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「ここどこ……?」
少年は首を傾げながらふらふらと歩く。しばらく歩いていたが疲れたので公園に入り、ベンチに座った。目の前には移動販売のクレープ屋さんがあった。生憎少年の頭の中にクレープという知識は無く、お金も持っていないのだが。
ぐぅぅぅ……
目の前の甘い匂いに刺激され胃が鳴る。
「……僕、お腹空いたんだ……まぁ、食べなくても死なないけど……人間の体に引っ張られるんだなぁ……」
しばらくベンチに腰掛けたままぼーっとしていると
「横、いいですか?」
と声を掛けられた。少年は特に声を掛けた主の顔も見ずに
「……あぁ……どうぞ」
と返す。声を掛けた少年____Mr.ブラックは隣に腰掛け、目の前のクレープ屋で買ったチョコクレープを食べていた。
「……それ、美味いのか?」
少年はブラックに問う。ブラックは少し首を傾げ
「まぁ……私は美味しいと感じますね。好き嫌いがあるとは思いますが」
と答えた。少年は再びしばらく黙って方が
「それなんて言うんだ?」
と再び問う。ブラックは今時知らないなんて珍しいと思いながらも答える。
「クレープです」
「……クレープ……」
少年はしばらく考え
「……なるほど……」
と短く呟いた。何かを思い出そうとしているようだ。
「……あぁ……なるほど、クレープね。思い出した、思い出した……何度か食べた事ある」
ブラックは内心ドン引きだった。自分より少し年上くらいのはずの少年が遥か昔の事のように話すのが気持ち悪かったのだ。
「……にしても今はあんなものまであるのか」
目の前のキッチンカーを興味津々で見る少年にブラックは違和感を覚えた。
(……このヒト……人間でしょうか……?)
目は光の当たり方が変わる度に赤に見えたり紫に見えたりする。纒う雰囲気もどこか人間でない何かである感じがする。
「……失礼ですが貴方は誰ですか?」
「僕……?僕はね……」
少年は少し考え込んだ。
(僕は人間じゃない……でも、僕は何者だ?今までどこに居て……何をしてたっけ……?)
水面に泡が浮かぶように湧いてきた記憶は夥しい量の分厚い書物。そして目の前を舞う紙の束。そして、誰かが自分を呼んだ声。
____風夜!
「“風夜”かな」
もう本人の記憶にも無いくらいの遥か昔。かつて“風夜”と呼ばれた少年はそう微笑んだ。