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翌日、いつも通りに登校すると何故か廊下は騒がしく教室の周りには人だかりができている。
教室に何かあるのだろうか。
人が多く中の様子が見えず、仕方なく入口付近にいた男子生徒に声をかける。
「ねえ、何かあったの?」
「えっ…あ……うん。中で喧嘩してる奴らがいるみたい」
数秒間を開け、はっとしたように返事をした生徒はすっと僕から目を逸らした。
「喧嘩…?」
「、うん」
背伸びして中を覗いても何も見えない。
「…なに?」
ふと横から視線を感じた。
「な、なんでもない!!じゃ、じゃあ」
突然顔を赤くしたかと思えば、焦ったようにそう言い走り去ってしまった。
…何だったんだろ。
彼がどいてできた隙間から教室の中が少し見え、固まる。
…京介?
急いで人ごみをかきわけ、その場に立ち会う。
そこには京介と、蓮がいた。
「何してんの、2人とも」
間に割って入りそう言えば、教室はしん、と静まりかえってしまった。
事情を聞こうと、京介の名前を呼ぼうとしたが顔を見て言葉をのんでしまった。
…めちゃくちゃ怒ってる。
京介は黙り込んでいるが、握りしめた拳が震えている。
「あはは。やっぱりゆきの前じゃ何も言い返せないんだ」
「…れ」
「ん?」
「黙れよ」
2人の間には火花が散っていて今にでも爆発しそうだ。 というか、こんなに怒っている京介を見るのは初めてかもしれない。
これはどうにかしないとやばい事になると思い、思考を巡らせる。
「なんで喧嘩してるか知らないけど、一旦落ち着…」
「落ち着いてられる訳ないだろ」
「ゆきは下がって見てれば?」
2人は牽制し合いながら、強い口調でそう言った。
確かに僕には関係無い話で、関係の無い人間に言われるのは嫌だろう。
「…分かった」
少し気分が悪くなった気がして、僕は逃げるように教室を出た。その時、 入口を閉じていた生徒が道を開けてくれた。
呼び止める声が聞こえたが、僕はそれを無視して歩いた。
騒ぎを聞きつけたのだろう駆けつけて来た木村と一瞬目が合った。
屋上のフェンスにもたれ、僕はため息ついていた。
立ち入り禁止の屋上に人影はなく静かで、吹く風が心地良い。
ぼんやりと、何故2人が喧嘩しているのかを考える。
「…もしかして、蓮のやつ…」
小さく呟いた言葉に、心臓がドクンと鳴った。 昨日の出来事がフラッシュバックされ、羞恥心でいっぱいになった。
「……」
僕は蓮のことを友達としか思っていなかった。それは今も変わらない。
問題は、蓮が京介にその事を伝えてしまったかもしれないということだ。
それなら京介が怒っている事にも納得できる。でも蓮はなぜ ああやって京介に喧嘩を売るんだろう。僕は誰にも言うつもりは無いし、穏便に済ませる事ができたはずなのに。
「…」
あの時、僕はどうすれば、どんな言葉をかければ良かったんだろう。
…どうせ死ぬのに、何悩んでんだろ。
僕はいつも通りの日々を望んでいた。当たり前の日常を繰り返すだけで、それだけで良かった。それ以上何も望んでいない。
ちゃんと、いつも通りの日々に戻れるだろうか。
いや、それは無理だろう。僕はもう、余命半年と言われた時点で普通ではないんだから。
「あれ、?」
視界がぼやけ、涙が零れた。
「なんで、」
頬を伝う涙は、何度拭っても止まらなかった。
「っ…」
どうせ、死ぬんだ。全部どうでもいい。どうにでもなればいい。そう思と、酷く胸が痛くなった。