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家を離れしばらく歩いて来ると、
「……彼女のことは、辞めさせなければなりませんね…」
彼が半ば脱力したかのように足を止めた。
「まさか、あの近野さんがなんて……」
「……ええ」と、彼が頷く。
「以前にも同じようなことはありましたが、またこんなことを起こすなど……。恐らく、彼女が急に休んでいたのは、母に内状を報告をするためだったのだろうと……」
そこまで話して、歩道脇の石壁に気怠げに背中をもたせかけると、
「どうして、そんな風にしか……」
彼が呟いて、口を閉ざした。
……壁にもたれたままの彼が言いかけた、”そんな風にしか……“の後に続けたかったのは、
恐らく、”そんな風にしか、どうして関われないんだ”だったのだろうと……。
親子であるはずなのに──と、たぶんそう言いたかったのに違いなかった……。
「先生……?」
思わず呼びかけると、うつむいていた顔を上げて、
「ああ……少し、頭が痛くて……」
と、彼が自らの額に片手をあてがった。
「……どこかで、休んで行かれますか?」
壁際から腰を抱きかかえて支え、休むことのできるホテルのような場所を探し、彼に寄り添いつつ歩き出した。