「ゆきが今まで何ともなく過ごせていたのはどうしてだか分かる?」
蓮が僕の隣に腰掛け、金色に染まった髪をいじりながらそう言った。
僕は質問の意味が分からず黙り込んだが、 蓮はその理由を言わなかった。
「話変わるけど、俺ずっと前からゆきとしたいと思ってたんだよね」
「何を?」
また首を傾げてしまいそうになるのを堪えていると、蓮が耳元で囁いた。
「…っ」
ぞわりと、全身の毛が逆立つ感覚を覚え距離を取った。
「今日は、逃がさないから」
蓮は笑顔でそう言い、僕の手を掴んだ。
「僕そろそろ帰… 」
ドンッと、僕の首の横に手を押し付けられる。
「逃がさないって行ったじゃん」
蓮は耳元で囁いた。吐息がかかるほど近くにいた。
「蓮、なにを…」
気づいた時には唇が重なっていた。
「んっ…」
抵抗しようとしても、壁に抑えつけられたまま何もできなかった。
口内に自分のものではない舌がが侵入し、唾液が絡み合う。
それは深い、キスだった。
「っ、はぁ…っ」
ようやく口が離れ、荒い呼吸をくりかえす。
心臓はうるさく鳴っていて、 体の力が嘘のように抜けていく。
「…」
蓮は僕のベルトを器用に奪い、ズボンを脱がせた。
「…あっ」
臀部にぬるりと指が這いずり、下腹部が疼きだす。
僕を見て、嬉しそうな表情を浮かべた蓮がもう一度唇を重ねる。
本気で抵抗すれば、嫌だと言えば、辞めてくれただろうか。そうだ、こんな無理矢理な行為に走ったくせに、僕が拒絶すれば蓮は辞めてくれただろう。蓮はそんな奴だ。
だけど僕は抵抗をしなかった。
…こんな事になるなんて、思わなかったな。
「あっ…ん、ぁ」
自分の意思とは関係なく漏れる声が、うるさく鳴る心臓の音が、鬱陶しい。
「可愛い」
「…んぁ…」
「ねえゆき、大好き」
蓮はまた僕を強く抱き締めた。
僕は何も言わなかった。
ただ、流れに身を任せていた。
気がつくと、蓮とベッドで寝ていた。
体に違和感を感じて、それは生々しくも先程の事を知らしめていた。
…腰が痛い。
僕は音をたてずにベッドから出て、放り投げられていた服を着た。蓮はまだ気持ちよさそうに寝ている。
「…」
家から出ると、辺りはオレンジ色に染まっていた。
もうこんな時間か、と帰路に向かい歩くが脳裏には蓮の姿が浮かんでいた。行為の間、蓮は何度も僕を好きだと言った。
「…わからない」
それがどう言う意味なのか、僕には到底理解できないだろう。
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