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フェリーが港に横付けされ、俺らを含めて数人の客が降りて行った。出迎えてくれたのは自転車を傍らに、白衣を格好よく着こなしている、白髪混じりのメガネをかけた、タケシ先生によく似た人だったのだが。
(まんま、タケシ先生を老けさせたみたいじゃん!)
お父さんに向かって、ふたり並んで歩いて行く。ドキドキが高鳴ってしまい、手と足が一緒にカクカクと動きそうになってしまった。
「もしかして、診察の帰り道だったの?」
開口一番に話しかけたタケシ先生をお父さんはチラッと見てから、俺に視線が移される。明らかに、何だコイツはという眼差しが痛い。初めてタケシ先生に逢ったときにされたような眼差しが、違う意味で更に俺の心拍を高鳴らせた。
――懐かしさを感じるよりも、恐怖を感じるよ……
「ああ、元気そうだな。タケシ」
タケシ先生に話かけているのに、刺す様な視線は俺に釘付けのまま。震え上がる俺を尻目にタケシ先生は突然スマホを取り出して、あちこちの風景をカメラ撮影をしだしたのが、すっげぇ謎だ。緊迫したこの空気を物ともせず、マイペースを貫けるのは、タケシ先生らしいといえばそうなんだけど。
「変わらないねぇ、島も親父も」
「俺は変わらないが、そこにあった建物が昨年の爆弾低気圧で吹き飛ばされて、なくなっているから」
「あっ、ホントだ。スッキリしちゃった感あったのは、それが原因か。おおっ!? 島に似合わないイケメン漁師、発見!([+]Д・)」
「彼は元ホストだったそうだよ。今はちゃんと、島に馴染んで生活している」
交わされる他愛のない会話に、当然俺は口を挟めず、ただ黙って聞くしかなかった。
「元ホストね。漁師なんて博打みたいな仕事しないでホストに戻った方が、金銭的に生活が楽そうだけど」
「どんな仕事にも、楽なものなんてないだろう。コイツは誰だ?」
ビシッと指を差され訊ねられたので、タケシ先生が答える前に何とかしなきゃと頭を下げる。
「はっ、はじめまして、お父さんっ! 王領寺歩と言います」
「おとうさん?」
不機嫌そうな声色で言われてしまい、震え上がってしまった。
「す、すみませんっ。周防先生っ!」
言い直しつつ、隣にいるタケシ先生に視線を飛ばす。これで大丈夫? ねぇこれで大丈夫? ってな感じで。
「あんまり苛めないでやって。この体でウチの病院を支えてくれるであろう、未来の看護師なんだから。こんなんでガッカリしたんでしょ?」
「別に……」
肩を竦めて苦笑するタケシ先生と、俺から目を逸らして口元に笑みをうっすらと浮かべているお父さん。この顔は、タケシ先生がよくする誤魔化しの笑みなので、落胆しているのが決定的だった。
「ガッカリついでに、もうひとつ。俺たち、付き合ってるから」
・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)ズバッと言ったね。
内心冷や冷やしている俺に、仲よさそうな感じで肩を手に置き、わざわざアピールするタケシ先生。
「付き合っているって、何だそりゃ」
「親父が考えてるような、友達付き合いじゃないよ。コイツとSEXしてる。肉体的な深い関係なんだ」
「お前……」
<(゚ロ゚;)>ノォオオオオオ!! ナンテコッタ!!
あまりの衝撃的な発言にお父さん目を見開いて、固まってしまったじゃないか。一方のタケシ先生は堂々と発言できたのが満足だったのか胸の前に腕を組み、してやったりな顔をしていた。
「王領寺くん、君はタケシにいくらで雇われたんだ?」
「は――!?」
「雇われたから渋々こんなへんぴな所まで、コイツに付き合っているんだろう?」
「親父……コイツを雇ってないよ。れっきとした俺の恋人だ。それに王領寺家は、地元で名家だっただろう。故に金には苦労していないから」
不敵に笑ったタケシ先生が俺の首に両腕をかけて、強引に引き寄せたと思ったら唇を重ねる。しかも唇を重ねただけじゃなく、ねっとりとして濃厚なのを、お父さんの目の前でやってくれちゃって――
「俺たちはこういう関係なんだ。だからもう結婚だの孫だの言わないでくれ!」
呆然と立ち尽くすお父さんをそのままに、タケシ先生は俺の手を強引に引いて、山の方に向かって歩いて行った。
つづく