駅前のビジネスホテルに入り、頭痛がするという彼の身体をベッドに横たえた。
額に落ちる髪を手で掻き上げようとして、熱があることに気づく。
「こんなに熱が……」
お母様の言動に、熱に苛まれるほど心を傷めていたのかと思うと、涙が出そうにもなるようだった。
「少し、眠っていて…」
疲れ切ったように目を閉じる彼に、ブランケットを掛けて、その顔を見つめた。
この人が抱えた苦しみを、少しでも私が受け留められたらと……そう思わずにはいられなかった。
寝息を立てる彼の顔からメガネを外して、サイドボードに置いた。
洗面所に行き、熱を冷ますためのタオルを水で濡らして戻ると、彼が体を起こして枕に背中を預けていた。
「まだ、寝ていられた方が」
声をかけながら近寄ると、
「……どこに、行ってたんですか?」
彼から細い声で心もとなく尋ねられた。
「あっ…洗面所へ。熱があったので、タオルで冷やそうと思って……」
答えた私に、不意に彼が腕を回し抱きついてきた。
「……独りにしないでください」
まるで幼い子供のように胸元に顔をうずめる彼に、熱が出て不安になっていることが感じ取れると、
「……寝ていて。ずっと、あなたのそばにいるので」
そっとまた身体をベッドに横たわらせて、片方の手をぎゅっと握った。
コメント
1件
相当、心を病んでしまっていますね。母親としての愛情を受けられなくて育ったと思うと悲しくなります。