テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「すみません、まだいけますか」
「あ、はい、大丈夫です! どうぞ」
お店へ食事に来てくれたお客様だった。
お水を持って行き、メニューを手渡した。閉店準備をしていたものだから、案内したテーブルの上にはなにも載っていない。しまったことをした。いい加減な店だと思われたことだろう。やっぱりちゃんと時間までは開けておかなきゃ!
「まだ時間ありますから、ゆっくり選んでくださいね」
声をかけると、にこ、っと目の前の男性が笑ってくれた。年配ならともかく、若くスーツ姿のお客様は珍しい。
「久々に日本に戻りまして。和食がいいのですが、おすすめはありますか?」
スーツの彼が私に尋ねた。モデルのような整った顔立ちと自信に満ちた雰囲気。目鼻立ちははっきりとしており、瞳の色はやや明るめのダークブラウン。目元には少しだけ笑いジワがあり、それが親しみやすさを加えている。鼻筋はまっすぐで、顎のラインもシャープだ。笑顔を見せてくれた時、ちょっとえくぼがあった。
うちの店には珍しいイケメンの登場。
「では、煮魚定食はいかがでしょうか。おいしいですよ」
「いいですね。では、それをいただきましょう。あと、だし巻き玉子きを付けてください」
「かしこまりました」
冷蔵庫に片づけていた煮魚を取り出し、鍋にかけて温めた。ジャーのご飯はまだ温かいので、そのまま利用する。お味噌汁を1人前温め、サラダを盛り付けると定食が完成だ。
食堂なので、本来ならセルフサービスでカウンターまで出来上がった料理を取りに来てもらうスタイルだけれども、多分この方は初めてうちの店を使っただろうから、私が持って行こうとしたら…なんと、取りに来てくれた!
「あれ……うちの店のシステム、ご存じでしたか?」
「ああ。よく知っているよ」
急に敬語をなくしてにっこり笑われた。えっ……常連様にこんなカッコいい人いたっけ?
「もう、高梨さん、まだわからない? 俺だよ。水島敬(みずしまけい)。忘れちゃった?」
「うそっ……水島君なの!?」
水島君は高校の時の同級生だ。学級委員を一緒にやって、気合を入れていた合唱コンクールで金賞獲るために放課後練習をクラス一丸となって頑張ったんだ。懐かしいなぁ。
「高梨さん変わっていないね」
笑うとえくぼができる……あ、やっぱり水島君だ。
「変わったよぉ、もう27歳だよ?」
「いや、変わってない……ううん、変わったかな」
「どっちよ」
「綺麗になった」
「もう、からかわないで!」
こんなこと言う人だったかな!?
大人しい印象しかなかった人なのに…水島君の方こそかっこよくなって変わったよ!
「冗談じゃないんだけど」
「せっかくのご飯が冷めちゃうから、早く席に持って行ってね。玉子焼きは運ぶから」
「オーケー」
英語の発音が綺麗だ。海外に長くいた証拠だと思った。彼は高校卒業後、どうしていたのかな。10年ぶりくらいになるのかな。
手早く玉子焼きを作って持って行った。
「あぁ~日本食最高! うまいッ」
「ふふ、ありがとう」
「高梨さんの玉子焼きもおいしいから、俺、ずっと食べたかったんだ。弁当で分けてもらったのが忘れられなくて、高校生の時は時々折り紙にわざわざ食べに来てたんだよ」
「知ってる。売り上げ貢献ってよく店に来てくれたよね」
「そうそう、懐かしいな」
目元や口元は当時のままなのに、どうしてこうも大人の色香を纏っているのか。ひたすら食堂で仕事ばかりしてきた私にとっては、水島君も睦月君も、信じられないくらいキラキラしている。
「玉子、ちょうだい」
「どうぞ」
水島君は早速玉子焼きに箸を伸ばした。早速口の中にアツアツの物体を綺麗に一口サイズに分けて放り込む。「ん、やっぱうまい」
「ありがとう」
「高梨さんって料理うまいよね。あ、本職の人に言うことじゃなかったね、ごめん」
「あははっ、ありがとう」
飾り気のない同級生の何気ないひとことが、やけにツボに入った。褒めてくれたのは純粋に嬉しい。
「水島君は今、どうしているの?」
「商社に勤めているんだ。フジノ商事って知ってる? あそこの海外事業部で頑張っていたんだけれども、日本食が恋しくなって帰ってきたの」
「そんな理由で……!」
私が驚いた顔をすると、水島君はくすっと笑った。小さなえくぼができる。
彼のチャームポイントだ。
「食って大事だよ。半分冗談だけれども、俺は海外で日本食が恋しかったから、できれば海外で日本食を広めたいと思っているんだ。今、会社が推進しているプロジェクトが軌道に乗れば、また海外に戻ることになる」
「へえ……すごいね」
小さな定食屋でご飯を作ることしかしてこなかった私にとって、水島君の話がとてつもなく壮大な計画に思えた。「水島君や会社のプロジェクトがうまくいくといいね。頑張って!」
「うん、ありがとう」
同級生が世界で活躍するなんてすごいなぁ。応援したい!
#恋愛
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!