テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
帰宅すると、さっそく花斗はブロック遊びを始めた。どうやら、すっかりブームになったらしい。
キッチンには既に壱月がいて、なにやらボウルの中身を捏ねている。
出遅れた……。
今朝も出番なしだったエプロンを思い出し、肩を落として花斗の遊びに交ぜてもらう。
今日は持ち帰りの仕事もない。
「なに作ってるの?」
花斗に聞くと、花斗は指を差して教えてくれる。
「くうこうだよ。これ、ひこうきとまるところ」
なるほど、花斗の指の先には壱月にもらった飛行機と、壱月に拾ってもらった飛行機のおもちゃ。
道のように並べたブロックの隣には、高い塔のような建物(?)がある。
「これ、おうち?」
きっと我が家だと思い、質問するも「違う!」と早々に返された。
「管制塔だろう?」
いつの間にかボウルを抱えた壱月が背後にいた。
「そう、それ!」
花斗はわかりやすく顔を綻ばせる。
「よく知ってるな、花斗」
「ほいくえんでみたほんに、かいてあった!」
花斗のパイロット馬鹿ぶりが発揮されていて、私は思わず苦笑する。
「いつき、いっしょにやろう?」
花斗は話の合う壱月と、遊びたくなったらしい。キラキラの視線を壱月に向ける。
「ちょっと今は無理だなあ」
壱月は困ったようにボウルの中身を花斗に見せた。
捏ねていたのは、生のひき肉だ。
「それ、なあに?」
「ハンバーグのタネ」
壱月のその声に、私は立ち上がった。
ハンバーグなら、私もつくれる!
「壱月、代わるよ」
「え、でも……」
口ごもる壱月に、手を差し出す。
「エプロン、使いたいんだ」
そう言うと、壱月は一瞬目をぱちくりさせ、それから照れたように笑った。
「じゃあ、お願いします」
ボウルを私に手渡した壱月は、シンクへ手を洗いに向かう。
目の前では、花斗が「ハンバーグ~、ハンバーグ~」とハンバーグ踊りを踊っていた。
私はボウルを一度キッチンに置いて、部屋にエプロンを取りに行く。
部屋の姿見に映った自分が思ったよりもニヤけていて、私は両頬をペチペチと叩いた。
「できた!」
という花斗と壱月の声に合わせて、私もフライパンの蓋を外す。
形成して焼くだけならお手の物、だ。今まで、冷凍ハンバーグを何度焼いたことか。
「こっちも、出来ました」
盛り付けてダイニングへ並べると、「ああ!」という叫びがふたり分、聞こえた。
「え? ……痛っ!」
どうやら、ブロックを踏んだらしい。
「そこは、ママのお仕事のところ~」
足元を見ると、ブロックがリビングからダイニングまで、点在するように置かれている。
どうやらこれは、花斗と壱月がつくった、私たちの住む街の姿のようだ。
「おそらからみたら、こんなふうだよね!」
「そうだな」
花斗の声に壱月は頷く。そんな彼は腕を組み、なかなかうまく出来たとブロックの街を見下ろし子どものように顎を突きだす。
「いつきは、まいにちみてるよね!」
花斗はそう言って、キラキラした目で壱月を見つめた。
すると途端に、壱月が眉を八の字にする。
「……ああ、そうだな」
きっと、昨夜の話を思い出しているのだろう。
そんなちょっとした暗さを吹き飛ばしたくて、私はわざと丁寧に言った。
「すごいけれど、片付けてください。ご飯です」
すると、花斗は「ええー」と文句を言いながらも、箱にブロックをしまい始める。
イヤイヤ星人が現れなかったことにほっと安堵し、わたしは片づけを始めたの背中を見守る。
――パイロット馬鹿親子。
胸の内でそう思い、ついくすりと笑ってしまった。
コメント
1件
うわあ、この回、すごく温かいですね。花斗くんの「くうこう」作りに管制塔をしっかり加えるところが、もう立派なパイロットの卵って感じで微笑ましいです。そして「エプロン使いたいんだ」って言える主人公の心境の変化、読みながらこっちまで嬉しくなりました。最後の「パイロット馬鹿親子」で壱月さんも花斗くんも同じ枠に入れてしまうあたり、もう家族の形ができてるんだなあってほっこりします。
35
67
44