ギチョウの声を押し留めたのは力強く頼もしい声である。
「まあ、良いんじゃないか? ナッキが行くって言ってるんだからさっ! 改めて言うまでも無いがナッキは強いぜ? ちょっとやそっとじゃどうにも出来ないぞ? それでもまだ心配だってんなら俺が一緒に行くよ! な? それで良いだろ、みんな!」
この池で二番目に大きくて、王様のナッキと最も親しいヒットの言葉であった。
ギチョウがややトーンダウンした口調で答える。
「ま、まあ…… ヒット殿が一緒に行くと言うのであれば…… それであれば一種の示威(しい)行動とも取られるであろうし…… しかしっ! 我が国が軽く見られると言う可能性は――――」
「なら、おいらも一緒に行こうじゃないかっ! な、ナッキ、ヒット、それにギチョウさんよ? それなら文句は無いんじゃないのかい?」
その場に居た幹部たちだけでなく、茶褐色の異形、ザリガニのランプも突然登場した魚の姿に目を見張って黙り込むのであった。
その魚の名はウグイのティガ、『フーテンのティガ』であった。
『美しヶ池』でナッキとヒットに次ぐ巨体を誇るだけでなく、今や息子と娘が百匹を越え、その全てが自分以下、ブル以上の大きさに育った、ウグイ軍団を率いている紛う事の無い実力者である。
全身の所々を婚礼期独特の朱色に染め上げた姿はなんともビビットであった。
衆目が見つめる中、スーッと擬音が聞こえてきそうな感じで薄らいで行く朱色は、程無くして完全に消え去ったのである。
ナッキは思う。
――――婚礼色が消えて行く、って事はあれだな、今期の子作りが終わったって事だな…… んで、やる事が無くなったプラス軽くない賢者タイムで、珍しく働く気になった、って所かな? まあ、付いて来てくれるってんなら頼もしいし、別に良いかな
「ありがとうティガ、じゃあ三匹で行こうか! ランプさん案内を頼むね!」
『美しヶ池』最大戦力を誇る三匹が揃って行く気満々になっている事で、ギチョウも引き止める事を諦めたらしく、口調を改めて言う。
「判りました、お気をつけていってらっしゃいませ、ヒット殿ティガ殿、王様の護衛、お任せしますよ」
「留守の間の事はお任せくだされい、ご心配には及びませんぞ」
「そうね、その間の警備にはギンブナが総出で当たるから、ヒットも慎重にね」
「ブル達にも手伝わせましょう、アカネ達侍も回復次第加わってくれ」
「勿論です、ナッキ様、念の為ご用心を」
「安全保障に関わる事柄には慎重な対応でお願いしますね」
「まずは相手の戦力分析からですね、良くご覧になって来て下さい」
『王様、気を付けてね』
幹部達それぞれの言葉を受けたナッキは言う。
「じゃあ出発だよ、ランプさん行こう!」
「はい」
八本の足を素早く動かし、ずんぐりとした尻尾を上下に力強く動かして、迷いも見せず水路に向かうザリガニのランプの後を追い、ナッキ、ヒット、ティガの三匹は巨体を水路のトンネルへと潜り込ませたのである。
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