テラーノベル
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ここ数日、季節の変わり目の寒暖差に加えて、大型企画の撮影や編集が立て続けに重なっていた。
朝起きた瞬間から頭がズキズキと痛み、体が鉛のように重かったけれど、僕は「みんなに迷惑をかけたくない」の一心で、いつものようにオフィスへ出社した。
けれど、午後を過ぎたあたりから、視界がチカチカしてパソコンの画面がうまく焦点に合わなくなってくる。
河 ……あ、これ、ちょっと本格的にやばいかも……
少し離れたデスクから、ふくらはそんな河村の様子をチラチラと盗み見ていた。
一週間前ハーブティーを渡したときから、河村の小さな変化には誰よりも敏感になっている。
今日の河村は、明らかにキーボードを叩く手が遅いし、顔色もどこかおかしい。
ふ ……河村、やっぱり体調悪いのかな。声かけた方がいいかな
ふくらさんがそう思って席を立ち、河村さんのデスクへ向かって歩き出した、その時
限界を察した河村さんが、少し休もうとデスクを立って歩き出そうとした瞬間、急に視界がぐにゃりと歪んだ。
河 「あ、れ……っ?」
地面が消えたような感覚に襲われ、視界が真っ暗になる。バランスを崩した身体が、そのまま前のめりに崩れ落ちそうになった。
ふ 「――っ、河村!」
床に激突する、と思った次の瞬間。
強い力で僕の身体が引き上げられ、柔らかな温かさに包み込まれた。
ふくらが間一髪のところで僕の身体をその腕の中にガシッと抱きとめ、支えてくれたのだ。
河 「ふ、ふくら……?」
ふ 「大丈夫!? ごめん、ちょっとここで座って」
ふくらは真剣な表情で僕を自分の椅子に座らせると、僕が拒む隙も与えずに、その大きな手のひらを僕の額にそっと当てた。
ひんやりとしたふくらさんの手の温度が、熱を持った肌にひどく心地よくて、頭がさらにクラクラする。
ふ 「……やっぱり、すごく熱いじゃん。冷えピタとかって救急箱にありましたっけ!?」
ふくらさんの突然の大声に、オフィスの一角にいた東兄弟が敏感に反応した。
問 「あ、救急箱なら僕が持ってきます!」
言 「じゃあ僕は冷たい水持ってきます」
双子ならではの完璧な連携プレーで、問が一瞬で救急箱を持ってきて冷えピタを差し出し、言がテキパキと冷たい水を用意してくれる。
問 「河村さん、顔真っ赤ですよ。これ絶対に高熱です」
言 「ふくらさん、早く家まで送った方がいいんじゃないですか?」
「 ……あ、でもふくらさんもまだ作業残ってますよね。僕たち送りましょうか?」
二人の親切な申し出に、ふくらさんはなぜか胸の奥がモヤッとして、即座に「ううん、俺が送る」と少し強めに遮った。
ふ 「俺たちの家、同じ駅で一番近いから。俺が一緒に帰るのが一番。」
「何かあってもすぐ対応できる。俺が送るのが一番効率いいから」
問 「……効率?」
言 「同じ駅なら確かに一番近いですけど……なんかふくらさん、妙に必死じゃないですか?」
問 「ね。いつもなら『効率』より『みんなで手分け』って言うのに」
首を傾げてコソコソと囁き合う東兄弟の鋭い観察眼に、
ふくらは「とにかく、俺が送るから! 伊沢にあとの戸締まりよろしく伝えて!」と言い残し、河村さんのリュックを肩にかけた。
背後で、事情をすべて察している山本さんが「はいはい、東兄弟は余計なツッコミ入れないの笑。ふくらさん、河村さんをお願いしますね」と苦笑しながら二人を送り出す。
周りのメンバーを圧倒するほどの過保護スイッチが入ったふくらさんに引かれるまま、僕はオフィスを後にした。
・・・・・
タクシーの車内でも、ふくらさんは僕の様子をずっと気遣ってくれていた。
最寄り駅に着き、駅前のコンビニでポカリスエットやゼリー飲料を大量に買い込むと、そのまま僕の家へと向かう。
ようやく自宅の玄関の前に辿り着き、僕は鍵を開けながら、申し訳なさで小さく頭を下げた。
河 「ふくら、本当にありがとう。オフィスからここまで送ってもらっちゃって……。」
「もう家だし、一人で休めるから、ふくらはオフィスに戻って……」
ふ 「ダメだよ。一人で部屋で倒れてたら心配だし。」
「ポカリとか冷えピタを枕元にセットするまで帰らない。……ほら、早く鍵開けて?」
ふくらさんの瞳には、一ミリの迷いもなかった。
いつもなら「でも……」と言い返せる高学歴な僕の脳も、熱のせいで完全に思考停止している。
結局、僕はふくらさんに押し切られる形で、初めて自分の部屋へとふくらさんを招き入れることになった。
ふ 「失礼します……って、河村はすぐベッド入って!」
部屋に入るなり、ふくらさんは僕を寝室へと促した。
言われるがままにベッドに入り、布団を被る。
キッチンから、袋を片付ける音や冷蔵庫を開ける音が聞こえてくる。
自分のプライベートな空間にふくらさんがいるという異常事態に、心臓が熱とは別の理由でバクバクと激しく脈打っていた。
ふ 「はい、お待たせ。冷たいタオル持ってきたよ」
ふくらがベッドの脇に腰掛け、新しく冷やしたタオルを僕の額にそっと乗せてくれた。
ふ 「ゼリー、枕元に置いとくから食べられそうなら食べてね。他に必要なもの、言い忘れてることない?」
河 「……ないよ。本当に、何から何までありがとう、ふくら……」
申し訳なさと、それ以上の愛おしさで胸がいっぱいになり、視界が少し潤む。
ふくらさんはそんな僕の様子を見て、ようやくいつもの、ふにゃりとした柔らかい笑顔を浮かべた。
ふ 「よかった。……あのさ、河村。」
「これからは、何かあったらすぐ俺に連絡してね。俺たち、同じ駅なんだからさ。」 「俺、すぐ隣の家みたいなもんだし、連絡くれたら一瞬で飛んでくるから」
河 「っ……、うん……」
河 ……そんなの、もう好きになるしかないじゃん……
なんの他意もない、純粋な『優しさ』から紡がれるふくらの言葉は、僕の胸をこれ以上ないほど強く締め付けた。
ふくらの姿が完全に僕の特別になっていくのを自覚しながら、僕は布団に顔を深く埋めた。
ふくらは「じゃあ、ゆっくり休んでね」と、もう一度僕の額のタオルを整えてから、静かに部屋を出て行った。
バタン、と玄関のドアが閉まり、静まり返った自分の部屋。
額に残るタオルの冷たさと、枕元に綺麗に並べられた飲み物を見つめながら、僕は熱に浮かされたまま、ふくらさんのことだけを考えていた。
一方、河村さんの家を出て、自分の家へと歩いていたふくらさんは、夜風に吹かれながら自分の右手を見つめていた。
ふ(……なんか、変な感じだな)
河村の額に触れたときの手のひらの熱さ。自分の看病に、潤んだ瞳で「ありがとう」と言った河村のあの表情。
それを思い出すだけで、胸の奥がぎゅっと収縮するような、妙な胸騒ぎが消えなかった。
さらに頭をよぎるのは、オフィスで東兄弟に「僕たちが送りましょうか?」と言われたときの、あの強烈な拒絶感だ。
ふ ……なんで俺、あのとき問と言にイラッとしたんだろ。二人は親切で言ってくれたのに……
ふくらは首を傾げながら、いつもより少しだけ速い足取りで、自分の家へと急いだ。
コメント
1件
ふくらさんの過保護スイッチが入る瞬間、すごく良かったです!東兄弟に「効率?」ってツッコまれるシーン、思わず笑っちゃいました。河村さんが「もう好きになるしかないじゃん」って諦めにも似た気持ちで自覚するところ、胸がぎゅっとなりました。そしてふくらさん自身も最後に無意識の感情に気づき始めてる…この二人の距離の縮まり方、じっくり見守りたくなります。
Nozomi💜
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あお
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