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弟が生まれてからずっと自分の傍に置いていた。弟が森へ出掛けても家の中に居てもずっと一緒だった。弟もまた自分を求め舌っ足らずでも自分の名前を呼んだ。
「てお〜!!!」
「はいはい、今行くよ〜」
それが何よりも幸せだった。だが弟が3歳の時、私はホグワーツへと入学した。ホグワーツは寮学校なので長期休暇まで弟と顔を合わすことも無く過ごした。可愛い可愛い弟を想いながら1人寂しく過ごしていたというのに弟は私が帰ってくると少し警戒した様子を示したのだ。だがそれも少しの間だけで直ぐに兄だと認識すればぴったりとくっ付くようになった。その様子に私は心底安心しながらホグワーツでのことやずっと興味を示していた魔法動物についてを話してやった。
周りからはそんな兄弟は居ないなんて言われたが別に構わない。居ないとしても私たちは”そんな兄弟”なのだから。こんな形であろうと完璧な兄弟で2人で1つだ。これまでもこれからもそんな関係を続かせる。それが私の使命であり生き甲斐だった。弟を─ニュートをこれからも私が面倒を見ていく。
僕は小さい頃から兄さんに憧れていた。でも、僕の気持ちが大きく揺らいだのはホグワーツを退学になった頃だった。入れ替わりでホグワーツに入りもうずっと兄さんの顔を見ていなかったのに、僕がホグワーツを退学になったと言うことを何処からか─恐らく両親が言った─聞きつけてキングズクロス駅まで迎えに来たのだ。暫く見ていなかった兄の大人になった姿に初めは兄だと気付けず訝しげに顔を見詰めたのを覚えている。そんな中兄は肩を上下させていて動揺を前面に出していた。
「…アー……、やぁ…兄さん……」
「……」
「その…ごめん、迷惑掛けちゃったよね……」
「…」
「でも、先生が味方してくれたから杖は守れたよ、ほら」
兄さんと一緒に見に行ったやつ、なんて言って懐から杖を取りだし兄に見せた。この5年間幾度となく杖に助けられたしよく使っていたがその杖は綺麗に手入れしてあったのもあって貝殻で作られた持ち手が美しく輝いていた。
「ニュート……」
ようやく兄が口を開いたかと思えばぎゅう、と抱き締められた。
「…ごめんね、兄さん」
仕事で忙しいのに…、なんて呟けば兄は首を振る。
「お前の為なら飛んでくるさ。…ところでニュート、全て話してもらおうか。」
「…え?」
「兄さんに全部話しなさい。」
「えっと…兄さんも聞いたでしょ…?」
「……兄さんを騙せると?」
兄は片眉を跳ね上げさせては僕をじっと見た。
「……えっ…と、何を言ってるのか…分からないな……」
「ジャービーを使った実験で生徒を巻き込んだ…だろ?」
「そうだよ、それだけ。」
「”誰の罪”を貰ったんだ?」
「……え?」
思わず肩口に埋めていた顔を上げた。すると兄もハグを解き向き合った。
「…立ち話だと長くなりそうか?私の家に行こう。」
僕の是非を聞く前に兄は姿くらましを使った。
「さて…さっきの続きだ、話してみなさい。」
兄は冷静にそう言えば紅茶をふよふよと浮かせて僕の前に着地させた。目の前に座った兄はやはり昔とは違っていて忙しいのか少し痩けた顔に鍛えられたのだろう躯体。シャツ越しでも分かる逞しい身体に息を飲んだ。
「…そんなに話せないことか?」
ふと、そう声を掛けられた。僕は弾かれたように顔を上げれば兄は眉を下げて此方を見詰めていた。
「私は分かってるんだ。ニュートが魔法動物を使った実験をしてそんな失敗をしないと。生徒を巻き込むくらいなら禁じられた森で独りでするだろう??」
兄の推測は多方正解だった。”そんな失敗”はする時はする。だが確かにそんなリスクのある実験を生徒のいる所ではしないのが僕だった。頷けるような推測に言葉を詰まらせる。
「お前の事だ、ホグワーツで出来た友人の退学が見てられず罪を被ったんだろう?」
「…怒らないの?」
「怒らないさ、ただ…少し残念だ。」
「どうして?」
「お前にもっとホグワーツを楽しんで欲しかったんだ。」
「……」
兄の思い出に耽る目を見て胸がザワつく。兄の昔はホグワーツ時代になったのだ。僕との日々ではなくなった事に柄にもなく嫉妬してしまったのだと、自分でそう解釈した。その嫉妬が何処から来たものなのかを探っていればまた兄が口を開いた。
「お前はいい子だからな、お前の友人がこの先何も起こさずに卒業する事を願っておこうか。」
大きな掌でわしゃわしゃと頭を撫でられると兄は腰を上げた。
「さて、私は仕事に戻るよ、ニュートは好きに過ごしなさい。空いてる部屋はあるだろうし…、そこに荷物を置いて少し過ごしていくといい。」
「…でも、」
「良いんだ、私と一緒にいれなかった時間の埋め合わせってことで…な?」
兄はそう言って子供っぽく笑えば姿くらましをして仕事に戻って行った。僕の頭には未だに撫でられた感覚が残っていて、数分の間その場から動かずボーッと兄が居た場所を見詰めていれば自然と兄の事が思い返される。
“ニュート”
“お前の為なら飛んでくるさ。”
“お前はいい子だからな、”
“私と一緒にいれなかった時間の埋め合わせってことで…な?”
兄の声、目、顔、身体…。何もかもが鮮明に思い浮かべることが出来て我ながら引いた。…そんなことよりも兄の存在自体に慕う気持ちや憧れる気持ちよりも兄弟という枠組みを超えた想いを持っていることに気付いた。さっきの嫉妬の気持ちだってきっとこの恋慕から来たものだろう。本当はこの結論に頷きたくは無かったがどの仮説よりも恋慕だと言った方が自分の気持ちがストンと落ち着いたのだから仕方がない。
「…僕を夢中にさせたのは兄さんなんだからね。」
ぽつり。
家主の居ない家で独り言ちては物があまり無いからか声が少し響いた。反響した自分の声に柄にもなく笑いを零す。この笑いは他でもない呆れの感情だと言うのは分かっていた。世話を焼かせてばかりで動物マニアで挙句の果てにホグワーツを退学になった出来損ないの弟が実兄に、なんなら将来有望だと謳われているエリートコース驀地の人に恋心を抱いているなんて話にならないのだ。僕でもそれくらいは分かっていた。分かっているけれど止められない。辞めとけと頭は言うけれど、掴まれた心はどう足掻いても抜け出せなかった。兄を求めて仕方がなかった。兄弟だからこれ以上は求めてはいけないと分かっているのに、兄が他の人にもこんな顔を向けているのが許せなかった。
「もうどうしようも無くなっちゃった…、どうしようも無いんだよテセウス…。」
僕は両手で顔を覆っては椅子の上に蹲った。この叶わぬ恋から逃れるためにも僕は荷物を持って兄の家を後にした。
その日から僕らはあまり話さなくなった。…と言うのも僕が一方的に避けてるだけだけど。離れて話さなくなったと言ってもあの頃から気持ちは1mmも変わって居なかった。無論、変えようと必死に努力はしたがどれだけ考えても頭が痛くなるだけで回りに回ってもっと兄へ想いを寄せるだけだったから辞めた。自分の心の中の争いに疲れたんだ。
「…こんなんでいいのかな。」
今最前線で戦っている兄を思い浮かべれば無意識に深いため息を吐いた。
「If told you, you’d know how to go and break my heart in two.ねぇ、テセウス。もし僕がこの気持ちを貴方に話せたらこの苦しさから解放されるかな?」
小さく呟くとより一層虚しさが増す事なんて知っている。それでも出さない想いの方が、無理矢理蓋をして忘れようとした方が苦しい事はもっと知っていた。
偶に魔法省で兄に捕まった時に何度もこの気持ちを言おうと思った。
「ねぇ、テセウス…」
「なんだ?ニュート。」
にっこり。人好きのする笑顔を僕に向けるから、外面の兄が僕の目の前に居るから。僕は口をぎゅっと結んで下を向いてしまうだけなんだよ。
「…早く離して。」
「……、すまない。疲れているもんな?」
本当に申し訳なさそうにそう言って離すものだから僕まで辛くなる。離してと言ったのは僕なのに、やっぱり離して欲しくないなんて言えない。そんな些細な気持ちでさえも話さず終いで、結局いつも同じ結末を迎えているのだ。
偶にする2人きりのディナーでも息が詰まって仕方が無い。
「そういえばニュート、今回の旅の収穫はどうだ?」
「……、まぁまぁだったかな。」
僕の話ばかり聞こうとしてくる兄に半分嫌気が差していた。
─僕を知ってよ、僕の本当の気持ちを。
もっと僕の顔を見て貴方の話を聞かせてよ。
公に出せない気持ちだってことはずっっっと前から知っている。それこそ、兄への想いを自覚した頃から。だからどう足掻いても”兄弟”だと言うことなんて分かってる。でも…
「…好きなんだよ。」
「……え?」
「…テセウス、僕、貴方が好き。」
「…ニュート…?」
「……僕だけのテセウスになって欲しい。」
「……随分と疲れたんだな、今日はもう休みなさい。」
「……ねぇ、」
「風呂は明日の朝入るといい。仕事に行く前にお湯を張っておくよ。」
「兄さん…」
「暖かくするんだぞ。」
「テセウス!!」
「ッ……」
「テセウス!!僕を見て!!もっと、もっと貴方の事を教えて!!!」
「……ニュー…ト……」
此方を向こうとする横顔がどうにも苦しそうで胸が痛む。
あぁ…どうして、どうして貴方がそんな顔をするの?
「駄目だ、ニュート。私たちは同性、増してや兄弟なんだから。」
「ッ……、じゃあ…、じゃあこの気持ちは何?同性、増してや実兄にこんな想いを抱くのは可笑しいって言うの?間違いだって言うの??」
「嗚呼、それは……行き過ぎた家族愛だ。」
「普通の兄弟はハグなんてするの?頬にキスするの?2人きりで…ディナーをするの…?」
「……」
兄は黙り込んだ。ベッドを整えるためか寝室に向けられた身体を此方に向けることも無く其の侭立ち尽くしている兄の背中は逞しくなかった。何かを恐れている様な、怖がっているような…、闇祓い局として働く兄の姿はそこには無く、兄としてのテセウスの姿。それでも僕は心做しか嬉しく感じてしまった。僕にしか見せない姿が何より大好きだった。
「…私達は兄弟だ。それ以上も以下もない……。」
「じゃあ、どうしてそんなに苦しそうなの?」
「私達は2人で1つだ、良いね?」
「そんなの……そんなのもう耐えられないよ、!!」
「ニュート!!」
兄が突然大きな声を上げた。驚いた僕は肩を跳ねさせて目を見開く。感情的になっていたからか気付かぬ間に立ち上がっていた事に今更気が付いた。
「私達は…2人で1つだ……」
ようやくこちらを向いた兄は何とも言えない苦しそうな顔をしていた。
あぁ、そうか、わかった。分かったよテセウス、僕らは同じ気持ちなんだね。でも、貴方は…、兄としての姿が正しいと思ってるんだ。これ以上は高望みだって、有り得ないんだって…。
「貴方は…テセウスは……、何も言えなくなるのが怖いの?」
僕のそんな問い掛けに兄は答える事無く部屋を後にした。
「…心を通わせる事くらい…してくれてもいいんじゃないの?」
ねぇ、テセウス。貴方はどうなりたいの?このままで本当にいいの?
その日からてっきり気まづくなると思っていたけれど、案外そんなこともなかった。顔を合わせればハグしてくるしキスをしてくる。僕の身を案じて長々と手紙を送り付けて来るしハグをした時に細かな変化にも気付いてお小言を零してくるのもいつも通りだ。
寧ろいつも通りじゃなかったのは僕の方だった。あの日からずっと兄の顔が離れなかった。今彼の顔を見たらまた同じことを繰り返してしまいそうで、顔を合わせる事無く床と視線を結び付けていた。
「…聞いてるのか?」
「聞いてるよ。」
「……はぁ、全く。」
突然、兄はわしゃわしゃと僕の頭を乱暴に撫でた。
驚きのあまり頭を勢いよく上げれば”兄”としての笑顔を浮かべたテセウスと目が合う。
「おかえり、ニュート。」
「……」
── その姿を僕だけのものにさせて。
そう口をついて出そうになったのを必死に飲み込めばその場から足早に撤退した。兄は追い掛けてくることなく─ただ背後から刺さる視線はもどかしかった─僕は家に戻った。
僕らはこのまま上手くやっていけるのだろうか。彼への思いは日に日に増していくだけ。それでも兄弟としての関係はだらだら続いていく。ずっとこんな感じなのだ。
「もっと早く気付けてたらなぁ……」
憧れる気持ちが恋慕に変わるのをもっと早く察知していれば……、なんて考えるもきっと結末は同じだ。その世界線の僕も今頃こうやってチェアに深く腰をかけて足を放り投げ、天を仰いでるに違いない。
「兄弟…ね。」
兄があんなにも苦しい顔をする理由を何となく分かった気がする。兄の疑念が晴れない理由、僕らが上手く想いを通じ合わせられない理由。それはきっと”兄弟”だからだ。兄もきっと行き過ぎた家族愛だと思ってるんだろう。そして僕のこの想いも。
「ほんっと…肝心な所で阿呆なの辞めてよね。」
僕はもう駄目なんだと思った。どう頑張っても、どう話をしてもきっとテセウスは「私達は兄弟なんだ」だの「私達は2人で1つだ」だのと言って話を締めるだろう。そう決め込めば梃子でも動かない兄を説得するのは骨が折れる。僕がこの気持ちを諦める方が100早い。
「…そんな簡単に諦められると思わないで。」
何も無い空間に吐き出した言葉は震えていた。諦めるしかないのに諦められないなんて馬鹿馬鹿しい。兄が僕を甘やかして生かせた結果だ。少しでも忘れられるかの賭けだが、好きな事をして気を紛らわすしかない。もう一度旅に出よう。うんと長いであろう旅は気になる魔法動物もおり、保護したい子も沢山いる僕としては丁度いいだろう。そうと決まれば早速行動だ。僕は荷造りをしながら何処から回ろうかと地図を広げた。
「……僕だけのテセウスになって欲しい。」
そういった弟の目は真っ直ぐに私を射抜いていた。
あぁ、よせ、ニュート。私の中の”獣”を引き摺り出そうとしないでくれ。
「……随分と疲れたんだな、今日はもう休みなさい。」
話はこれで終わりだと言わんばかりに席を立っては寝室へ向かおうと体を向ける。
「……ねぇ、」
「風呂は明日の朝入るといい。仕事に行く前にお湯を張っておくよ。」
それでもまだ呼びかける弟に話を辞めろと圧をかけるように被せる。
「テセウス…」
「暖かくするんだぞ。」
「兄さん!!」
「ッ……」
突然上げられた大きな声。弟の大声なんて滅多に聞かないものだから思わず立ち止まった。
「兄さん!!僕を見て!!もっと、もっと貴方の事を教えて!!!」
「……ニュー…ト……」
悲鳴にも近いソレは弟の本心なのだとありありと伝えて来た。
─私だってお前を独り占めしたい。
ニュート、愛してる。
この言葉を言えたならばどれ程軽くなっただろうか、苦しく無くなっただろうか。ギリっ、と奥歯を噛み締めては言ってはいけない言葉達を飲み込んで行く。横目で見える弟がどうも苦しそうで、お互い禁忌を犯したことを悔やむしか無かった。
ニュート、そんなに苦しい顔をしないでくれ、兄さんまで苦しくなってしまうよ……。
「駄目だ、ニュート。私たちは同性、増してや兄弟なんだから。」
出来るだけ穏やかに、諭すように口を開く。だがこうなった弟は梃子でも動かない。それは私だって知っていた。
「ッ……、じゃあ…、じゃあこの気持ちは何?同性、増してや実兄にこんな想いを抱くのは可笑しいって言うの?間違いだって言うの??」
「嗚呼、それは……行き過ぎた家族愛だ。」
私のように……、否、私だってお前に劣情を抱いているよ。それこそほら……今すぐにでも愛してると言い返してお前を腕の中に閉じ込めてその唇を奪ってやりたいほどには………。
「普通の兄弟はハグなんてするの?頬にキスするの?2人きりで…ディナーをするの…?」
「……」
“行き過ぎた家族愛”
誤魔化すのはもう無理かも知れない。そう頭で感じては言ってはいけないこの気持ちがどんどん溢れそうになる。この言葉を言ってしまえばもう戻れない。兄として生きていくことを放棄してしまう。それこそ弟と恋人になって過ごしていくのはとても幸せだし今すぐにでも言葉を返して付き合いたい。だけど、兄として弟には真っ当な道を歩んで欲しいのだ。
「…私達は兄弟だ。それ以上も以下もない……。」
「じゃあ、どうしてそんなに苦しそうなの?」
流石は学者、と言ったところか。微かな声の震えから読み取るその能力には完敗だ。
なぁニュート、今ならまだ戻れる。だからどうかその気持ちは勘違いだと思っておくれ。
「私達は2人で1つだ、良いね?」
もう、もう言葉を返すのを諦めろ。そうじゃないと私自身の制御が出来なくなってしまう。
「そんなの……そんなのもう耐えられないよ、!!」
「ニュート!!」
駄目なんだ、これ以上を求めるのは。一線を超えるために捨てなければならない物は五万とある。弟はそれを分かってない。……すまないニュート、兄さんがもっとちゃんとした”兄”なら良かったな。兄としてもっとちゃんとした愛を__いや、これからも今まで通りの兄として付き合えばニュートも家族愛だと分かるのでは無いだろうか?これは私たちなりの家族愛なのだと馴染ませるしか無いだろう。
そう胸に決めた私はあの日からも変わらずニュートを構い倒した。ニュートはずっと気まづ気に床に視線を着地させるしハグをしたり話をしようとしたらすぐ逃げて行く。理由は分かっていたから少し減るが積み重ねられたら流石に堪える。
「局長、最近元気が無いですね」
「…色々あってな。」
「大丈夫ですか?休養を…」
「……いいんだ。」
「ですが…」
「…それなら、君が話を聞いてくれないか?」
「……え、私が?」
「そうだ。君が。」
「…いいですが……」
「それは有難い。ほら、そこに腰を下ろして。」
「は、はぁ…」
よし、申し訳ないが私を心配して来てくれた部下に吐き出してやろう。少しスッキリするはずだ。
「実は私には想いを寄せる相手がいたんだ。」
「……えっ?」
「でも、私はこの立場だし相手も多忙の身だからあまり顔を合わせられないんだ。」
「ほう、」
「偶に合わせれた時は目一杯甘やかしてあげて労わってあげてってしていたんだ。そして半月前もそうしてあげた。すると事件は起こったんだ。相手から急に告白を受けてね。」
「おぉ!」
「……それに私は答えられなかった。私が相手の隣に今まで通りに立っていられるか不安で仕方無くて。もし私たちが恋人になった時に何かが違うと振られ無いかと不安で。それこそ、行き過ぎた友愛でしたなんて言われたらきっと私は二度と外と触れなくなるだろうな。」
「…」
「だから私は相手からの告白を振った。厳密に言うと答えなかった。するとやはり相手が気まづくなってしまったのか今まで通り接して来なくなってね。それはそれで辛くて仕方が無くて…なんというか、どうしようも無い状態なんだ。」
「……私が思った事なんですが…良いですか?」
「あぁ、勿論。価値観を共有するのも大切だ。」
「お相手さんはきっとどんな局長でも受け入れると思います。」
「…と言うと?」
「うーん…、振られたりはぐらかしたりされた後って本当に気まづいと思うんです。私だって死にたくなるほど気まづくなりますし…。それでもまだ局長と顔を合わせてお互いに触れ合っていると言うのは…どんな局長でも好きだということの現れなのでは無いでしょうか…?それと…局長と同じ想いだって分かっている…とか。」
「……私の気持ちを…分かってる…と?」
「は、はい…、ですが、あくまで私の考えですので…!」
「”貴方は…テセウスは……、何も言えなくなるのが怖いの?”と言われた。」
「…」
「その通りだと思ったんだ。相手と恋人という関係になったあとが怖くて仕方がないんだ。」
「完全に分かられちゃってる時点で局長の負けですよ。」
「……は?」
「分かられちゃってるのなら腹を括ってお互いに心を通じ合わせるしかないのでは?局長も相手のことが好きで、お相手さんも局長のことが好きとなれば尚更ですよ。」
「……」
「早く行ってきて下さい、私の負けだ、って言ってきてくださいよ。」
「……だが…」
「…躊躇う局長に一つ質問してもいいですか?」
「…なんだ?」
「そのお相手さんを他の人が貰ってもいいんですか?」
「なっ……!」
「ダメだって言うのなら今すぐにでもお相手さんの元へ行ってください。素敵なニュースを待っていますよ。」
「…分かった。」
そう言って僕は姿くらましをした。
「ニュート!!」
弟のフラットに姿あらわしをすれば一目散に叫んだ。数秒の後リビングから顔を覗かせた弟と目が合いズカズカと近付く。目を見開き気まづそうにした弟を両の腕で目一杯抱き締めてやった。
「…テセ──、兄さん……どうしたの?」
「好きだ」
「……え?」
「ニュートの事を愛してる。」
「…何を言っているの、僕たちは兄弟だ。」
「恋人として2人で1つにならないか?」
「……」
「私は勘違いをしてたようだ。」
「…」
「お前が、この恋を実らせてしまうと捨てるものが多すぎてやっぱり嫌だと私を突き放すのでは無いかと怖かったんだ。付き合った途端やはりこれは家族愛だなんて言って素っ気なくなるのが嫌だったんだ…。」
「……馬鹿だなぁ、ほんっと馬鹿だよ…テセウス。」
「…嗚呼、私は大馬鹿者だ…。」
「僕だってずっと大好きだったんだよ。テセウスしか僕に愛をくれてないのに、今更何を捨てるって言うの?」
「…ニュート……」
「ねぇ、僕の英雄になってよ。テセウス。」
「…嗚呼、喜んで。私の女神様。」
了