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「~♪︎~~♪︎」
歌。歌声。
その声は、暗い海原へと溶けていく。
誰に向けるでもない、嘆きの歌。
静かな月が、海に身を出している影をスポットライトのように照らす。
影は歌う。
その歌声は人間を狂わせ、誘い出す。
影は自分の恐ろしさを知っている。
そして、願いが叶うことなど無いことも。
「~♪︎…~~♪︎…」
影は歌う。
自分を見つけて欲しいと…願いを叶えて欲しいと…
だが、月に照される影は、人間に見つかってはいけない。
「…………」
歌が消える。影も消える。
歌声の主は、月の光から逃げるように光の届かない暗い海へ消えていった。
…その一部始終を見ていた者が居たことは、月だけが知っている。
街 ある家にて
「本当に居たんだって~!」
と、騒ぐのは、街一番と呼ばれ正確な音を蘇らせてくれると話題の調律師、Broooock。
「その話何回目だよ…」
珈琲を飲みながら答えたのは、望み通りの設計をしてくれると有名な建築士、きんとき。
「ま、俺としたら次の題材になるからいいけどね、その話。」
クッキーを手に取りながらそう答えたのは、他の者を唸らせる程の圧倒的かつ繊細な物を描く絵師、Nakamu。
「…現実的に言ったらあり得ないからな。」
本のページを捲りながら答えたのは、厳しいが納得する評価をつける評論家、スマイル。
「ただいま~!!疲れたぁ~…」
大きな声で家に入ってきたのは、街一番の大きな薬屋の跡取りであり確かな腕をもつ薬剤師、きりやん。
彼ら5人はいわゆる腐れえn…幼なじみである。
「あ、おかえり。」
「遅かったね?どしたん?」
「いやぁ~…今回の患者のおばあちゃん、話長くってさ…」
「あぁw捕まってたのかw」
すっかり5人の溜まり場と化しているきんときの事務所に遠慮なく上がり込んだきりやんは、軽い談笑をしながらそのまま自分の席へ座った。
すると突然、バンッ!と机を叩きながらBroooockが立ち上がり、
「だぁから!僕の話聞いてよ!」
と大声で言った。
「…でも、普通にあり得ないだろ。」
大声に驚いて放心する3人を他所に、読んでいた本を閉じてクッキーに手を伸ばすスマイルは言う。
「人魚なんて…神話上の生き物だからな。」
あの日の夜 海
ザザァ…ザザァ…と波の音しか聞こえない静かな夜に、Broooockは散歩をしていた。
「(夜の海は静かで好きなんだよね~)」
特に何かを考える訳でもなく立ち止まり、ムーンロードから曖昧な境界線へと目を移してボーッと海原を眺めていた。
しばらくそうしていると、微かに何かが聞こえた。
「(…ん?なんだろ…?)」
Broooockは誘われるように、好奇心に従って音の元へと歩いていく。
段々と音がハッキリして、誰かの声だということが分かり、月に照された影をしっかりと認識したBroooockは固まる。
「(え、あれって…まさか…)」
柔らかい光を受けながら月に向かって歌っていたのは美しい人魚だった。
下半身は海の中にあり視認出来なかったが、月に向かって伸ばす腕が光に反射し、キラキラと輝いていたことで人魚だと認識した。
「(綺麗…)」
Broooockはしばらくじっ、と人魚を見つめていた。だって、あまりにも美しかったから。今まで見てきたどんな美女よりも、あの人魚が一番美しいと思ったから。
きっとNakamuなら、この美しい景色を美しい絵にできるのだろう。と、内心苦笑しながらもBroooockは人魚を見つめ続けていた。
しかも、あの人魚の歌声は耳に良い。調律師という仕事柄、音に敏感な耳はどんな歌よりもあの歌を心地好いと捉え、もっと聴いていたいと思わせた。
しばらくして、人魚の歌声は小さくなっていった。
「…………」
完全に歌うことをやめた人魚は突然、ボチャン!と音を立てて海の中へ潜っていった。
「……えっ、」
いきなりのことですぐに反応出来なかったBroooockは間抜けな声をあげる。「待って」と言う暇もなく人魚は暗い海に消え、残されたのはザザァ…ザザァ…と響く波の音と、包み込むような柔らかい月の光だけだった。
夜 海
幼なじみ4人はBroooockに連れられ、夜の砂浜を歩いていた。
あまりにもしつこいBroooockの『人魚を見た』という話についにキレたNakamuが「じゃあ見てやるよ!お前らも来い!」と言い、半ば強制的に同行させられたのだ。まぁ、彼らもBroooockの話に多少の興味があったため、利害の一致とでも言うべきか…
そんな彼らだが、こうやって5人で散歩をするというのも子供の時以来だった。大人になってからそれぞれの仕事があり、なかなか5人そろって何処かに出かけるような時間が取れなかったのだ。(懐かしいな…)と思っている者も居るのかもしれない。
誰も言葉を発することなく、砂浜を歩いていくと何かが聞こえた。それにいち早く気付いたBroooockは皆を置いてけぼりにして突然走り出す。Broooockの突然の奇行に驚きはしたものの、すぐにはっと意識を戻し皆は必死についていく。
「ぶ、るーく…!待てって…!」
そんなNakamuの声も聞こえていないのか、Broooockは必死に音の元へと走っていく。
段々と音の元へと近づくとBroooockは急停止した。突然の停止にたたらを踏む者や、息切れしながらようやくといった様子で追い付いた者など、それぞれの様子でBroooockに追い付いた。
「ハァ、ハァ…ブルークお前…!」
「しぃ…!静かに…」
「はぁ…?」
突然走り出されたことにきりやんが叱ろうと声をあげると、Broooockは人差し指を口元へ持っていき静かにするように制した。
「…~♪︎……♪︎…」
「…やっぱりそうだ!あの子の声だ!」
あの子の声…聞こえた声があの人魚のものだと確信したBroooockは嬉しそうに声を上げた。他の4人も不思議そうに顔を見合わせながら耳を澄ますと…成る程、たしかに誰かの『声』が聴こえる。
互いにうなずきあった5人は静かに声の元へ歩いていく。
そこには、月に向かって歌う人魚の姿があった。
Broooock以外の4人は、初めて見た人魚の美しさに目を奪われた。スポットライトのような月の光に照された人魚は、まるで夜の海の主役は自分だといっているように輝いて見えたのだ。
歌を聴いていた彼らは、フラフラと誘われるように海に近づく。パシャ!と水に足を入れた音で歌は止まり、人魚は振り返った。
「だ…れ…?」
予想していたよりも低い声に、この人魚は男だったのかと驚くが、そんなことよりも話せるのだと分かったBroooockはズンズンと人魚に近づいていく。
「え…な、に…?」
驚きすぎているのか動かない人魚に、以外と浅瀬にいたことが幸いしすぐに人魚の側まで行けたBroooockは力強く人魚の両腕を掴むと言った。
「ねぇ!もっと歌って!」
別の日 ある家
「おい!お前ら大変だぞ!」
そう言って乱暴に扉を開きながら入ってきたのは珍しく焦った様子のスマイルだった。
「う、わ…ビックリした~…どうしたんだよスマイル」
そこには珍しくきんときしか居なかった(彼の事務所なので当たり前である)。
「あれ…きんときだけか?」
「うん。ナカムはお偉いさんたちとの食事会、ブルークは東町へ出張、きりやんはなんか用事あるって言ってたから俺しか居ないね。それよりそんな慌ててどうしたの?」
「そうだ、聞いてくれ!」
スマイルが言うには、今日も評論家として展示会へと仕事で赴いていた時のことである。いつも通り、展示されている作品達を評価していたときに気になる声が聞こえたのだ。曰く、『人魚を見たので捕まえる』とのことだった。本物の人魚を見た自分のことは棚に上げて、くだらないと思いながらもスマイルは耳を側立てていた。しばらく聞いていればなんと、『5人の青年が人魚と会っている』とも言うではないか。勿論のことそれは自分達の情報である。ほぼ毎夜に近い形であの人魚と会っていることが第三者にバレたのだ。
ここで、なぜ毎夜人魚と会っているのかと疑問に思った方もいるだろう。それでは、5人と人魚の対面したところまで遡ってお教えしよう。
~回想 初対面~
強く腕を捕まれ動けない人魚は、放心しながらもBroooockに言われた言葉を理解しようとしていた。
『もっと歌って』、それは催促の言葉。つまり…
「(俺の歌…聴かれてた…?!)」
そういうことである。
理解した人魚は顔が羞恥で赤く染まり、腕を離して欲しいと暴れるが勿論Broooockは離さない。むしろ、至近距離になったことでBroooockはまじまじと人魚を見た。
緑がかった黒色の腰まである長い髪、人間で言うところの耳と呼ばれる場所にある魚のようなヒレ、腕は肘から指先までがキラキラと輝く緑色の鱗に覆われ、脇腹は魚で言うエラがありハクハクと動いていた。勿論のこと下半身は緑色の鱗で覆われた魚のようなものである。この生き物は『人魚』であると確証した。でも、そんなことより…
「(かわいい…)」
と、Broooock含め見ていた他の4人も思っていた。なぜなら、月に照された美女(男性)が顔を赤く染めているのだ。男としてそう思わないほうが可笑しい。
「はな、し、て!」
「…ぁ、嫌だ!答えを聞くまで!この手は離さない!」
人魚が声を発したことによりに我に返ったBroooockはそう声を上げ、同じく我に返った4人は急いでBroooockの側へと近寄る。5対1、さすがにこれは無理だと悟ったのか人魚の抵抗は弱くなった。
「…わ、かた」
「え?」
「わかった、うたう……わぁ?!」
人魚は弱々しい声で言い、それを聞いたBroooockは嬉しさのあまり人魚を抱き締めた。
「やったぁ!!あ、じゃあさ、名前教えてよ!僕はBroooock!あっちの鞄持ってるのはNakamuで、あの黒髪はきんとき、あの仏頂面のはスマイルで、あの軽薄そうな眼鏡はきりやん!ねね、君の名前教えて!」
嬉しさのあまりか怒涛の勢いで自己紹介したBroooockに若干引きながらも人魚も声を発する。
「あ、おれ、は、◆*♯︎○♭︎ってなまえ…」
「…え?」
「え、だから…◆*♯︎○♭︎…」
人魚は必死に自分の名前を紡ぐが、その音は海語なのか人間であるBroooock達には聞き取れなかった。
「う~ん…あ、君はさ、文字は書ける?」
「もじ…すこしなら…」
Nakamuは閃いたとばかりに自分の鞄からスケッチブックと鉛筆を取り出しながら聞く。人魚はそれを見て、Nakamuの提案に苦い顔をしながらも頷いた。
「じゃあ、はい。これに自分の名前書いてもらってもいい?」
「わ、かった…」
「…ブルーク、お前いつまで抱き締めてんだよ!いい加減離せ!」
「やだやだ!僕はこの子と結婚するんだ~!」
「はぁ?!」
「どういう思考回路でそんな結論に至ったのか知らないが離してやれブルーク。その子が名前書けないだろ。」
「え、と…ぶる、く?ちょっとて、ゆるめて?」
「むぅ…君が言うなら…あと君細いね?」
自分とスマイルの説得には聞く耳を持たず、人魚の説得は素直に受け入れたことに「こいつ…」ときりやんは片手に握り拳をつくり、きんときがそれをどうどうと落ち着かせていた。若干変態発言が出たことには目を瞑ろう。
「で、きた…」
「お、ありがと。さて、なんて名前かn…」
人魚の名前が書かれたスケッチブックを受け取ったNakamuはそれを見て固まった。それを不思議に思った、未だ人魚に抱きついているBroooock以外の3人もそれを覗き込み固まる。そこには、ほぼ解読不能に近いミミズがのたくったような字が書かれていたのだ。
「(えっと、これは『S』かな…?で、これはぁ…『rk』?これは『n』っぽいな…だから…)」
他の皆が固まるなか、必死に解読したきんときが答え合わせのように人魚に確認した。
「君の名前って…『Sharken』?」
「!」
合っていたようで、人魚もといシャークんは嬉しそうにキラキラした目できんときを見上げた。
「あってる!おれ、のなまえ、しゃ、しゃーくん!」
「ヴッ…」
「きんとき!胸を抑えてどうした!死ぬのか?!」
「死んだら俺ん家(薬屋)の土地に埋めるからな?!」
「死なねぇよ…あときりやん、それやったら化けて出てやるからな…」
ギャイギャイと突然始まった茶番を華麗にスルーしたスマイルはシャークんに近づいて問うた。
「なぁ、シャークん。なんで逃げない?」
「え…」
「…神話上では、人魚はその歌で人間を海に引きずり込んだりする描写がある。つまり、君なら俺達を消すことも可能だという訳だ。しかも君は先程本能的に逃げようとしていた。本当に逃げるならば、その能力で俺達を怯ませてその間に逃げることも可能なはず。なのにそんなこともせず、名前まで教えた。それは何故?」
「…ぁ…えっと…」
スマイルのもっもとな質問にたじろぎ、俯いたシャークんは髪を指先でいじりながらポソポソと理由を言い出した。
「お、れ…にんげんに、なり、たくて…」
「…は?」
「でも、むりって、しってる、から…だったらにんげんの、ともだち、ほしいなって…」
「…………」
「に、げなかったのは、びっくりしたの、もあるけど…は、じめてみた、にんげんで、ちょっと…うれしかった、から…」
「…はぁ~…」
「…うぇ?」
問いの答えを聞き、色々な感情が混ざったスマイルはクソデカため息をつきながらシャークんの頭を撫でた。
「ちょ、スマさぁん?なに勝手に頭撫でてんの。僕の許可取ってからにして。」
「うるせー。俺とシャークんは友達だからいいんだよ。あとお前の立場はなんなんだ。」
「…………友達。」
「ちょ、そういうことなら俺も友達だからね?!」
「俺も!」
「俺もだよ!忘れるな!」
スマイルとのやり取りを聞いていた他3人も慌ててシャークんに近づきながらそう言った。人間5人からの友達宣言に驚きながらも、嬉しそうにシャークんは笑った。
「ねぇ、せっかく友達になったんだし、人間になれなくても文字とか、言葉の練習とかする?」
「する!なかむ、ありがと!」
「ヴッ…」
これが、彼らが毎夜人魚と会っている理由である。
~回想終了~
スマイルからの不穏な情報をきんときは鋭い目付きをしながら聞いていた。
「…それってさ、マズイよね」
「あぁ、マズイ。この感じだと確実にシャークんを狙ってる。」
互いに鋭い目付きをしながらどうするべきか考える。このままでは愛しい人が捕まり最悪の場合、闇市あたりで売られてしまう可能性があるからだ。それは絶対に阻止しなければならない。
唸りながらいい案はないかと考えていると事務所の扉が開き、NakamuとBroooockが帰ってきた。
「ただいま~」
「出張疲れた~!」
「…おかえり」
「…お前らも聞いてくれ」
スマイルは展示会で聞いたことを話す。話を聞いているうちに段々とNakamu達の目の光は失くなっていった。彼ら4人に共通している感情は、大切な人が傷つけられるかもしれないという『怒り』だけだった。
「…今日は、早くに海に行くか。」
しかし、今怒りの感情を持ったとしても意味はない。結局のところ、自分たち人間にはシャークんを守れる大きな力は無いのだ、と悔しさを胸に秘めながら、彼らはNakamuの提案に頷いた。
海
きりやんを除いた彼ら4人は、いつも会う時間より大分早くに海に来た。
そこで信じられない光景を目にする。
海に浮かぶ1隻の舟、そこにガタイのいい2人の男が乗って網を引いている。そこまでは別にいい。彼らも『それ』を見るまでは男達をただの漁師だと思っただろう。だが、網の中のものが問題だった。男達が苦戦しながらも引いているものは、
網の中でジタバタと暴れるシャークんだった。
4人は絶句する。舟は今立っている場所から遠いところにあり、あまつさえ海の上だ。助けに行くことが出来ない。行けたとしても、近づいている途中で男達に気付かれる可能性もある。故に下手に近づくことも出来ない。
彼らは絶望した。守れなかったと、助けられないと…
呆然としている故に彼らは気付かなかった。シャークんが男達に向けて歌を歌っていることに。
舟の上では、男達が苦戦しながら網を、シャークんを引っ張っていた。
「クソッ!暴れるな!」
「コイツを売ったらいくらなんだろうなぁ?」
「知らねぇが半分は貰えるって話だ!」
「一生遊んで暮らせるなぁ!」
「~…♪︎…」
「あ?」
1人が、何か聴こえることに気付く。耳をすました男はまともにその音を聞き、フラフラと後退したかと思うと何かに引っ掛かったのかそのまま後ろへ倒れ…海へ落ちた。
「…おい?!」
取り残された男は突然のことに手が緩み、網を離してしまう。解放されたシャークんは、舟の上にいる男の首を掴み、海へと引きずり込んだ。
人魚は歌う。
「I want to see where you die♪︎」
男の口からゴボリと泡が出る。
「Breathing hard and die quickly♪︎」
人魚は白い部分が黒く染まった、反転した目で男を覗き込む。
「While listening to the children’s singing voice♪︎」
緑の鱗をもつ人魚の細い腕を掴んでいた男の手がゆるりと外れ、漂う。
「They will keep singing until your life is exhausted…♪︎」
…男はもう、ピクリとも動かなくなっていた。
一瞬の出来事だった…
海に落ちた男、シャークんに引きずり込まれた男。これが人魚の真の力である。しばらく呆然と空っぽになった舟を見ていると、ポカリ…と何かが海から出てきたことに彼らは気付く。それをよくよく見ると、見覚えのある緑がかった黒色をしていた。
「…シャークん!!」
その黒色がシャークんであると気付いた彼らは必死に海へと入っていく。シャークんもゆっくりと彼らに近づいていく。
彼らの側に来たシャークんは飛び出すように近くにいたきんときに抱き付き、突然のことに対応できなかったきんときはしりもちをつく。
「わっ?!」
「…キュー!キィ、キィ!キー!」
「…怖かったね、もう大丈夫だよ。」
やはり捕まっていたことは恐怖だったのか、シャークんは金切り声のような音の海語で叫び、きんときはシャークんの背中を撫でて慰めていた。もう、目は元に戻っていた。
慰められて落ち着いたシャークんと彼らは、特に何をするでもなくボーッとムーンロードを眺めていた。
「…おーい!」
「…ん?あれ、やんさん?」
しばらくそうしていると、耳のいいBroooockがきりやんの声を聞き、聞こえた方向へ顔を向けると他4人もそちらへ顔を向けた。きりやんは走ってこちらへ向かってきていた。
「ハァ、ハァ…やっぱりここにいた…きんときの事務所行ったら誰もいねぇからさ、驚いたよ…」
そう言いながら息を整えたきりやんは、いつも着ている白衣の内ポケットをあさり、何かを取り出すとシャークんの目の前に掲げた。
「そして俺はシャークんにプレゼント!」
「プレゼント…?」
「そう!これはね…人間化する薬!」
「………え?!」
少し理解に時間のかかったシャークんは1拍おいて驚きの声を上げる。だって、あまりにも信じられない話だったから。そんな夢のようなものが存在するのか、と。どういうことだとスマイルは問い、きりやんは答える。
曰く、きりやんが倉庫の片付けをしていたときに古い文献が出てきたのだという。それは、きりやんの先祖が書き記した薬の調合法が書かれていた。なんでも、その先祖の友人が人魚に恋をしたとかで人間化する薬を作ってくれと頼まれた先祖が悪戦苦闘しながらも作りあげたものだった。その文献の右下に、きりやんの勤める薬屋のシンボルマークである可愛らしいレッサーパンダが描かれていることから、この調合法は成功したのだろうということが伺えた。なのでそれを作ってきたのだときりやんは言った。
「ねぇ、シャークん。今君がそれを飲んだらそのときから人間になる。…人間になるってことはその日から海を捨てなきゃならないってことだ。それでもいいなら飲んで、嫌なら飲まないでいい。選択は君の手にある。」
きりやんが確認するように言ったが、シャークんの心は決まっていた。なぜなら長年の夢だったからである。
「俺は…人間になりたい!」
人魚は生まれ故郷の海を捨て、大好きな人間たちと地を歩くことを決断した。
人魚はもう、悲しみにくれた歌を歌う必要は無くなった。
月が、これからの暖かい未来へ進む彼らを優しく照らす。
~fin~
お疲れさまでした…
ながぁい!長すぎる!なんでこんな長いんや文章能力皆無か??
あとBL要素どこ…ここ…?無いよそんなもの…
これはひどい…もっと練習します…
それでは次のお話で。バイバイ(・ω・)ノシ