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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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深夜三時。
しぇるたーの廊下は、沈んだ水の底みたいに静かだった。
子供たちはもう寝ている。
時折、小さないびきが遠くで聞こえるくらいだ。
古い時計の秒針だけが、やけに耳についた。
鈴木は眠れなかった。
理由は自分でもよくわからない。
ただ胸の奥が妙にざわついて、水でも飲もうと廊下へ出た。
裸足のまま歩く。
床が少し冷たい。
階段を降りかけた、その時だった。
――玄関の扉が開く音。
静かだった。
けれど、夜の中では異様なくらい鮮明だった。
鈴木は反射的に身を隠す。
階段の陰から、玄関を見る。
暗い玄関。
薄い月明かり。
そこに立っていたのは、霧矢だった。
派手なパーカー。
濡れた金髪。
そして。
左手に、血。
ぽたり、と赤い雫が床に落ちる。
鈴木の呼吸が止まった。
霧矢は気づいていない。
……いや。
気づいているけど、どうでもいいのかもしれなかった。
霧矢はそのまま洗面所へ向かう。
蛇口を捻る音。
水が流れる。
赤が、排水口へ吸い込まれていく。
鈴木はゆっくり近づいた。
「……何してた」
鏡越しに目が合う。
数秒。
その沈黙のあと、霧矢がふっと笑った。
「あは。起きてたんだ」
「質問してんだけど」
霧矢は何事もない顔で手を洗い続ける。
白い指。
爪の隙間に入り込んだ赤。
それが妙に、この男に馴染んでいた。
「仕事」
「殺し?」
「まぁそんな感じ」
軽い。
あまりにも軽かった。
コンビニ帰りみたいな声で、人を殺したと言う。
鈴木は眉を寄せる。
「冬橋とは一緒じゃないの?」
「今回は別件」
霧矢はタオルで手を拭く。
濡れた金髪から、水滴が落ちた。
「監察の仕事」
「……監察?」
霧矢は少しだけ首を傾げる。
「あー、鈴木クン知らないか」
洗面台にもたれながら笑った。
「組織ってさ、裏切り者出るんだよね」
静かな声だった。
その静けさが、逆に怖い。
「警察に情報流したり、金横流ししたり」
「……」
「だから消す」
まるで、ゴミを片付けるみたいな口調だった。
鈴木は言葉を失う。
霧矢は続ける。
「合六サンの邪魔する奴、全部」
その瞬間。
鈴木はようやく理解した。
この男は、ただの構成員じゃない。
合六の“目”だ。
疑い。
裏切り。
綻び。
全部見つけて、始末する側の人間。
「お前……」
「ん?」
「冬橋も監視してんのか」
霧矢は少し黙った。
それから。
「まぁ、一応」
否定しなかった。
鈴木の眉間に皺が寄る。
「なのに一緒にいるのか」
「仕事だし」
「……信用してねぇってことだろ」
霧矢は少し考える。
そして。
「違うかな」
笑った。
「合六サン、冬橋サンのこと結構気に入ってるから」
「は?」
「冬橋サン優秀だし。しぇるたーの活動もイメージ的には良いし」
その言い方に、鈴木は露骨に顔をしかめる。
霧矢はそれを見て、楽しそうに笑った。
「怖い顔」
「子供利用してんのか」
「利用っていうか、共存?」
「同じだろ」
霧矢は少し黙る。
ぽた、ぽた、と蛇口から水滴が落ちる音だけが響いた。
それから。
「でもさ」
霧矢がぽつりと言う。
「汚い金でも、ガキは飯食えるよ」
鈴木は何も言えなかった。
否定できない。
しぇるたーの子供たちは、確かにここで生きている。
暖かいご飯を食べて。
布団で眠って。
泣いて、笑って、朝を迎えている。
全部、綺麗なお金でできた物じゃない。
霧矢は鏡に写った自分を見る。
まるで他人を見るみたいな目だった。
「綺麗なだけじゃ、生き残れないし」
その声は、妙に静かだった。
鈴木はふと聞く。
「……お前、冬橋のことどう思ってんの」
霧矢が瞬きをする。
「どうって?」
「なんで一緒にいるのってこと」
霧矢は少し考えた。
珍しく、本当に考えている顔だった。
「不思議だから」
「は?」
「あの人さ、人助けとか本気でやるじゃん」
霧矢は笑う。
「意味わかんなくて面白い」
鈴木は黙る。
霧矢は続けた。
「オレ、人の痛みとかよくわかんないんだよね」
軽い声。
でも。
そこに嘘はなかった。
「でも冬橋サン、他人のために怒れるから」
霧矢は少し目を細める。
「見てると飽きない」
その瞬間。
鈴木の背筋を、冷たいものが撫でた。
この男にとって、人間は観察対象なのだ。
理解できないから見る。
怒る理由を。
泣く意味を。
壊れる瞬間を。
興味深そうに。
ずっと。
「……気味悪いな、アンタ」
思わず零れた。
霧矢は笑う。
「あは。よく言われる」
その時だった。
廊下の奥から、低い声が落ちる。
「騒がしい」
冬橋だった。
寝起きらしく、髪も整っていない。
少し掠れた声で、二人を見る。
「……何してる」
「雑談ッス」
霧矢が答える。
冬橋の視線が、霧矢の袖についた血を見る。
一瞬だけ。
空気が止まった。
鈴木は息を呑む。
だが冬橋は何も聞かなかった。
代わりに、小さく息を吐く。
「子ども起こすなよ」
「はーい」
霧矢はいつもの調子で笑う。
冬橋はそのまま背を向けた。
けれど。
去る前に、一度だけ足を止める。
「直斗」
「はい?」
「……ほどほどにしとけ」
霧矢は数秒黙った。
その横顔から、笑みが少しだけ消える。
それから。
「善処しまーす」
軽い声。
いつも通りの返事。
でも。
冬橋がいなくなった後。
霧矢はしばらく、鏡の前で動かなかった。
流れ続ける水の音だけが、静かな洗面所に響いていた。
コメント
2件
第8話、読み終えました。霧矢の本当の立場が明らかになって、すごくゾクッとしましたね。「人の痛みがよくわからない」って平然と言うキャラって結構いますけど、そこに「でも冬橋サンは他人のために怒れるから見てて飽きない」と続けるところが、ただのサイコパスでは終わらない奥行きを感じさせます。冬橋の「ほどほどにしとけ」という諦めにも似た許容も、二人の関係の重みを感じさせて印象的でした。組織の“目”と“表の顔”って構図も面白くて、今後の展開がすごく気になります…!