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朝、目が覚めて感じる体温。それをしっかり抱えてベッドから降りるも、そのたった1人分の温もりは、冬の寒さに溶けて消えた。
流す音楽は、俺が唯一愛したあの男がよく聞いていたラブソング。歌詞も全く覚えていないけど、常日頃からずーっと隣で流されていたから、俺も頭から離れなくなってしまった。気づいたら鼻歌で歌っていたこともあった。
…………
静かだなぁ。いつもなら口喧嘩や世間話が飛び交っていたのに。
任務中に響く銃声も笑い声も、今は1人分だけ。静かな現場で交わす言葉もなくなってしまった。
家に帰って「ただいま」と言っても、いつものような明るい「おかえり」が帰ってこない。玄関に漂ってくる美味しいご飯の匂いもしない。誰も居ないんだから当たり前だ。
竜胆が音信不通になってから約1年が経つ。
今、竜胆がどこで何をしているのか、生きてるのか死んでるのかも分からない。1年前のあの日から、急に姿を消してしまった。
その日、竜胆は遠征の任務が入っていて、1週間ほど帰らない予定だった。普段から常に竜胆と一緒にいる俺は、突然静かになった自分の部屋に居心地の悪さを感じた。1週間待てばまたいつも通りの日常が戻ってくる。そう思って待ち望んだ竜胆の帰宅。それは今だいつ叶うのかも分からぬままだ。
2人でいつもくっついて寝てたセミダブルベットは、広すぎるくらいに余裕がある。
毎日騒がしかった部屋も、音楽を流してないと落ち着かないくらい静か。
朝ごはんもたった1人分。
隣に歩く姿も今は影すらない。
毎日見る半身の刺青に、もう片割れの彼がいない事実を突きつけられて孤独を感じる。
何度か探しに行こうとした事がある。でも止められた。ココに。行くあてもないのに無茶だと。そんなの分かってる。この広い日本……下手したら世界のどこかに居るたった1人を探すなんて、無謀すぎるのは分かってる。でも俺が耐えられない。もしかしたら家に帰れない竜胆が泣いているかもしれない。不安に押しつぶされそうになりながら、俺が探しに来るのを待っているかもしれない。迷子になった幼子のように、「兄ちゃん兄ちゃん」と助けを求める竜胆が目に浮かぶ。いても立ってもいられなかった。
もしかしたら、俺が竜胆を求めているのかもしれない。いつも起こしてくれる人が、甘えてくる人が、一緒に寝る人が、隣を歩いてくれる人がいない。そんな現実に寂しさが募った。今まで2人で1つだった分、1人になると怖くなるものも沢山ある。それはきっと竜胆も同じだろう。やっぱり俺らは2人揃わないと何も出来なくなる未熟な大人なんだ。
心の隅でたまに思ってしまう。もうどこかで死んでしまったのではないかと。その度に、そんなこと有り得ない。絶対にない。俺の弟なんだからと自分に言い聞かせる。竜胆だって頑張って待ってくれているんだ。俺が何もしてないでどうするんだ。
いつか兄ちゃんが必ず迎えに行ってやる。
その時はいっぱい、いーっぱい抱きしめて、頭を撫でて、たくさん喋って、思う存分甘やかしてやる。2人だけの時間も多くして、できるだけ竜胆が幸せであれるように。
そして、もう二度と離れ離れにならないように、ずっと俺が守ってやるんだ。
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……蘭は大丈夫だろうか。
1人事務作業をこなしながらふと思う。約1年前のあの日から、ずっと一緒だった竜胆が消えて気が持てないんじゃないのか心配になる。
今はまだ良くなった方だ。最初の頃なんか部屋にこもって出てこないし、普段甘ったるい笑顔しか見せないアイツが涙を流してた。しかも三途の前で。まるで豹変してたよアイツは。
急にアジトから出ていこうとするからなんだと思って止めれば、「竜胆を探しに行く」って。何度止めても行こうとする。竜胆のためなら危ないことまでやりそうだった。だからあえて行かせないようにした。
どちらかと言うと、もう竜胆の所へは行けないんだ。だから俺は勘違いしていた。探しに行くと言って後を追ってしまうと思っていた。
……なんで死んだんだよ。竜胆。
蘭が変わった全ての元凶がこれだ。理由は自分でも分かる。裏切り。
意図的に裏切った訳では無い。竜胆が信頼してた部下に情報を伝えたら、そこから漏れ出て流出してしまったらしい。その情報が出てしまったことによって何か緊急事態が起きるわけでもなく、相手をスクラップにすればすむ話なのだが、結果的に竜胆に責任が問われ、首領命令で殺す事になってしまった。
勿論、蘭は猛反対。嘆き叫んで何度も何度も首領に土下座して。三途が無理やり引き剥がそうとしても、長い四肢をじたばたと暴れさせて、いつも小綺麗にセットされてる髪もぐしゃぐしゃに乱して抵抗する。そこにいつものキドった蘭はいなかった。それでもここは反社。そんなことで許されるような甘い場所じゃない。
最後の最後に竜胆は「蘭に殺してほしい」と頼んだ。その時の蘭はもう暴れる体力も尽きていた。
………………
竜胆:「兄ちゃん、頼む。俺は兄ちゃんに殺されたい。最後は兄ちゃんとがいい。」
蘭:「……やだ、よ。竜胆、そんな訳ないよな?こんな所で終わるやつじゃ無かったよな?」
竜胆:「兄ちゃん……」
蘭の耳には竜胆の言葉が入っていない。
蘭:「大丈夫だよ竜胆。兄ちゃんが何とかしてやるから。助けてやるから。だからどこにも行かないで。」
竜胆:「ねぇ……」
蘭:「お願いだよ。兄ちゃん…竜胆がいないと何も出来ないんだよ……そばにいて。一生のおねg」
竜胆:「兄ちゃん!!!!!!!」
突然、竜胆が怒鳴る。蘭も、その周りの俺達もみんなビクリと肩を震わした。
竜胆:「…………もういいんだって。」
涙を一筋、綺麗に流す。それとは裏腹に蘭はただ呆然とした顔で竜胆を見ている。
竜胆:「頼むから早く殺してよ……。怖くなるじゃん。」
蘭:「嫌……だって」
竜胆:「早く!!!!!!!!!!!!!!!」
涙を散らして、バッと勢いよく顔を上げた竜胆。蘭の胸に銃を押し付けて
「撃てよ!!!!!!!早く!!!!!!!」
と蘭を急かす。蘭は竜胆とおなじ綺麗な涙を、ポツリポツリと一筋ずつ零す。
蘭:「……分かったよ……殺してやるよ俺が。竜胆の頼みなら……グスッ、兄ちゃん、に、グスッまかせろなニコッ」
蘭:「…………愛してるっ!」
パァン!!!!!!!
鮮血が花火のように舞い散り、目の前の竜胆が力なく倒れた。即死。蘭が竜胆を思っての最後の結団だっただろう。苦しまないように。楽に死ねるようにと、竜胆の頭を貫通させた。
蘭:「……っあ、あ、ああぁっ、うっあぁああぁああぁあぁあぁああぁぁああぁあぁあア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙っ!」
「竜胆!!!!!!!りんどう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!りんどぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「嘘だっ!!!!!!!目を覚ませ竜胆!!!!!!!!!頼むから目ェ開けてくれ!!!!!!!!!!!!!っ……なんで、ゔぅゔゔゔっあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
蘭の号哭がアジトに響き渡る。聞いたこともない大きく感情的な声。目からとめどなく溢れる涙は気づいてすらいないようで、腕の中の竜胆以外、その他のものは黒く塗りつぶされたように、何も写っていなかった。
………………………………………………………
その後の蘭は俺たちじゃどうにもならないくらい落ちぶれていた。丸一日経つくらいはずっと竜胆を離さなくて、口を開けば「竜胆」の2文字しかない。声も届いていなかった。
三途の睡眠薬を無理やり突っ込んで落ち着かせて、竜胆の死体処理もその間に済ませて、蘭が目覚めた頃には何事も無かったかのように元通りになっていた。
おかしくなったのはその次の日から。急に「竜胆はまだ帰ってこないの?」と言い出すから、やっぱりショックが強すぎて錯覚を起こしてるんだと思った。
でも違う。蘭の記憶が根こそぎ変わっている。竜胆は遠征の任務から帰ってこない事になっていた。何でかは分からない。
いまでも蘭は竜胆が帰ってくると信じている。このまま一生帰りを待ち続けるしかないのだろうか。毎日寂しそうな蘭を見て心が痛い。自分の腕の中で死んだなんて微塵も知らないのだ。
今日も探しに行こうとする蘭を止めて、任務に出かける。竜胆、お前の兄ちゃん、まだ元気だよ。だからよ……1回だけでもアイツの前に出てきてやれよ。
お前の口からちゃんと言ってやれよ。
あとがき
どうしてもこーゆー死ネタを書いてみたかった主です。
最後の方力尽きて雑になってる。(おい)
死ネタ大好き人間だからストックがいっぱいなんだよね。そしてそのほとんどが灰谷兄弟という。
……なんかリクエストあったらそのキャラの死ネタ書くんでコメントで言ってください。全員書く(と思う)
それではまた