に座らせた
彼の目に捕食者の表情が宿った
「ドレスを脱いで」
彼は低い声で言った
「見せてくれ宝石をつけたまま
一糸まとわぬ君の姿を 」
あたしは背を伸ばしモデルのように体の
曲線に手を這わせ肌をぴったりと
包むようなドレスに手をかけた
足にまとわりつくスカートを
ゆっくりと引き上げる
わざと時間をかけて小出しにするように
下着をつけていない下半身を
彼の目にさらして
髪型が崩れないように
気を付けてドレスを脱いでいった
「テーブルの上に横になって」
彼はすぐそばに来てそびえ立ち
光を遮っている
お尻が冷たい大理石のテーブルに
当たって身悶えた
その冷たさに慣れるように
ゆっくりと身体を横たえた
世界中の果物が周りに
敷き詰められている
テーブルにメインデッシュの
あたしが収まった
彼はあたしの脚を開かせその間に立った
膝をつき大きな暖かい手の両方で
片足を撫で回してから肩にかけさせた
「ああ・・・
噂どおりだつややかでどんな
果物よりもきれいな色だ
輝くようだよ
自分で指を中にいれるんだ
どれぐらい濡れているか
わたしに見せてくれ・・・」
あたしは唇をかみ
体の震えを抑えられないまま
襞を開き指を入れた
ストリップのように
セクシーに身をくねらせて
「私が君のジュースを飲む間
大きく開いているんだよ 」
彼は命令した
これが彼の要望したプログラム
世界一の美女の股間に気がすむまで
顔をうずめたいというものだった
あたしはしゃべることも
息をすることもできなかった
ただただ彼を熱いまなざしで見つめ
彼の器用で貪欲な舌に秘密の場所を
空け渡した
彼はあたしの腰をつかみ
舌を上下にゆらし
濡れた襞をかきわけて
舐めまわし
奥まで舌を入れ
小刻みに震わせる
服従的な体制なのに
屈するところはどこもなかった
あたしを我が物として
いつまでも余すところなく奪う
それだけの権利は
この人にはある
あたしは容赦ない攻めに息を切らし
自ら彼の顔に腰を突きだした
背に当たった大理石のテーブルは冷たく
テーブルの角はおしりに食い込んでいるけど
ひたすら好きにさせた
すっかり興奮した彼は息継ぎに
イチゴを一粒口に入れ咀嚼した
そして再びあたしのアソコに
むしゃぶりついた
・・・・変態なんだから・・・
わざとらしい喘ぎ声を出しながら
心のどこかで冷ややかな
自分がつぶやいた
「すばらしい・・・・
すばらしい・・・・
ああ・・・この小さなピンクの
真珠はどの果物よりおいしい 」
彼は花びらを開き
二本の指で敏感な芯を摘まんで
むき出しにした
そこに口をつけ強く吸われた
あたしはびくっとして
いやがるそぶりをして
首を横にふった
刺激が強すぎる
切れたかもしれない
もっと優しくしてほしい
彼はそれに気づいてくれて
ふたたびかすめるように舐め
唇でしゃぶり舌をチロチロと震わせた
よかった・・・・
いくらク〇ニが好きな人でも
こちらの要望を聞いてくれる人で
なければ怪我のもとだ
あたしはホッとしてそれからは体を
預けた
あたしの喘ぎ声で
彼の心は喜びに満たされた
同時に飽くなき欲望はさらに高まった
驚くほどここの高い代償を
払うだけの事はあるほど
あたしはSEXドール・・・
それがあたしの仕事・・・・
不安も怒りも悲しみも
身体と身体が擦り合わさったら
どこかへいってしまう
ここに来て以来
あたしはまっさかさまに
落ち続けているような気がする
胸は痛み
心は引き裂かれている
ジョージは手の一振りで
あたしを滅ぼすことが出来る
今はまだ何も考えたくない・・・・
そうしてあたしは
暗闇にまた落ちていく・・・
:*゚..:。:.
.:*゚:.。
信一郎達を乗せた車が駐車場に
速やかに停車すると
シルバーグレーのスーツ姿で派手に
男前が上がった
幸雄が足早に近寄ってきた
「遅いぞ!式はもう始まる!」
片耳でダイヤモンドが輝いている
信一郎の隣でこれまたスーツで
シャレこんでいる洋平が言った
頭のリーゼントが陽気に揺れる
「新婦の友達は美人か?
ブライズメイドってやつだ! 」
幸雄がにやっとして親指を立てた
「ああ
年頃の男を捕まえようと躍起に
なっているブライズメイドが
山ほどいるぜ俺は昨日から泊りで
来てるけど
向こう隣の島のかわいこちゃんも
沢山来ている 」
「いいな!
俺は何人だろうがいくらでも
相手になれる
ムラムラするな 」
洋平がニヤニヤしながらいとこに言った
「アホかっ!
結婚したくてうずうずしている
ブライズメイドとタダでやってみろ!
終わった後にティッシュの代わりに
婚姻届けを突きだすぜ!
それにここには男女の仲を
取り持つのが好きな
おっさんおばさん連中が
わんさかいる! 自粛しろよ! 」
洋平は幸雄の言葉にげんなりした
「大島一族の聡子姉ちゃんの
結婚式だもんな嫁ぎ先もなんでも
由緒正しい家柄だそうじゃないか
よかったね 」
信一郎も微笑んで言った
「俺はいとこの聡子みたいな女はごめんだな
あの女がそばにいると
小言を言われてうるさくてならない
旦那に同情するぜ! 」
幸雄が聡子のうわついた声を真似する
「幸雄!そんなことしたら
お母さんに言いつけるわよ!
幸雄!あたしの自転車勝手に
乗らないで! 」
3人はケラケラ笑いながら
豪華なロビーに入っていった
島あげての大きな結婚式だけあって
多くの人が集まっていた
そしてほとんどが親族で知り合いだった
信一郎は大勢の人に挨拶をかわしたり
肩を叩かれたりしながら
ようやく最前列の親族席に座り
馴れないスーツの詰襟を
人差し指で伸ばした
芝生の両側でバラが咲き誇っている
噴水がそよ風を受けて
小さな水滴を飛ばしていた
厳粛なガーデン挙式だ
まもなく弦楽四重奏の演奏が始まった
最初に幸雄が現れた
自分の腕を取るピンク色のドレスの
女性に微笑みかけている
それを見た信一郎は楊貴館でアランと
熱烈なキスをしていた幸雄を思い出した
頬が熱くなるたぶんあの
ぽっちゃりしたピンクのドレスを
着たブライズメイドは
幸雄の嗜好は知らないのだろう
でもどうあがいてもあの
ピンクのブライズメイドよりアランの
方が華やかで幸雄に合っている気がした
実際どちらも長身のあの二人が
並ぶととても豪華だった
そしてアランはゾッとするぐらい
中性的で色気があった
もっともあそこの館で
色気がない者はいないけど・・・・
それに幸雄はアランと会ってから
ダイヤモンドのピアスを肌身離さず
つけている
そんなことをボーっと考えていると
新郎と父親の手をとった新婦が
姿を現した
幸せに輝くばかりの二人をみると
信一郎の目に感動の涙がにじんだ
信一郎は感動していた
とても素晴らしい式だ
いつか自分も輝くばかりに美しく
着飾ったユカとこんな挙式をしてみたい
そう思うと
先日ユカと会った時を思い出し
気分が沈んだ
ありったけの勇気を掻き合わせて
ユカにプロポーズした
そしてミスヨーコにユカを
身請けしたいと相談した
時の事・・・・
ミス・ヨーコは最初驚きに
目を見開いていたが
その目にはいろんな思惑が彷徨っていた
宮殿のような豪華な館のオフィスで
ミス・ヨーコと会談をした
彼女はとても愛想がよかった
信一郎は不安定な胃が
揺さぶられるような気がした
「大島の若旦那様には
大変いつもご贔屓にして
頂いていますもの
なんなりと御申し付け下さいな 」
ミス・ヨーコの声は
蠱惑的でハスキーだった
彼女はテーブルのシャンパンの
栓を抜き二つのグラスに注いだ
好奇心のこもった
アーモンド色の彼女の瞳を
まっすぐ見つめて信一郎は言った
「実は・・・・
ユカの事なんだ 」
「まぁ・・・彼女が何かしましたか?」
熱っぽく見つめられて
信一郎の頬が赤くなる
「いや・・・・
何かしたとかでなく・・・ 」
大きく深呼吸した
いよいよだありったけの勇気を
振り絞った
「実は・・・・
彼女を身請けしたいと思っている 」
ミス・ヨーコに告げる
「彼女を愛しているんだ 」
ミス・ヨーコは目を丸くし
やがて氷のような微笑を
ぞっとするような
美しい顏に張り付けた
体よくあしらわれたのだろうか?
くそっ
ユカがあの館にいる間は手も足も出ない
まるでおとぎ話の高い塔に
閉じ込められているお姫様のようだ
そんな事を考えていると
式は速やかに終わり
一行は白いクロスが
かけられたテーブルに付き
披露宴がつつがなく始まった
椅子の脚が詰め物で
ふくれたブロケードの
覆いで飾られている
テーブルの上に置いてある
テント状に折られた厚紙を
洋平がつかんだ
デザートのメニューだ
「やれやれ 恐ろしく金が
かかっているなこの式は
上等の酒を頼む 」
と近くのロボットのような
ウエイターに注文していた
信一郎も目の前にあるメニューに
目をやったデザートだけで
3種類も選べる
使われている砂糖の量を
思い浮かべただけで
腹がいっぱいになった
信一郎は不意に金屏風の前で
カメラマンの前で新婦を囲んで
ブランドメイド達とポーズを
取っている幸雄を
じっと見つめて言った
「あの・・・幸雄兄ちゃんは・・・
その・・ 」
「ああ・・・・ 」
洋平がエビの串焼きをむしゃむしゃ
食べながら言いたいことはわかると
片目を閉じて言った
「俺も気になって
アイツに聞いたんだがな
男でも女でもどっちでもいけるそうだ
まったく節操がないヤツだぜ 」
次に幸雄は色とりどりの
ドレスをまとって
愛想笑いを浮かべている
若い女性たちのテーブルで
シャンパンを注いでいた
セクシーな笑みがいつも通りの
効果をあげている
エビの匂いが広がった
そうこうしているうちに
幸雄がブライズメイドの集まりから
抜け出て息を切らして
信一郎の隣の席に戻ってきた
「お前も身を固めて大島のDNAを残す
ようにと中堅どもが騒いでるぜ!
よっ若旦那! 」
幸雄に笑いながら
力強く背中を叩かれた
本当に幸雄は美しい顏の
奥に野獣をひそめている
でも信一郎は幸雄に
好感を持たずにはいられなかった
たしかに無礼で粗野で
荒々しい海の男だが
頭が良くて狡猾で信義に篤い
いざという時に見方にいると頼りになる
信一郎にとってなにより
重要な要素だった
彼になら今の信一郎の胸の内を
相談してもいいだろう
「実は・・・・
兄ちゃん達に相談があるんだ 」
「なんだ? 」
「金ならねぇぞ」
と洋平
「金の話なんかしないよ
だいたい兄ちゃん達の
給料は俺が仕切ってるんだぜ 」
信一郎が言った
「じゃあ
どのブライズメイドが気に入ったんだ?
俺が行ってナンパしてきてやる 」
幸雄が部屋の反対側に
顎をしゃくって言った
「金でも目当ての
ブライズメイドでもないよ
実は・・・・・
結婚を考えている人がいるんだ」
洋平が飲んでいた酒を吹いた
「ほんとか?いったい誰だ?」
日焼けした浅黒い顔をニヤニヤ
して幸雄は頬笑んでいる
信一郎はごくんとつばを飲み
緊張を解こうとした
心臓がやけに早くなる
ユカの事を考えるといつもこうだ
「その・・・・
楊貴館の・・・
ユカなんだけど・・・・ 」
洋平と幸雄が軽薄なおしゃべりをやめ
信一郎の目を真剣に見上げた
「どこだって?」
二人は長々と心得顔で
目を見合わせていた
「楊貴館? 」
幸雄が訪ねる
「誰が反対しようと
俺の心は変わらないよ」
目の前の二人が困惑し
沈黙が流れた
信一郎は空気の流れが変わったことに
気付き落ち着きなく足を組み替えた
幸雄は無言で信一郎を見つめている
黒い瞳が冷静で気力を奪われる
自分が間違っているとは認めたくない
そう思うと歯ぎしりしたくなる
二人が長々と見つめ合ってるのを見て
信一郎はテーブルに運ばれた
デザートのケーキを口にほおりこんだ
甘い砂糖の塊だ
「悪いことは言わない
楊貴館の女に本気にはなるな 」
狂人に理を説こうとするように
幸雄が言った
「お前があの女に熱を
上げているのは知ってるぜ
現に彼女はいい仕事をしている
お前をみればわかるさ
だけど それとこれとは別だ 」
「彼女を侮辱すると許さないぞ!」
信一郎が声をあらげた
「おい!落ち着け 」
洋平も険しい顏をする
「兄ちゃん達は祝福してくれると
思ってた」
なんとなく否定されたのが
腹がたってしょうがない
洋平が信一郎の方へ
身を乗り出して言った
「なぁ!目を覚ませよ!
彼女はお前がこうしてる間にも
他の男に股を開いているんだぞ!
お前はまだ若い!
もっと楽しめ!
ほら あそこの赤いドレスの女はどうだ? 」
気が付いた時は信一郎は
洋平を殴り倒していた
洋平の鼻から血が流れている
会場の多くの人が自分達を興味深々で
見つめている
ブライズメイド達も目を皿にして
こっちを見ている
幸雄が何か言った時に会場が暗くなり
大きな扉からキャンドルを
持った新郎新婦が登場した
フワフワのドレスを着て
頭に花を沢山つけている
「少し外に行って頭を冷やせ
阿呆っ! 」
幸雄にそう言われ
フラフラ信一郎は会場を後にした
外は穏やかな風がそよいでいた
大理石の階段をのろのろ降りながら
信一郎は考えていた
ユカが他の男と寝ている事を想像すると
いてもたってもいられなくなる
でもそれはきっと
ユカ自身が好んでしていることではない
それだけは信一郎は確信を持っていた
現に指輪を渡してプロポーズした時に
流した彼女の涙は・・・・
恐ろしく美しく
そして何か深い訳があるはずだ
もっとも自分にそれを話してくれるほど
ユカは自分を信頼していないこともわかった
それとも口止めされているのか・・・
どっちでもよかった
とにかく彼女だけは
楊貴館にいる他の女とは違う
彼女は普通の一人の男を愛せる女だ
本能がそう感じている
父が死んでから
感情や不安を払いのけることは
慣れていたはずなのにそれなのに
妊娠したユカを思い描いている
自分の赤ん坊を抱いているユカを
そのイメージが引き起こした
感情の強さに信一郎は震えた
彼女には温かい家庭が必要だ
生命保険や朝食パンのCMに
出てくるような典型的な
温かい家族
母にも貞淑な嫁が必要だ
そう思うと一層心は固まった
誰の反対を押し切っても
ユカを大島一族の本家の嫁と
して迎え入れる
自分が愛する女はユカだけでいい・・・
もう披露宴会場に戻る気は
遥か彼方に消えていた
幸せな結婚生活を考えながら
信一郎はだたひたすら
海岸沿いを歩いた
猛烈にユカに会いたい
頭の中はばかげた思いつきを
正当化しようとやっきになっていた
危険きわまりない考えが頭をよぎる
今ユカは何をしているのだろうか
二人はりっぱに釣りあいが
とれているように感じる
今から楊貴館に乗り込んで行って
ユカを米俵のように担いで
家に連れて帰ろうか?
ふと銀行口座の残高が気になった
次の航海まで
資金を残しておく必要がある
自分がユカに使える金はもうない
会社の金に手をつければ
幸雄やその他海盛丸のみんなの
給料を払えなくなる
でもそれがどうした?
金がなければ借金すればいい
どうぜ次の航海も大漁ならば問題はない
そうさ ちょっと前借りするだけだ
自分がユカに会いに行って
何が悪い
未来の花嫁に
信一郎はポケットの携帯を
取り出して楊貴館に電話した
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