――冷たい。
それが、最初に感じたことだった。
『……っ』
琴音は、息ができなかった。
胸が、重い。
押しつぶされるような感覚。
目を開けると、空が見えた。
歪んだ空。
黒い影が、上から覆いかぶさってくる。
『あ、れ……』
身体が、動かない。
影が、ゆっくりと腕を振り上げる。
『ちょ、待っ……』
次の瞬間。
胸に、何かが突き刺さった。
『――――っ!!』
声にならない叫び。
熱いのに、冷たい。
視界が赤く染まっていく。
『しな……つ……』
名前を呼ぼうとして、
そこで世界が、途切れた。
『……っは!!』
琴音は、勢いよく上体を起こした。
『……はぁ、はぁ……』
自分の部屋。
天井。
いつもの景色。
夢だ。
そう思った瞬間、
胸に、ずきりと痛みが走った。
『……いたい』
手で押さえる。
もちろん、傷なんてない。
でも。
『……なんで』
涙が、勝手に出てきた。
『……なんで、泣いてんの』
理由が、分からない。
ただ、
「死んだ」
という感覚だけが、はっきり残っていた。
翌朝。
『おはよー……』
いつもより元気のない声で、琴音は教室に入った。
『……琴音?』
詩夏が、すぐに気づく。
『顔色、悪い』
『え、そう?』
琴音は無理に笑った。
『ちょっと寝不足なだけ!』
嘘だった。
詩夏は何も言わなかったが、
その目は、少し心配そうだった。
そこへ。
『おはよ〜』
ちなが、いつもの調子で入ってくる。
琴音は、その顔を見た瞬間、
なぜか胸が締めつけられた。
『……っ』
『? どうしたの、琴音』
ちなが首をかしげる。
『……いや』
琴音は視線を逸らした。
『なんか、変な夢見ただけ』
その一言で。
ちなの表情が、ほんの一瞬だけ凍った。
『……夢?』
『うん』
琴音は軽く言う。
『なんかさ〜
悪者にやられる夢』
詩夏が、はっと顔を上げた。
『……どんな』
『え?』
『……どんな夢、だったの』
琴音は少し考える。
『えーっと……』
言葉にしようとした瞬間、
頭が、ずきりと痛んだ。
『……よく、分かんない』
『胸、刺されて』
『しなつの名前呼ぼうとして』
『……終わった』
それだけ。
詩夏の背中に、冷たいものが走る。
ちなは、何も言えなかった。
(……見てる)
(前の、世界を)
その日一日、
琴音はどこか上の空だった。
授業中も、
休み時間も。
『……あ』
何度か、
『ここ、危ない』
という感覚が突然湧く。
でも理由は分からない。
『……変なの』
放課後。
3人で歩いていると、
案の定、空気が歪んだ。
『……来る』
詩夏が言う。
琴音の心臓が、跳ねた。
『……っ』
『大丈夫?』
ちなが小声で聞く。
『う、うん』
そう答えたけど、
足が、少し震えていた。
戦闘が始まる。
悪者が、琴音に向かって動いた瞬間。
『左――!!』
琴音は、考える前に叫んでいた。
次の瞬間、
そこを影が貫いた。
『……っ』
『琴音!?』
『だ、大丈夫……』
でも、本人が一番驚いていた。
『……今の』
(なんで、分かった)
ちなは、唇を噛む。
(……これ以上は)
(まずい)
戦闘は、いつも通り勝利で終わった。
でも。
『……ねえ』
帰り道、琴音がぽつりと言った。
『私さ』
『一回、死んだことある気がする』
詩夏が、立ち止まる。
『……何言って』
『分かってる、変だよね』
琴音は笑おうとした。
でも、うまく笑えなかった。
『でもさ……』
『すごく、怖かった』
ちなは、胸が痛くなるのを感じた。
『……夢だよ』
そう言うしかなかった。
『ただの、夢』
琴音は、うなずいた。
『……だよね』
その夜。
ちなはベットの上で横になってた
巻き戻すたびに、
記憶は消える。
でも。
感情は、消えない。
『……ごめん』
誰にも届かない声で、ちなは呟いた。
『でも』
『まだ、終われない』
翌朝。
詩夏は、ふと考えた。
(琴音は、夢を見た)
(ちなさんは……何も言わなかった)
胸の奥に、
小さな疑問が芽生える。
まだ、形にならない。
でも確かに、
何かがズレ始めていた。
夢の中で死んだ






