俺は盗賊だ。
盗賊になった理由は簡単、貧相な暮らしでそうしざるを得ない環境で育ったからだ。
『なぁ』
『なんだ?俺に用か?』
誰かに呼ばれくるっと振り返る。ぶわっと広がる首元に巻かれたマフラーの裾、それに驚き相手はばっと少し後ろに下がる。
何か用があるからこちらに話しかけたのだろう?と腰などに付けられた宝石たちを少し揺らしながら壁に背中を寄せた。
『あぁ、まぁ簡単な依頼だよ』
『チッ』
舌打ちをする。音が響くもここは暗く誰も通らなそうな路地裏。
『どこに行けばいい?』
『ああ、えと』
相手は地図を取りだしここだ。と指を指す。最近は特に何も無くこういう依頼ばかりだ。
そのせいかあまり好きな行動が取れずイライラが溜まってばかりだった。
『ほ、報酬は弾む!』
焦るように言う彼に一言言ってやった。
『だいたいそうやって言って俺らを利用すんだよ』
耳元で呟きサッと横を過ぎる。
盗賊にはあまりものを頼まない方がいい、直ぐに依頼されたものを取りに行くために歩き出すが少し後ろ振り返った。
依頼者は驚いている。
『お代はこれくらいでいいな』
クスッと笑う。
盗賊にものを頼むと何か取られるかもな、それが現実。生きるために質屋に売ったりなんたりする。
そうしないとパンも買えないからな。
さすがに飯が食えなくてはこちらは困る。だからと言って食べ物は盗まない、対価にしては足りなさすぎる。
『ガラスか……高く売れそうだな』
奪ったものは小さなロケットペンダントのような形になった鏡の物だった。はじめは写真でも入っているのかと思ったがそういう訳でもなかった。
家族の思い出などを奪う趣味は全くもってない、逆に
『俺にも兄さんがいたからな』
そういう訳だ。大切な人は絶対に無くしたくない、そう思うだろう。それと同じだ。
鏡は結構いい物だ。質屋に出せばいい値段が着くと思う。
これくらい依頼を受けていれば金はあると思うだろうが、そうでも無い。
この星の船が少し動かなくなってしまった、そのため他の星からの輸入も難しく最近のものは値が高くなっている。
だからこそ俺は「報酬」と「奪ったもの」で生きてきている。いつかどこかの恨みを買うかもしれないが目の前の美味しい話に釣られたも同然だ。
死ぬよりこの生活で恨みを買った方がまだマシだ。
船さえ動けば依頼も増えると言うのに……なんて考えても意味もなくとっとと歩き出す。
あの豪邸か、と心で呟くもどうでもいいとにかくどうやって何を奪うのか、それしか考えられなかった。
『お前、もしかしてPhantomか……?!』
『……は?』
Phantomとは偽名を使って働く者、という意味がある。裏で俺はそう呼ばれているらしい。
『なんだ、お前』
不思議そうに首を傾げるも捕らえられそうになる。
『お前はあの有名な盗賊だろ?!』
『さぁて?なんのことかさっぱ』
大きく音が鳴り響いた。俺は頬が熱く冷たいものが流れたと触る。
殴られたのだ、血も流れ冷たい、最後までものは言わせて貰えないし意識は遠のくし依頼も達成できなさそうだし……最悪だ。
『まだやるのか?』
そう一言俺は言う。瞼が重い、頭が痛い、また蹴られて殴られて、完全に意識が飛んだ。
つまらない
ただそう思った。結局は依頼したいだけでこっちのリスクなぞ考えられない。
何か話して叫ばれている。このまま捕まえられるのか…退屈だ。
きっと罪を償っても盗賊を続けるのであろう。
『まて、この者は盗賊とは決まってはいない、証拠なんぞありはしないではないか』
ぼやけた頭でそれだけ聞こえた、意識は飛んだはず、だがこれもきっと頭の中の妄想であろう。
もし本当に誰かに助けられたのなら、この退屈を殺したい。
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