テラーノベル
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「それにしても定食うまい。しばらく寮からの勤務だし、夕飯食べに毎日通おうかな」
「あ…とてもありがたいけれど、今、ちょっと変な人たちがお店を荒らしに来ているから、絡まれたらやっかいだし、あまり来ない方がいいと思う」
「ふうん。俺は気にしないけど」
「チンピラみたいな人たちだから、危ないよ」
「平気平気」
その時だ。カラカラと扉が開いた。睦月君だ。スマートフォンを持っているから、電話終わったのかな。
「いらっしゃいませ」
睦月君は水島君に向かってにこやかに笑った。「佑里香さん、彼は? さっきまでいらっしゃらなかったけれど」
ふあっ……! 呼び名が先生から佑里香さんになってるっ……!
確かに他人様がいるところで『先生』呼びはおかしいと思うけれどっ。
なんだかそれだけでドキドキしてしまうよ。
「あ、うん。えっと……彼は、私の高校の時の同級生なの。水島敬君」
「どうも、水島さん、初めまして。僕は佑里香さんの【夫】で天川睦月と言います。宜しくお願い致します」
ヒエッ。
わざわざ【夫】ということを強調してっ……!
どうしてなの睦月君。あまり人に言いふらさない方が、離婚した時の傷が浅く済むと思っているのに……。
「あれ……高梨さん、結婚…してたの?」
「あ、うん。なんか、昨日…彼と、結婚したばかりで……」
「昨日!?」
水島君が驚いた声を出した。ちょっと唇をかみしめ、動揺を押さえるようにして言った。「へえ、そうなんだ」
彼はチラ、と睦月君を見た。そして私の薬指に視線を注ぐ。「指輪、してないんだ?」
「あ、えっと……いい指輪をもらったんだけれども、お店で着けるには向いてなくて……」
しどろもどろに言い訳した。昨日もらった指輪は、大粒のダイヤモンドが付いた結婚指輪。恐れ多くてお店では付けられない。洗い物とかしているうちに宝石がポロっと取れたらシャレにならないし。パフォーマンスで使うだけで、離婚の際に返上してって言われるかもしれないから、傷つけたりしないようにしなきゃと思ってリングケースにしまっている。
「佑里香さん、明日にでも指輪見に行こう。毎日着ける用の指輪も必要だったね。考えが至らなくてごめん」
睦月君がそっと私の左手を取ってくれた。「気に入ったやつ、お揃いで買おうね。僕のものだってアピールできるものにしよう」
ふわぁっ……!
イケメンの笑顔の破壊力ったらない~~!
睦月君、ほんとになんで…いったいいつ、どうやってこんなにかっこよくなっちゃったのぉぉっ!
ひとりで焦ってしまう。
「そっか昨日か……もう少し早く帰ってたらなぁ……残念!」
水島君はため息をつきながら玉子焼きを頬張った。「やっぱ君が焼いてくれた玉子焼きはうまいな」
「ありがとう」
そしてなんなのこの空気ッ……!
すごくピリピリしているんだけど。
肌に突き刺さるような冷ややかな空気が私たちの近くで流れた。
どうしてこんな空気になってしまうの……!
「閉店時間も変わったんだね。覚えておくよ。また明日も来るから」
店内に貼り出してある営業時間を確認し、お会計を済ませた水島君は帰っていった。
「先生、彼は同級生って言ってたけれど、随分親しそうだね」
少し棘のある言い方で睦月君が言った。彼がこんな風にツンとするのは珍しい。
「あー……うん。高校の時に同じクラスになって、学級委員を一緒にやったことがあるの。合唱コンクールで金賞獲るのに必死になって練習したり、いろいろやったから。仕事で海外から帰って来たんだって。ふふっ、同級生がお店に来てくれるなんて嬉しい。懐かしいなぁ」
「そっか。なんか、仲がいいから……心配!」
「心配なんかしなくてもいいよ。今、睦月君と結婚していることは伝えたし、水島君だってあんなにかっこよくなったんだから、付き合っている人や結婚している人がいるかもしれないし」
「んー……先生はわかってない! ね、明日時間ある?」
「折り紙(おみせ)があるよ」
「開店前の1時間くらいなんとかならない? デパートは10時から開くから、速攻で買いに行こう」
「なにを?」
「やだなあ、先生。さっきあの男に言われたよね、結婚指輪してないのか、って。お店でも着けられる指輪、買おう」
「エエッ、そんな、いいよ! ひとつもらったからふたつもなんて……」
「先生が欲しいって言うなら、10個でも100個でも買ってあげるよ」
「ひ、ひとつで十分だから……」
「ひとつじゃだめだよ。ちゃんと着けて欲しいから。それにしてもあの男、ぜったい先生に気があるよ! ていうか、まだ諦めてなかったんだ…しつこいヤツ」
「え? まだ諦めてないってどういうこと?」
睦月君は水島君のことを知っているのかな?
会ったことないよね……。でも、水島君が高校生の時によくお店に食べに来てくれていたから、折り紙で見かけたのかな。
#恋愛
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