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朝の教室は、少しだけ眠たかった。
窓から差し込む光が、机の上を白く照らしている。
詩夏は、ぼんやりと外を見ていた。
(……今日も、何も起きないといい)
そんなことを考えるようになったのは、いつからだろう。
『詩夏!おはよー!』
元気な声と一緒に琴音が席に座る。
『ねえ詩夏!昨日の筋肉痛やばくない?』
『たしかに』
『でしょー!』
笑い合う。
それだけで、少し気が楽になる。
でも——。
『おはよ〜』
少し遅れて、ちなが教室に入ってきた。
その瞬間、詩夏の胸がすっと軽くなった。
(……あ)
自分でも、はっきり分かるくらい。
(ちなさんがいる)
それだけで、「今日は大丈夫」だと思えてしまう。
昼休み。
詩夏と琴音は、ちなを挟んで机をくっつけていた。
『ねえちなちゃん!』
琴音が言う。
『今日さ、もし来たらどうする?』
『来たら?』
『ほら!悪者!』
ちなは、ストローでジュースをかき混ぜながら答える。
『いつも通りでしょ〜!』
その一言で、2人の肩から力が抜けた。
『…だよね』
詩夏が小さく息を吐く。
『ちなさんがいれば何とかなる』
ちなは、その言葉に一瞬だけ動きを止めた。
『それ、あんまり言わない方がいいよ』
『え?』
『私がいなくても2人は戦えるでしょ? 』
笑顔だった。
でも、どこか困ったような声。
琴音は首をかしげる。
『えー!でも実際そうじゃん!ちなちゃんめっちゃ頼りになるし!』
詩夏も頷いてしまう。
『安心…するんです』
正直な気持ちだった。
ちなは、何も言えなくなった。
放課後。
帰り道の途中で、空気が歪んだ。
『……来る』
詩夏が立ち止まる。
周囲の色が落ち、音が消える。
『うわ、今日は早いね』
琴音が苦笑いをする。
ちなは二人を見た。
『……行ける?』
『うん』
『大丈夫!』
即答だった。
詩夏は、氷を張る。
琴音は、火を灯す。
——でも。
『ちなさん!』
詩夏の声が先にでた。
『指示、ください!』
ちなは、はっとする。
(……あっ)
『右!』
反射的に叫ぶ。
その通りに動き、悪者は崩れた。
勝利。
いつも通り。
『よし!』
琴音が笑う。
『やっぱちなちゃんがいると違うよね!』
詩夏も無意識に言ってしまう。
『……ちなさんが居るから勝てました』
ちなは笑えなかった。
夜。
ちなは、自分の部屋で天井を見つめていた。
自分がいないと、2人が不安になる。
それは、守っているのとは違う。
(依存、させてる)
もし、ここで自分がいなくなったら。
2人は、戦えるだろうか。
答えは、分かっていた。
『……ごめんね』
誰に向けた言葉かは自分でも分からなかった。
翌朝。
詩夏は、登校途中でふと思った。
(もし、ちなさんがいなかったら)
胸が、ぎゅっと苦しくなる。
(……嫌だ)
その感情が、
危険だということに、詩夏はまだ気づいていなかった。
安心できる人