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最後にシャンディに案内をされたのは、ガフ領の共同墓地だった。
「大きいな。王都の共同墓地は広いと思っていたが、ここはそれ以上だ」
思わず感嘆の声を上げる。
芝に覆われた、なだらか丘に見渡す限り墓石が並んでいる。
明るく美しい場所。
でも、これだけの多くの人が戦争で亡くなっている事実を改めて突きつけられる。
「綺麗でしょう。ここは騎士団が管理しているの。この区域は騎士だった方達のお墓よ」
シャンディが静かに答えてくれる。
初夏の優しい風が墓地に吹き抜けていく。
「あれは?」
共同墓地の隅に何本かの木が植えられ、その横に木のテーブルと椅子が置いてあるのが見えた。
「あれは以前、わたしが作ったの。ガゼボを作りたかったんだけど、わたしではあれが限界。ヘタクソだからあえて案内はしないわ」
シャンディは懐かしいものを見るかのような目で遠くにある木のテーブルと椅子を見る。
俺は無意識のうちにそれに向かって走っていた。
あの時、シャンディが泣き笑いしながら、私が来るまでにガゼボを作っておくと言ってたこと。
次はどんな作戦を立てますか?とボロボロと涙を流しながら、笑っていたこと。
昨日のことのように思い出せるその場面。
そして、切なく胸が締めつけられる。
シャンディ、貴女は約束を守ってくれていたんだ。
貴女の心の中に私は少しでもいたんだ。
それだけで泣きそうになった。
そっと、テーブルを撫でる。
俺は来たよ。
「クリス、突然どうしたんですか?」
急に駆け出した私を追って、シャンディが息を切らしながら私を追ってきた。
シャンディの手を掴み、俺の胸に引き寄せる。
この優しい柔らかさ。温もり。
そして、俺の腕に包まれる小さな貴女。
一度だけ知っているこの感覚が懐かしい。
「クリス?」
「シャンディ、申し訳ありません。少し昔のことを思い出して、胸が締めつけられそうです。しばらくこのままでいいですか?」
シャンディが俺の腕の中で小さく頷いてくれた。
きっとシャンディは、俺が昔に亡くした人のことを思い出して、胸が締めつけられたんだろうと勘違いしているだろう。
いまはそれでいい。
いつか、このテーブルで未来の作戦を一緒に立てよう。
♢
翌日、騎士団の全員が集められて、クリスが持ち込んだ話を団長から聞かされることとなった。
近いうちに隣国マッキノンが攻めてくること。そして、その隙に隣国マッキノンの皇太子カーディナルがクーデターを起こし、現王から政権を奪うこと。彼が政権を握れば、平和条約を締結させる準備があること。
我がガフ領は、これがすべて本当なら最後の戦いになること。
誰もが信じられないと言った顔で団長の話に聞き入っていた。
誰もこんな話を信じないとあらかじめ予想されていたんだろう。
書簡が用意されていた。
その披露された書簡を見て、誰もが納得せざるを得ない状況だった。
隣国マッキノンの皇太子カーディナルからガフ領主に宛てた信書。
それには団長の話と一緒のことが書いてあった。
それを目の前で見せられたのだから、納得するしかない。
信書を披露するという手段はみんなを納得させる上で大変有効な方法だった。
「シャン、大変なことになったな」
わたしの隣で話を聞いていたラスティが小さな声で話しかけてくる。
「ねぇ、ラスティ。貴方はクリスのことをどこまで知っていたの?あの日の晩、わたしが着替えている間になにがあったの?」
「俺はただクリスに書簡を見せられて、領主様と団長に取り次を頼まれただけだ」
「そうなの?」
「そうだよ」
ラスティが困ったように笑った。
「これが最後の戦いになると信じたいな」
「ええ。これが本当に最後ならいいのに」
隣国マッキノンが攻めてくるのに、そう時間はない。
騎士団は戦いに備え、一気に慌ただしくなった。
領民達には、小麦の収穫を急ぐように伝達された。