⚠︎︎ご本人様には一切関係ありません。
なんでも許せる人向け
リーマンパロ×ホストパロ
zm syp . syp zm
*zm視点
「はあ、やっと終わった」
そう切り替えるように口にすれば、んーっと固まりきった身体を伸ばす。一気に緊張感が引き、その代わりになんとも言えない気持ち良さが迫り上がって来てその感覚が堪らない。ふと時計に目をやれば短い針は11時を指していた。おそ。…とかもう慣れてもうたわ。11時ならまだ良い方。普段はその針がもう少し右へと回っていたり、会社で夜を迎え会社で朝を迎えたりする事もある。そこまで大きい会社でも無いし小さい会社でもない。特に変わった事も無い普通の会社、…いや社員をここまで働かせている会社は普通と言えるのかどうか。所謂ブラック、所謂社畜。最悪の噛み合わせで負のループから中々抜け出せない。最近はもう抜け出そうとしているのかすら怪しい。…まあ、なんだ、家に帰ったとて待ってくれている恋人もペットも居ないわけだし、大人しく会社と添い遂げれば良いのかもしれないが。さ、帰るかと自分の鞄を肩にかけては重い腰を上げそそくさと会社を後にした。 長時間パソコンのブルーライトにあてられていたからかシパシパと違和感のある目も慣れきった。 定時退社、なんてできたのは最初の数ヶ月やったな…良いんやけど。こんな時間に腕をくんで歩いているカップルであろう男女も皮肉のように見え、ハイハイ俺は会社が恋人ですよ。…とでも溜息をついた。機会が無い訳では無いし、その、童貞でもない。ただ今は仕事に専念すると決めたからであって……自分で決めた事なら自業自得か。誰に説明するわけでもない言い訳を心の中へ丸めては鮮やかな街の照明に照らされながら帰路を進んだ。 居酒屋だったり、ゲームセンターだったり。前者には良い思い出が無いがそれなりには楽しいんだと思う。が、飲み会に誘われたら断る事も出来ない。本当なら断りたいものだが人間関係というものがあって。それは絶対崩してはいけなくて。…とはいえ、心を開いて話せる仲間は数人程居る。会社において友達なんて生温い言葉を使って良いのかは分からないが、とにかく仲間という言葉がよく似合う。… いや、にしても暇やな。今まで日跨いでから帰るのが普通やったから逆に暇に感じてきた。多少ゆっくり帰っても明日の仕事には響かへんかな…あ、明日一週間ぶりの休みやった。幾らブラックでも一日ぐらい休みはある。まだ序の口なんかなここ。……でもこうさ、それぞれの店をジックリ見てみると全部魅力的に見えるよな。こんな時間までスーツで目の下にクマを作っている自分がアホらしい。まあ、割と誰が酔い潰れて倒れていても気にせず通行する街だ、俺一人がどんな様子でも気にする事は無いだろう。
すると、大きな看板が目に飛び込んでくる。もう外はすっかり暗かったが目が痛くなるほどに光るネオンライト等の影響でハッキリと見えた。そこには眼鏡をかけた男の顔がでかでかと。片目が丸々隠されており、そちらまで眼鏡をする必要があるのかどうか。いや半分に割る訳にもいかないだろうから、…不便そうやなあ。名前ぐらい載せてあるだろうとチラリとすぐ横を見てみれば顔の端にこれまたデカデカと名前?らしきものが書かれていた。
“鬱”
…ほんまなんやって。そう書いとるままを読んだだけ。気持ちは分かる、どう考えても商業向きの名前では無い。本名だった場合は悪いんだが、ってそれは無いか。にしても何故このチョイス?鬱なん?と次々に疑問が浮かぶ。普段ここを通る時は全く気付かなかったのに、今思えば無駄なキメ顔がムカつく。…で、なんの店なのか。大体予想はつくが。進行方向を変えその店の方へと少し近付いてみればライトに照らされた何やら…英語を読んでみる。
“protagonist” …?
比較的読みやすそうではあったが、そのままローマ字読みしてみると“プロタゴニスタ”となる。如何にもホストクラブです!って言いたげな外装と雰囲気だったが、名前を聞いてもピンと来ない。なんかの英語なんやろなーとだけ、パッと出るほど英語詳しくないし。ついボーッと看板を見上げていれば何やら視界の端で動きが加わる。ハッとしてそっちに視線を降ろせば大きな扉が開かれている、と共に中から男の姿が見えた。かと思えば_
「いらっしゃい!!!!」
大きく耳に響く声。…ホラ、周りの人もビクッてなっとる。ちょっとは声量を考えて欲しいものだが、無邪気な子供のような笑顔を目にすればウグ…と何も言えなくなる。流石はホスト、遠くから見ても顔立ちの良さが分かる。おまけに身長だって高い。世の女性からしたら身長はおまけじゃないんだろうが。カツカツと踵を鳴らしてこちらに近付いて来る男に釘付けになっていれば、あっという間に傍まで距離を詰められていた。近い…よな?
「店の前で立っとるのに中々入らへんとかシャイやなあ!」
そうか、そうやな。そりゃあ店内に用があると思われるわな、いや分かるけど。シャイなんて…シャイなんて!
「シャイじゃないですし、立ち止まってもうただけなんで。 」
「あーそうなんかい、まあなんでもええから来いよ!男の人でも大歓迎やで! 」
とりあえず誤解を生んだままでは困るのですかさず立ち止まっただけだと伝えるもこの様だ。男の人でも大歓迎…って。俺そんな趣味無いしな。否定するつもりは無いけれど、自分が当事者になるのは気が引ける。小さい頃から恋愛対象はいつだって異性だった。あまりに迫られるのも嫌なので簡潔に断ればその場を離れようとする。
「遠慮しときますわ、有難いですけど」
「ええてええて!来いよ、な!楽しいでほんま!」
更には腕まで掴まれ、まるで宗教勧誘のようにしつこく店内へと勧められる。離れる事も敵わなかった。甘ったるい空気の中へ会社員がぶち込まれるのは勘弁なんだ、ここはどうか切り抜けたい。一応、と意識していた敬語もつい外してしまい腕から離れようと試みた。
「いや、ちょ離して!?行かへんて!!」
「待ってくれ!もーちょい稼いどきたいねん!」
もーちょい稼いどきたいちゃうわ!もう何やねん、コイツ…。だから執拗に男の自分を誘っていたのか。確かに自分は興味を持たれるほど良い容姿を持ち合わせてはおらず、ただの会社員といった印象だろうな。彼の言い方から所詮色恋営業、金を稼ぐ手段でしかないという事が嫌でも理解出来る。嫌でも…というか。ホストクラブに数千万貢いで借金、なんてどこぞのニュース番組で数十回で聞かんぐらい聞いた。もう、数千万っていう当たり前のような単位が恐怖極まりない。
それからも彼は“来い”の一点張り。俺もプライドぐらいあるからな、“行かへん”の一点張り。お互い一歩も譲らずにやいやいと言い合うばかり。にしても外で騒いでて良いのだろうか、この人は。確か指名が入ったりするんだろう。文句のつけ所もない顔を持っているわけだし、それなりに人気もあるのではないか。何かと稼ぎたがっている様子だが。
「なんの騒ぎですか」
不意に彼の背後から声が聞こえ、シンと一気に空気が静まる。それからすぐに金髪の男が沈黙を掻っ攫うと、
「ショッピィ!コイツが中々店入ってくれへんねん!」
相変わらず大きな声量で駄々をこねる子供のような言い方をする。それに比べて落ち着いた様子の彼が自分達に近付くと、徐々に姿がハッキリと目に映る。癖のついた茶髪、でも決して大袈裟な癖でも無く丁度良いくらいの癖。少し重めの前髪のすぐ下にはどこか気だるげそうな目元が顕になっている。身長こそ物凄く高いとは言いきれないものの、それは金髪の彼と並んでいるせいなのかもしれない。いや、下手したら俺よりちっさいかも。
「無理矢理連れ込むのは駄目っすよ」
呆れたような口調で溜息をついたかと思えば、いつの間にか手元にある煙草に火を付けようとライターの上部分を親指で押し込む彼。恐らく吸いに外へ出るついでに様子を見に来たのだろうな。…生憎自分は非喫煙者で、煙草も得意では無い為二人が話している隙に少しだけ距離を取る。赤く光る先端から放出される煙が上へと上がっていく様子を見ながらいつこの場を離れようかと機会を窺う。すぐ離れてしまっても良いのは分かっているが、空気というものを気にしてしまう。話を遮ってさっさと通り過ぎるのも失礼に当たるだろう。てか感じ悪い。
「すみません、うちのコネシマ先輩が。」
ペコリ、と小さく丁寧な会釈をしながらこちらを見詰める彼。コネシマ先輩と呼ばれたのはきっと金髪の男だろうな、様子からして先輩後輩の関係らしい。妙に落ち着いた後輩とうるさい先輩、アンバランスなコンビに少し呆れる。後輩の方の名前はなんやっけ、さっき言うてたような_
「なんやねん、ショッピの癖に」
「なんすか、ショッピの癖にて」
そうそう、ショッピやった。というか今思えばこの二人の漫才芸人のようなやり取りも中々面白い。流石関西。こんなヤツらでも営業するだとか考え難いな、指名を貰ったりせるのだろうか。コネシマも鬱?も、そしてショッピも。
「シッマ!お前どこおんねんコラ、はよ戻れ指名やぞ!」
いきなり店内からの怒号がこちらまで聞こえて来てビクッと反応してしまう。ここの奴らは全員声がデカイのか、これも流石関西…で片付けられるかどうか。
「げ、大先生。…まあええけど。」
分かりやすくしょげた表情を浮かべながら正に渋々といった様子で店内へと戻るコネシマ。“大先生”とやらに呼ばれたらしい、駆け足で向かいながらペコペコと軽くお辞儀するのが見える。コネシマは行った事だし、あとはショッピに一声かけて帰るか。
「良かったら来てくださいよ、これ俺の名刺なんで。」
かと思えば、誘いと共に名刺を差し出される。律儀だなあと思う反面、結局稼ぎはしたいんだなとも思う。これぞ色恋営業。入店したお客様を口説いた後たっぷり金を出して貰うと聞いた事がある。こんな営業スマイルの裏にこんな魂胆が隠れているなんて…とまあ、職業柄それが普通なんだろうけど。人間とは恐ろしい二面性を持っているものだな、これじゃほぼロマンス詐欺…いや、違うんやろうきっと。 ホストに名刺を出すのもおかしいが、職業の事もあり反射的に自分も名刺を取り出すとショッピに手渡しながら相手の名刺も受け取った。所謂名刺交換だな。…ショッピ、って愛称じゃなかったのか、偽名の可能性もあるけれどそれにしても変わった名前。
「わざわざありがとうございます、“ゾム”…って変わった名前。」
「それならショッピさんも 」
まさか同じ事を考えていたとは。二人して視線を交わした後可笑しくなり ふふ、と笑い合った。なんだ、こんな話も出来るのか。
「じゃあ、ワ…俺そろそろ戻らんと。またのご来店をお待ちしております。」
煙草の吸殻を地面に投げ捨て、はせずに摘んだまま店の方へと戻っていくショッピ。流石はホスト、話をまとめて切り上げるのがとても上手い。決まり言葉まで使われてしまったな…“またの”ご来店をって、今のもご来店にカウントされてしまったのか。それとも今後来て欲しいという意味なのか。どっちにしろ店へ勧誘しているのは変わらない。けど不思議と嫌な気はしないな、そう俺もその場を離れた。
自宅…まあアパートに着けば一段一段と階段を踏んだ後自室のドアノブに鍵を差し込んだ。慣れきった手つきで扉を開くと早々靴を脱ぎ、そのままソファにダイブする。会社と同じよう大きく伸びては、んんと声を漏らす。やっと休める、明日も休みだ。暫く伸びてから再度渡された名刺を見てみる。ほんの少し厚めの黒い紙に金色で彫られた字、ご丁寧に店の電話番号も付いている。
正直、ああいうキラキラとした接客業に憧れないこともない。馬車馬のように働いているとあっちの方が楽だとか考えてしまう。が、各テーブルの間を行き来するのはかなり苦らしい。卓の女性を口説いて回るようなもの、…益々入店するのは気が引ける。幾らこのご時世だからなんたらだとか言っても、自分のような男が綺麗な男に口説かれ、訳も分からないまま貢ぐは御免だ。けど、正反対の職業に少し興味が湧いた。是非どんなものか見せて貰おうじゃないか、ホストとやらは何なのかを。明日また行ってみようと心に決め、疲れからすっかり重たくなった瞼をゆっくり閉じた。
コメント
2件
初 コメ & フ ォ ロ ー 失礼 します ! ! 表現 の 仕方 と 言葉 選び が 、ま っ っ じ で 最高 です ド タイプ です ッ ! ! ! ガチ の 小説 出せる くらい の 才能 じ ゃ ない です か っ ! ! ? ? 続き 楽しみ に して います っ ! !